高く高くその手を掲げて!S・S・S~(セインステッキストーリーズ)よりAct9
ケンパの危機に三人娘が駆け付ける。
魔獣鬼に対して、闇の力を解放する姫那。その力は魔王そのもの・・・。
「ケン!」
姫那が、ケンパに走り寄る。
息絶え絶えのケンパは、
「姫・・・様。どうして戻られたのです。あれ程お逃げ下さいと、申しましたのに。」
苦しい息を吐きながら、ケンパが咎める。
「味方を、助けを呼んできたの。来てくれたのよ、魔虎ちゃん達が!」
「え?ネクロマンサー殿が・・・達?」
ケンパが姫那の後を伺うと、そこには紫色の輝きと、
「うっ、嘘だっ。その光は・・・ピンク色、聖獣界の巫女の光。」
ケンパの瞳に、水晶の光が目に映る。
ー魔獣鬼、コヨーテの魔獣鬼。礼を言います。良くヒナの事を守ってくれましたね。あなたは十分に光を授かるに相応しい働きをしてくれました。さあ、あたしからのお礼を受け取ってね。-
ケンパの瞳に、直接巫女の声が注がれて、
「あっ、ああっ、あああっ!」
ケンパが絶叫する。魂の叫びを。
「ケン!どうしたのっ?苦しいの?しっかりして!!」
姫那が慌ててケンパに抱き付く。そんな姫那に、
「姫・・様。姫様、私は。私めは、呪から解放されました。邪な呪いから。これでやっと姫様と同じ半人間となれました。あの方によって・・。」
ケンパが指差すのは、ピンクの瞳をした、
「美琴・・が?」
「そうです、あのお方は・・・。」
ケンパが美琴に今宿っている者の事を告げようとした時、
ー闇が来た。邪で強い闇が・・・・。辛いけど、これはヒナの為。そしてコヨーテの獅騎導士ケンの為。あたしは手を出せない。手を差し伸べてはいけないの。ごめんね、ヒナ。ごめんね、ケン。許して、なさけないあたしを・・ゆるして。-
ケンの心に巫女の言葉が響いたのは、ケンパが身を挺して姫那を守った時だった。
「がはっ!」
ケンパの口から血が吹き出す。その血が、姫那の服を濡らす。
姫那の前に、飛び出したケンパの背後から黒い触手が貫いていた。
「ケ・・・ン・・?」
姫那は瞳の光を失って、名を呼びかける事しか出来なかった。
「姫様。どうか生きて、生き抜いて下さい。私が再び会いに行くまで・・。それまで・・待っていて・・下さい。」
<ドシュッ!>
ケンパにトドメの一撃が加えられた。
「ケ・・ン?・・ケン!ケンパぁ!!」
姫那が叫ぶ。ケンパは触手に突き上げられて、姫那達が見ている前で粉々となって消え去った。
「あっ、あっああっ!ケン、ケンパ。」
粉々となって散ったケンパの粉が、姫那の手の平に舞い落ちた。
「うわっ、うわあああーっ。」
ケンパの粉を抱きしめて、くずおれて泣き出した姫那に、闇から声が投げ掛けられた。
「くっくっくっ、魔王姫よ、どうだ下僕を失った気分は。」
姫那に屈辱を味合わせる。
「お前がやったんだな。魔獣鬼!」
魔虎が姫那を庇う様に、前に進み出る。
「そうだ、小娘。裏切り者の魔獣鬼を、始末したにすぎん。それより魔王姫を、滅ぼす邪魔をするな。」
「そんな事、させる訳ないだろーが!」
魔虎が、右手を高く掲げて魔法陣を出現させる。そして黒使徒を呼ぼうとした時、その手を掴む者が、
「待って、魔虎ちゃん。そいつは、斗牛鬼だけは、ワタシが倒す。倒したいの!」
右目を金色に輝かせた姫那が、魔虎を止める。
「・・・。解った、姫那。」
右手を降ろして、魔虎が頷く。
ー怒りに我を忘れちゃ駄目だよ。-あたしは何時でも呪が放てる様に詠唱に入る。
姫那は、髪を逆立てて右手を突き出す。
「くっくっくっ。何の真似事ですかな、魔王姫。」
斗牛鬼は、小娘と侮って余裕を見せる。・・だが。
「許さない。許せない。よくもケンパを、ワタシの大切な友達を。ケンを・・ケンを返せぇっ!」
姫那が怒りに任せて全力で放ったのは、
「なっ!何だと!馬鹿なっ!?」
斗牛鬼は、何が起きたのかを理解出来る筈無かった。有り得ない力を、魔法陣から放ったから。それは邪の頂。魔王の力。
