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月夜の段  作者: 東京 澪音
2/3

約束の場所


色々と思い出していた。


僕らは一度二人で山へ遊び行き、奥深くまで迷い込んでしまった事がある。


運が良かったのは、僕らは森へは入らず道に沿ってひたすら歩いていたため、遭難するような事にはならなかった。


歩き疲れて偶然見つけた東屋で休んでいる所を、登山者に発見され、車で下山出来た事も大きい。



僕らが迷い込んだ場所は樹木が鬱蒼と生い茂り、昼間だというのに太陽の光も届きにくい場所であった。

そこに突然現れた山小屋。


その場所だけは開けていて、日の光が差し込んでいた。


山小屋とはとても言えない東屋にたどり着い時、心細さから彼女は泣いていた。

僕は彼女を勇気づける為懸命に励ましていたのを覚えている。


あれは何処だったのだろうか?

僕はインターネットを使い、思いつく限りのキーワードを入れ検索してみた。


ヒットした!

ありがたい事に写真もアップされている。


僕はそこから当時の記憶をたどり、画像を丁寧に調べていく。


” 月夜の段 ”


ここだ!間違いない。


僕はそこを覚えている。

その美しいまでの斜面と、東屋に隣接して立てられた杭。


確かにここだ。

僕らはあの日ここにいたんだ。


曖昧だった記憶が蘇ってくる。


僕は彼女の手をとり、何か約束したんだ。

小さい子供ながら、それはとても大切な約束。


僕はアルバムから彼女の写真を一枚抜くと、山梨県南部町の地図にしおり代わりに挿んでしまった。




8月30日。

僕は山梨県南部町に向かう為、車で家を出た。


僕が住む街からは東名高速道路を使い、富士川サービスエリアで東名を降りる。

そこからは、富士川に沿って国道52号線を北上していくだけだ。


一日早いのだが、そこでよりリアルに当時を思い出す為、宿をとっていた。


宿は南部から少し離れた場所にある下部温泉と言うところに予約を入れている。


昼前に家を出て、山梨県にたどり着いたのが午後3時。

僕は52号線沿いにある道の駅とみざわにいた。


僕はここを覚えている。

僕の記憶が正しければ、この西側に小学校があったはずだ。


そう、僕らが通っていた小学校が。


僕は車を駐車場に止めると、道の駅とみざわの西に歩く。


あった。

近隣は少し景色が変わったものの、小学校は確かに存在していた。


僕はここに小学4年まで通っていたんだ。

少し懐かしくもあり、僕はしばらく校舎を眺めていた。


僕が住んでいたのはここから少し下ったところ。

国道52号線を北に向かって走ってくると、左に入る道がある。


珍竹林と言う喫茶店とコンビニが目印だ。


そこを左に曲がり、一つ目のT字路を左に曲がる。

後はひたすらその道を山奥に向かって進みめばいい。


あまりにも遠い為、僕らは小学生までバスで学校に通っていた事を思い出した。


802号線の奥の奥。


徳間と言うバス停で乗り降りしていたのを覚えている。

その近くが僕が住んでいた場所。


周りに遊ぶ場所も少なく、友達の家からも遠く離れていたため、僕らは必然的に一緒に行動する事が多かった。


学校でもずっと一緒で、同じクラス。

僕らにとってそれが当たり前だった。


一番身近な異性。

彼女を好きになるのに理由はいらなかった。


僕の記憶はより色濃くなっていく。

一日早めにここへ来たのはやはり正解だったらしい。


でもまだ一つだけ思い出せない事がある。

それはあの時に交わした約束の事だ。


彼女はあれからずっとその約束を覚えていて、10年もの間この時を待っていてくれたんだ。

それに引き換え僕はどうだ?


彼女の存在を思い出したのもつい最近で、今だ約束の内容を思い出せないでいる。

何かとても大切な約束だったはず。


僕は地図の間に挿んだ彼女の写真を見る。


しばらくすると小学生が校舎から出てくるのが見えた。

時間は午後3時20分を回ったところだった。


僕は旅館のチェックインの事を思い出し、慌てて車を道の駅から発進させる。

ここから下部温泉まで約30分。


ギリギリだな。


彼女と交わした約束。

僕はそれだけを考えながら下部温泉にある宿に向かった。

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