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まるで、走馬燈のような。  作者: 鞠谷 磨織
2/8

過去

入学式。

 幼稚園の頃はこの辺りに住んでいたが、母の仕事の都合で引っ越して小学校は別の地域にいた。歳の離れた姉は就職し、ひとりこの地に残っていた。ボクは父母との関係が良くなかったので、何かと世話を焼いてくれていた姉のいない家で暮らすのは居心地が悪く、中学は姉の家から通いたいと言ったら快く許可してくれた。元々、小学校の頃からよく家出しては姉の家に泊めてもらったりしていたので、あまり新鮮さはない。

 昔、引っ越すとき、さすがに小学校に上がる前の小さな子を大学生の家に預けることは許可してくれなかったが、中学校に上がる子なら社会人の家に預けてもいいと判断してくれた。

 今は姉との二人暮らし。

 学校関係のお金は両親が工面してくれているから心配はいらない。

 関係が良くないといっても虐待されるとかそんなことはなく、ただお互いに気まずかっただけだ。原因はボクにある。

 ボクは肌が白く、目が赤みを帯びていた。

 だから嫌でも注目を浴びてしまう。髪は黒く染めていたし、眼はカラーコンタクトレンズや薄い色の付いたメガネでごまかしていた。でも延びてくると根本が白いから、頻繁に染めなければならなかった。

 陽に弱いから年中日焼け止めを塗って長袖長ズボン。肌の露出は最小限に。

 でも実はそれほど目立っていたわけではないと思う。でも、両親もボクも何でボクはみんなと違うんだろうって思い続けていたから、周りの眼がとても気になってしまって、あまり外を歩けなかった。自意識過剰なのはわかってる。

 ここのみんなはそんなこと何にも言わなくて、いい人たちだったのに。

 中学は私立を受験した。自分を知っている人がいるのは嫌だったから。

 また、知らない人たちと一から新しく人間関係を築いていこう。

 あの二人とも、どこかで会うだろうか。

 会いたいような、会いたくないような。

 校門をくぐる。

 姉は保護者として入学式にきてくれている。両親には別に避けられていたりするわけではなく、どちらも大事な仕事の都合で来れなかった。

 昇降口に貼り出された名簿から自分の名前を探し、げた箱を探し、教室を探して入っていく。

 この学校は一学年百人程度で一クラス30人程度。

 中高一貫校だ。

 ボクは三組。

 指定された席について、まばらに人が入り始めた教室を眺める。

 これから、新しい生活が始まるんだ。


「あ、やっぱマオだろ?」


 聞き覚えのある、懐かしい声。

 真新しい制服に身を包んだ男女が出入り口から入ってきた。


「キョーの言った通りだね」


 暫く会っていないが、その顔には小さい頃の面影もあった。


「久しぶりだな、マオ」


 長い前髪を中央で分け、不必要なほどのヘアピンで留めている男子生徒。


「みーのこと覚えてるー?」


 長い髪の一部をすくって高い位置で括り、リボンをつけている女子生徒。


「……久しぶりです、梗一、みゅー。」


 同じ幼稚園だった遠藤梗一郎と久部美咲だ。

 同じ中学校だとは思ってもみなかった。


「何で私のことは梗一なの!?キョーって呼んでよ!昔みたいにさ!?」


 二人の家からこの学校まではそれほど近くはない。だから近くの公立へ行くものとばかり思っていた。


「二人とも、どうして、この学校に?」

「来ちゃいけなかったか?」

「だめだったかな〜?」


 質問で返される。


「いえ。ダメではありませんが……」


 この学校にいる多くの者が異なる小学校の出身者だ。梗一郎や美咲と同じ小学校の者はいない。なぜ、わざわざここを選んだのだろう……?


「マオが帰ってくるってきいたからだよ」

「言っちゃダメだろ?みゅー」

「ごめんなさーい。」


 姉が知らせたのか。

 姉がキョーの母と仲がいいのは知っていたが、まさかみゅーまで同じ学校を受験するなど、考えもしなかった。決して二人の成績が悪いわけではない。二人よりも僕の方がきっと悪いだろう。


「変わらないですね、キョーは。」


 二人のやりとりは、幼稚園の頃を思い出させるものだった。


「え? 全然変わったって言われるけど。」


 キョーが意外そうにするが、そんな仕草も懐かしい。


「雰囲気は変わってませんよ」

「そうか?」

「はい。」


 外見は確かに変わったかもしれない。


「マオは他人行儀になったな。」

「……そうですか?」


 自分でも自覚していたから、そう指摘されて嫌なことを思いだした。

 だが、慣れればまた元に戻るだろう。それこそ、昔みたいに。


「話し方は変わったけど、マオはマオのまんまだよ?」


 みゅーはやっぱり人のことをよくわかっている気がする。ボクへの評価以外は。


「まぁ……――だな。まあ久しぶりに会ったんだし、今日の午後は暇?時間あれば入学祝いをうちの母とみゅーのお父さんとマオのお姉さんが開いてくれんだけど、一緒にどう?」

