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まるで、走馬燈のような。  作者: 鞠谷 磨織
6/8

過去

 中学生になって二ヶ月ほどたったある日。


「おはよ〜っ」

「よっす」


 みゅーとキョーは、先に部室にいた。


「おはようございます」


 部室といっても、空き教室を勝手に使っているだけなのだが。

 普段は朝の活動はない。だが、今日はなぜか呼ばれた。


「今朝の活動は?」

「本作ろ」

「絵描く〜っ」


 みゅーは手を振りあげた。


「本?」

「部誌」


 キョーは簡潔に答える。


「なぜ、急に?」

「文芸部はマオ一人だからさ、一緒に作れたらなって思ったんだけど」


 なぜかこの学校の文芸部は、所属している七人のうち三人が幽霊部員、二人不登校、一人は留学中という、ほとんど実体のないものだった。

 2年前まで、部誌は不登校と留学中の生徒たちが漫研と共同で制作し、漫研会員がいつの間にか配布場所に設置していたが、現在の部誌は漫研だけで制作していると思われていた。

 文芸部のことを知るものは少なく、教師にすら忘れ去られかけていた。


「それなら、新たに部活を作らなくても文芸部に入部すればよかったのではないですか?」

「みー、絵描きたいっ」

「て言うからさ、美術部でもアレだし、これは作るしかない!って」

「文芸部でも、絵はかけますよ?」

「……まあ、それはこの際おいておいて、」


 キョーが両手の平を向かい合わせ、体の前にセットしてから弧を描いて左へ移動させた。


「本作ろ!」


 ちなみに余談だが、キョーは手で本を作ることを趣味にしていた時期があり、今でもその道具は持っているらしい。

 物語を紡ぐ方ではなく、紙を糸で綴じて表紙を付けるといった、製本のほうだ。


「……文の方ですよね?」


 一応訊ねると、


「絵もだよっ」


 と、みゅーから返ってくる。


「装丁とかも凝るか?」


 そういえばといった風にキョーが提案する。


「したいっ!」


 と、みゅーが同調する。


「じゃ、するか。

――どんなのがいいかな~」

「部費で布を買う余裕は、ありませんよ」


 今にも材料費のかさむ提案をしそうなキョーに、あらかじめくぎを刺しておく。


「じゃぁ自腹で。」


 と、軽く流されてしまったが。


「……そうだ、放課後買いに行こう」


 こんな流れで薄いハードカバーの本を百部ほど制作し、数年前までと同じように所定の場所に設置したところ、忘れ物だと思われて職員室に届けられるというおかしなエピソードもできた。

 その後、それが噂となり、キョーが学園理事長と図書館司書の先生に掛け合ったのもあって図書室の一角には市販されている書籍に混ざって中身も外装も手作りされた本が並ぶことになった。

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