はがき
8月21日。
晴れ。
今日僕はめでたくも二十歳の誕生日を迎えた。
郵便ポストに来ていたはがき。
これで3年連続だ。
はがきには差出人の住所氏名が書かれていない。
”お誕生日おめでとう。”
それだけが書かれた簡素な内容だ。
でも今年は違ったんだ。
はがきにはこう書かれていた。
お誕生日おめでとう。
憶えていますか?
8月31日、約束の場所で待っています。
8月31日?約束の場所?
僕は首をひねる。
もう一度手紙を確認してみる。
すると消印が山梨県となっていた。
山梨県・・・か。
僕は台所で片づけをしている母に尋ねてみる。
「母さん、僕宛に来たはがき、消印が山梨になってるんだけどさ、なんか知らない?」
母は僕のはがきを手に取り裏表見る。
「こりゃ、女の子の字だね。誰がアンタ宛に手紙を送ったかなんて見当もつかないけど、アンタが小学4年生まで私たち山梨県の南部町に住んでたでしょ!忘れたの?やだわ、若年性健忘症かしら(笑)」
そう言うと母は手紙を僕に返し、台所に消えてった。
そうだ!
僕は小学校4年生まで山梨県の南部町に住んでいたんだ。
少しづつ記憶が蘇ってきた。
父の仕事の都合で引っ越したが、間違いなく僕は山梨県に住んでいた。
僕は部屋の書棚からアルバムを出すと、当時の写真を探し始めた。
しばらくすると小学校の写真を見つける事が出来た。
・・・あった!
遠足の写真や、川遊びをしている写真、こうしてみていると色んなことを思い出す。
この遠足の場所は身延町のふるさと工芸だ。
憶えてる!
遠足の時にはしゃぎ過ぎてお腹が空いてしまい、こっそり早弁したのがばれて怒られた事があった。嫌な思い出だが、その時の写真とかもある(笑)
この川は確か福士川だ。
とても綺麗な川で、よく沢蟹やアユを捕った事を思い出した。
ビーチボールで遊んだこともあったな~。
懐かしさに胸が躍った。
当時の友達の事も覚えている。
モノクロだった記憶に段々と色がついていく。
ペラペラとアルバムをめくり、最後の一ページで僕の手が止まる。
・・・この子。
家の隣に住んでいた同い年の女の子。
毎日一緒に学校に行って、毎日遊んでいたな。
僕は彼女を覚えている。
鳴沢 舞。
僕が好きだった女の子だ。
彼女はとても優しくて物静かな女の子だった。
頭もよくて、クラスでも彼女の事を好きな連中は沢山いた。
そう、いつも僕らは一緒だった。
僕は小学4年生の夏休みを最後に、山梨県から引っ越し現在に至る。
初めの頃は彼女と手紙のやり取りもしていたんだ。
でも大きくなるにつれ、段々とそのやり取りも減り、僕らは疎遠になってしまった。
主には僕が返事を書かなくなったのが原因だけど・・・。
山梨県で僕の家の住所を知っている知り合いなんて、間違いなく彼女しかいない。
僕は当時自分が住んでいた住所を調べると、31日にそこへ行ってみようと思い立った。
20代の初めての夏。
僕は何か素敵な事が起こりそうな予感を感じていた。