「闇の流星!」
姫那が放ったのは、西の魔王が受け継ぐとされる魔術。辺り一面に闇の中から巨大な隕石が落ち、炸裂する全滅魔法。これを喰らっては、譬え黄金騎士だとて無事ではいられない。
ーやっぱりね。こーいう事か、ヒナのやつ。・・無茶苦茶だなあ、昔っから。-
あたしは、美琴の体を使って呪を解放する。美琴の右手の上に、巨大な魔法陣が現れて、
「聖光壁!」
光の壁で魔虎と、姫那を守る。
<ドゥゴオオオッ>
地響きを立てて、隕石が墜ちる。
斗牛鬼は、隕石の爆裂の中で消え去った。
<シュウウッ>
辺り一面、クレーターだらけの中で三人の少女が立ち尽していた。
「ケン、仇は討ったよ。」
姫那はそう言うと、気を失ってしまった。
「姫那!」
魔虎が走り寄って、姫那を抱き起こす。
「無茶苦茶だろっ、姫那。」
そう言って、顔に掛かった髪を撫でて直す魔虎に、
「マコ。本当の闇が、強大なヤツが来るよ。」
あたしは、美琴の口を使って警告を発する。
「え?何だって?美琴。」
姫那を抱いて振り返った魔虎の後に、ぽっかりと闇の門が開いた。
「くっくっくっ、魔王姫姫那。お久しぶりね。」
そう言ってゲートから出てきたのは、長い八本の足をガチャつかせて現れた。
ーそっか、コイツがヒナのお父さんを・・・そうだったのか。もっと早く気付いていれば。ごめんね、ヒナ。-
美琴の瞳が、ピンク色に水晶の輝きを増す。
「お前は誰だ!姫那に何の用だ。」
魔虎が、魔女王に吼える。
「あらまあ、誰かと思ったらチビのネクロマンサーじゃない。わらわの邪魔はしないでね。そこの小娘も・・。・・・って!まさかっ、お前はっ!」
西の魔女王は、美琴を見て感づいた。こいつは大変だと・・・。
「くっ、どうしてここに巫女が居るのだ。ええいっ、邪魔はするなっ。この剣は魔獣界での話だ、手出し無用!」
焦った魔女王は、姫那に向って呪を放つ。
「黒い炎弾!」
だが、
「喰い破れっ、黒虎っ!」
魔虎が、黒使徒を放つ。
「ガオルルッ!」
黒虎が、炎弾もろとも蜘蛛女の足に喰らい付く。
「うっぎゃあっ!」
堪らず魔女王は、呻く。
「こっ、小癪な小娘めっ!お前から先に消し去ってやるわ。」
魔女王は、次々に呪文を放つ。
「黒い氷」、「黒い矢!」
西の魔女王の連続攻撃が始まる。しかし、そのどれもが黒虎によって喰らい破られる。
「くそオっ!小娘の分際でえっ!」
怒りに我を忘れた魔女王は、最悪の呪文を唱える。
「ひっひっひっ、こいつならどう?超暗黒大火弓!」
超巨大な炎の矢が数百本現れて、魔虎に目掛けて打ち出された。
ーあっ、危ないっ。マコ!-
あたしは咄嗟にマコを守ろうと呪を放ちかけて、姫那の動きで止めた。
ー姫那!?ヒナ!!-
姫那はふらりと立ち上がり、髪を靡かせて手を差し出す。その先には魔法陣が・・。先に使った魔法陣とは全く違う法文字が描かれた輝きの。
「姫那っ!やめろっ、危ない!」
魔虎が、姫那を庇おうとして手を指し伸ばすが、
「聖障壁!」
魔虎と姫那の前に光の壁が現れて、炎の矢を防ぐ。
「姫那、お前。その呪は?光の・・・聖なる光の呪文!」
ーああ、ヒナ。良かった。これでヒナも邪なる呪いから解放されたんだね。さて、後は・・・。-
「姫那、お前はもう闇から解き放たれたんだ。良かったな、本当に・・。」
魔虎が嬉しそうに、姫那の手を握る。
「え?ワタシが?闇から解放された?」
「そうだよ。そうだよなっ!ミコト!」
魔虎は、何かを感づいている。美琴の発音が違った。
ーあっちゃー。さすがマコ。昔っから、鋭かったんだね。気付かれたかな、美琴の正体が。-
闇から解放された姫那。
父の仇、西の魔女王マギキと闘うには力が足りない事に気付き、応援を頼む。
その依頼を受け、供に闘う魔虎。しかし、魔女王は卑劣な戦法に出る。
次回、新たなる使徒。
次回も読んでくれなきゃ駄目よーん!