「……ボクの姉?」

「うん。」


 そのメンツだと、たぶんボクは参加するという前提になっていることだろう。


「用事はないですけど……」


 どうやらここでこの二人と再会することを知らなかったのはボクだけらしい。

 なんか悔しい。


「みゅーのお母さんはとっても悔しがってたけど、大事な仕事を抜けられなかって、うちの父は今出張中。」

「マオのお家に行くんだよっ」

「……ボクの家?」

「マオのお姉さんの家かな?」


 小学校に上がる前までは家族全員で住んでいた家なので、どちらの表現も正しいと思う。


「……。」


 なんかいろいろ複雑。担当教師が来て、キョーとみゅーは隣のクラスへ入っていった。別のクラスにもかかわらず、わざわざ寄ったらしい。

 簡単な説明があって、入学式。その後に始業式も続き、教室へ戻って親と一緒に解散。

 姉は廊下で見覚えのある男の人と話していた。


「姉さん」


 たぶんみゅーのお父さん。


「オル、終わったの?」

「……ん。」

「あ、すいません。知ってると思いますがうちの磨織です。大きくなったでしょー。」


 肩に手を置き紹介される。


「もうすぐアタシの背も越えちゃうかもしんないですね、トホホ……。」

「男は大きくなるものさ。うちのサキはもう止まりそうで……」


 記憶はあっていたようだ。みゅーのお父さん。確か洋服を作ることが趣味で、みゅーの服はほとんど手作りだったと思う。幼稚園の頃はよくこの人が作った服をボクも着ていたな……。


「げ、元気出して下さいっ!サキちゃんかわいいから、ちっさくても平気ですって。ね、オル」


 ここで話を振らないでほしい。

 一応頷いておく。


「おとーさーん」

「みゅーのパパさーん」


 ここで元気に片手を振りあげた娘たち参上。助かった気もする。


「母さんみなかった?」

「?キョーのおかーさんなら後ろにいるよ?」


 訊ねたキョーのすぐ隣でみゅーが応える。


「へっ!?」


 後ろに振り返ったキョーの視界にうつらないぎりぎりで、梗母はみゅーのお父さんの隣に立った。


「なんだよー……いないじゃな──!」


 顔の向きを戻したキョーは大袈裟に驚く。


「引っかかったなー我が息子よ!」


 梗母は仁王立ちで胸を張っていた。


「い、いつからそこに!?」


 ちょっとした茶番が繰り広げられる。


「今からですね。」

「ちょっとそこ、何も言わなくていいのよ今のトコは」


 指さされた。


「すみません。」

「解ればよし……アミちゃんもちゃんと言っといてね──て!磨織君じゃないの!」


 大袈裟に驚いてみせる梗母に、息子が反応。


「今まで気付かなかったの?」

「気付いてたけど?」


 なら何で驚いたんだあなたは……!

 口にしたかったが、しても無駄な気がしたのでやめておいた。


「……そろそろ出ましょうか。」


 みゅーのお父さんがそう言って、六人で学校を出た。


「このまま(うち)来ますか?」


 校門を出たところで、姉が訊いた。


「着替えてからにするよ。」

「私もそうする。梗一もそれでいい?」


 わざわざ梗母は息子に確認をとる。


「いいよー。」

「では一旦お別れということで。また後で〜」

「チカもつれてくね〜。」


 チカというのはキョーの妹の市華。6歳違いだから、小学校に入学したはずだ。

 四人と別れて徒歩で駅へ。一駅しかないが、今日は荷物が多いため電車を使う。これからは自転車で通う予定だ。

 姉は車の運転免許は持っているが、専ら身分証代わりにしか使っておらず、移動手段は自転車か公共交通機関だ。


「梗一くんたち受かって良かったねー。」

「……なんで教えたんですか?」

「何をー?」

「ボクがあの学校を受けること。」

「ん?そんなの訊かれたからだよー。

(はな)ちゃんはオルの事気にしてたからねー。」


 華ちゃんは梗母のこと。名前が華澄(かすみ)だから華ちゃん。姉と梗母は歳が近く仲がいいので、姉も編花だからアミちゃんと呼ばれている。


「……もしかして嫌だった?」

「……。」

「でもホントよかったね。二人とも受かって。

また三人で遊べるよ。」


 姉が笑いかけてきた。

 恥ずかしくて笑い返すことはできなかったけど、また同じ学校に通えたのは嬉しい。


「片方でも落ちてたら二人とも公立行くって言ってたからさー。ホントよかったよ。

梗一くんがんばったんだよー?」

「……?」


 キョーはそんなに成績が悪いとは思えなかった。

 幼稚園の頃からやれば何でもできる人だったから。

 絵も下手ではないし運動神経もそこそこいい。歌は苦手だったが、目立って音痴だというわけでもなかった。みゅーもそんなキョーの真似をして、何でもこなしていた。


「サキちゃんがさ、受験初めてだから緊張する〜っていって緊張で夜は眠れず授業中に寝ちゃうもんだから、その(ぶん)家で梗一くんが教えてたんだって。」


 おもしろい話だ。

 みゅーならあり得そうだが、キョーが勉強を教えられるのだろうか。


「ま、梗一くんの方が先生より解りやすくって成績良くなったらしいけど。──あ、切符アタシの分も買って。お金忘れて来ちゃったみたいなんだよね。後で返すから。」


 駅に着くと、ポケットやバッグの中を歩きながらまさぐり続けていた姉が両手をあげて言った。


「……」


 帰りの交通費としてお金を少し持たされていたから、一駅なら二人分は払えるな。


「……返さなくていいです。元々姉さんのお金です。」

「──それもそだね。じゃあ今夜はオルの好きなもの作ろうか。入学祝い。」


 ホームで電車を待つ間、気になっていたというか少しショックだったことを言ってみた。


「……何で教えてくれなかったんですか?」

「ん?なにを」

「キョーたちが同じ学校なのと、入学祝いを家でみんなでやるということです。」

「ああ、聞かれなかったから。」


 全く思ってもみなかったことなのでそりゃあ聞くはずもないだろう!と思った。


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