高く高くその手を掲げて!S・S・S~(セインステッキストーリーズ)よりAct11
ついに秘密を話す時が来た、あたしの正体を。
あたしは、未来から来た巫女。未来の美琴。
「美琴?お前は一体?」
魔虎の疑問に、あたしは答える。今は答える義務がある。
「マコ、よく聞いて。あたしは、ずっと未来から来たの。今よりずっと未来から。美琴の体を使って、ここに居るの。あたしね、マコやヒナと一緒に・・ずっとずっと一緒に生きて、生き抜いて、聖獣界の皇妃になれたの。今のあたしが居られるのは、マコやヒナが助けてくれたから。だから、今度は昔のマコやヒナを助けるのは獣皇妃となった、あたしの願い、想い。・・だからね、受け取ってくれないかな、あたしの絆を。」
美琴の瞳がピンク色に染まり、やがて栗色だった髪までがピンク色となり、
「えっ?何だ?これっ!?」
魔虎の前で美琴の体が何かの布で覆われて、
「おっ、おいっ、美琴!?」
魔虎が慌てて声を掛ける。
布が左右に分かれて、その中から出てきたのは・・・。
「じゃーんっ、美琴!登場っ!!」
真聖巫女の羽衣を着た(あたし)が、現れた。
「・・・・。誰・・・ですか?」
魔女王も魔虎も、姫那も目が点状態で訊く。
「うーん。久しぶりに着てみたら、結構可愛いじゃん。」
あたしは、ひらひらと羽衣を揺らして感触を確かめてみる。
「あ・・あの、ですね。どなた様で?」
西の魔女王魔儀鬼も、調子が狂って訊くのがやっと、
ーあ、ちょっと場違い過ぎたかな?-
「あの、美琴・・・さん?」
姫那まで、汗を流して訊く。
「あー。ごほん。私はピンク水晶の巫女、美琴です。」
大人の姿のあたしが、名乗った。
「なっ、なにぃ?ピンク水晶の巫女?だとぉ?」
魔女王が慌てて声に出す。その魔儀鬼を睨んで、
「西の魔女王マギキよ、あなたって昔から人質を取るのが、好きだったみたいね。ほんと、悪い女ね!」
あたしは、いけしゃーしゃーと魔女王に言う。
「?はァ?」
訳が判らないって顔で、あたしを見る魔女王に続けて、
「今は滅ぼさないけど、貴女はいずれ北の黒王ジキムと共に完全に滅ぼされる運命。私の騎士様によってね。だから、今はその娘を置いて引き下がりなさい。そうする事が賢明の策よ。」
あたしの言葉に、我に返った魔女王が、
「だっ誰が・・・巫女だろうがわらわに命令するなど、片腹痛いわ!この人質が目に・・・」
「超聖壊破波!」
<グワッガアアアンッ>
爆音が響き渡る。
闇の空間に、風穴が穿かれる。
あたしの有無を言わさぬ呪文で、
「ひっ!ひいいぃっ!」
魔女王が、恐怖に慄く。
「次は、当てちゃうわよ。」
あたしは瞳を、すっと細めて脅しを掛ける。
「ひっ、ひいいっ。やっ、やめてっそんなの喰らったら一撃で・・。」
「滅んでみる?」
さらに目を細めて凄む。(悪役だよ・・・これって)
「くっ、おっ覚えてろよ。この屈辱は・・・。」
「あー、解ったから。その娘を置いてさっさと帰りなさい。蜘蛛魔女王さん。」
あたしが右手を掲げて言うと、
「ちいいっ、くそぉっ!」
悪たれを言って、姫那を解放して闇の中へ戻って行った。
「どっ、どうしてっ!?何で奴を倒さないの?」
姫那が、あたしを責める。
「そうだよ、あいつを逃がしちゃったら、また姫那みたいな子が出るかもしれないのに。」
ーうん、解るよ。でもね・・。-
「姫那ちゃん、それで本当に良いの?他の人が滅ぼしちゃっても?自分の手で仇が討てなくてもいいの?」
「え?」
姫那が、顔を上げて訊く。
「姫那ちゃんは今、闇の世界から解放されて魔王姫じゃなくなったの。当然チカラは、魔法力は以前みたいに強くないわ。今闘っても、あの魔女王には勝てない。私の力に頼る事になる。私が魔女王を倒す事になる。今始めて会った者に勝手に倒されちゃったら、後々きっとあなたは、後悔する事になる。それでいいの?」
「ううん、やっぱりお父様の仇は、ワタシが討ちたい。」
「・・・・でしょ。今は無理でも、いつかきっと強くなって、強くなってから姫那ちゃん自身の手で本当の仇を討って。魔女王なんかじゃなく、お父様お母様を滅ぼした闇自体をその手で倒して。今はこんな事しかあなたに言えないけど、ヒナは強く、強くなれるから。私よりずっと強くなれるから。だって、私の大切な友達で何度も私を助けてくれる様になるんだから。」
あたしが姫那の両肩に手を添えて言う言葉に何度も頷いて、涙を零す姫那。
ーもう、大丈夫だよね。ヒナ。-
あたしは姫那からそっと離れて、魔虎の前にしゃがんで目線を合わす。
「魔虎ちゃん、苦しかったね。辛かったね。でも、もう休んでいいの。もう一人で闘わなくて、いいんだよ。大切な人が居るから、皆と一緒に生きて行けるから。だから、もう一人で苦しまないで。美琴も、姫那もずっと一緒に居てくれるから。」
あたしは、魔虎をそっと抱きしめて、
「私の大切なマコ。これからもずっとずっと一緒だよ。きっときっと強くなって私を守ってね。」
魔虎は、あたしに抱かれながら泣き出した。何かを見つけたかの様に、大切な事を思い出したかの様に・・・。魔虎が落ち着くのを待って、あたしはそのまま抱いてあげ続ける。
ーああ、もう直ぐお別れのときが来る。-
魔虎が泣き止み、姫那も傍に来る。
ーちっちゃな勇者さん達とも、お別れね。そしてあたしは美琴を含めて三人を・・・。三人の記憶を封じ込めないといけない。禍々しい過去と共に、大切な思い出と共に。どうしてあたしは、聖獣界の獣皇妃になったのだろう。・・お母さんもきっと、同じ様にしてくれていたんだろうな。こんな辛い、苦しい想いをしながら。-
「美琴のお姉さん。あの子は?」
「美琴はどうなるの?」
2人があたしに訊く。
「うん、返すわ。間も無くあなた達に。・・・美琴を宜しくね。お願いします、マコ、ヒナ。」
「はいっ、大切なお友達ですから。」
あたしは2人に、
「ありがとう。小さな聖霊師マコ、小さな聖教術師ヒナ。待ってるね、未来で。また逢おうね。」
そう言って右手を高く高く掲げて、
ーさよなら、ネクロマンサー魔虎ちゃん。さよなら、魔王姫姫那。あなた達は今から普通の人間、美琴が覚醒するその時迄三人は普通の女の子に戻って、幸せに過して。それが今の私、獣皇妃美琴の願いだから。-
「マコ、ヒナ!美琴をお願い!」
あたしは、美琴から離れる。右手を高く掲げたまま。
小さな時のあたしが見える。マコとヒナに抱かれて眠っている美琴が。
ーああ、お母さん。聖姫お母さんも、こんな気持ちだったのかな。辛い、辛いね。でも、これが獣皇妃の務め。魔によって変えられようとした過去への干渉の代償。・・・ねぇ、虎牙。これでいい?ねぇ、マコこれで許して。ねぇ、ヒナ・・ごめんね。私にはこれが精一杯。-
あたしはピンク水晶の光で聖杖と一つになって、
「聖思記結界!」
魔虎、姫那、美琴に青白い光が注がれる。
「あっ、ああっ?」
「うっ、ん・・・」
魔虎と姫那は、美琴と共に眠りに付く。作り変えられた記憶と共に。聖教術師となったヒナの造った記憶と共に。
・・・・・・・・・・・・・。
「んっ、んんっんーっ。」
あたしは、ベットの中で目覚める。
ーあ、帰ってきたんだ。-
立派な寝台の中で、むくりと起き上がる。
「お帰りなさい、皇妃。」
あたしの傍に、教祖が居る。片方の瞳が美しい金色をした女官。
「んー。ただいまぁ。」
あたしが、背伸びをして答えると、
「おーっ、どうだった?旨く言ったか?」
長い髪を腰の辺りで束ねた、もう一人の女官が近付いて訊く。
その右手の甲には、ピンク色をした紋章が浮かび上がっている。
「うーん、まあね。」
あたしが少しとぼけて答えると、
「まあねって・・・旨くいかなかったのかよ。」
その女官が問い質す。
「そうじゃないよ、ちょっと辛いなって思っただけだよ。・・・記憶を上書きするってのって。」
あたしがベットから出て、上着を羽織ながら答えると、
「皇妃、ワタシの記憶操作に問題がありましたか?」
ふっと、女官があたしに問い質す。
「え?ないない。そんな事無いです。」
慌てて手をぶんぶん振って否定する。
「んじゃあ、辛いって何だよ。美琴!」
紋章の付いた右手で、あたしの肩を掴んで訊かれる。
「んーとっ、やっぱり小さな子の記憶と、力を奪っちゃうのって気が引けるし、お母さんもこんな想いしてたんだなって思ったらさ。ね、マコ。」
あたしの答えに、
「そっか。お母さんも、聖姫さんも同じだったよな。」
「うん。多分ね。」
あたしは服を整えて、
「じゃあ、任務完了って事で、あたしは獣皇様に報告して来るから。後はよろしくね、ヒナ。」
片方の瞳を金色に輝かせた女官に告げる。
「ふふふっ、美琴。嬉しそうね、虎牙兄様に逢うのが。」
ヒナが右手を伸ばして高く掲げる。
「ほんと、デレデレだな昔から、お前は。」
そう言うマコもヒナと手を合わせる様に紋章の浮かぶ手を掲げる。
「いーもん、デレデレで。だって・・やっと出来たんだから。この子が。」
そう言って、あたしはお腹に手を当てる。紅くなった顔をして。
「へー、へー。羨ましいよ、美琴は。」
「そーですぅ。です・・ね!」
2人はあたしを見て微笑む。その二人の手に、あたしも一緒に手を添えて、
「よーしっ、これで三人の絆は守れたぞ(です)。」
と、ハイタッチを決めて、笑い合った。
超絶魔法で、西の魔女王を引き上げさせた獣皇妃美琴。彼女の任務は完了した。
そして、今。白猫堂にて、記憶を消す筈だった2人に記憶が蘇る。
次回、最終回・別れと出会い・・そして。
次回も読んでくれなきゃ、駄目よーん!x2(さば・と、美琴さん)




