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世界混合  作者: あふろ
第四章 未来への道程
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67.新しいモノ

 もし、先を急ぐ旅の途中で、トラブルに巻き込まれて困っている人がいたとしたら。

 見て見ぬふりをするのか、それとも旅を一時中断してでも助けの手を差し伸べるのか。

 マコリエッタ・フローラリアならば、迷わずに後者を選ぶだろう。

 だから、ジータも同じように迷わない。見捨ててしまったとなれば、永遠に彼女の隣に並ぶ事はできない。


 鉱山都市の人間が出歩くなんて異常だ。きっと、何か大きなトラブルがあったに違いない。

 そう思って、ジータは進行方向を変えたのだが、


『はじめまして、オレ淳平! あ、彼女募集中です!』


 とんだ肩透かしだった。

 やけにテンションの高い異人が少しうざい。

 ともあれ、何事もないのであればそれでいい。目的地が同じなので、ジータとミクシードは彼らの荷車に乗せてもらう事にした。

 彼らは世間知らずのためか、大陸にはいない種族のミクシードを見ても、何の反応も示さなかった。

 毎回、行く先々で驚かれていい加減うんざりしていた。面倒なので説明もしない。

 それでも虹姫という肩書きのおかげで、深く追求してくる者はいなかった。

 人々の中には、ジータを畏怖する者も少なくない。災害だと言って揶揄する者までいる。

 それほどまでに、カボチャの軍隊パンプキン・フォーセスの決戦や女神大戦での活躍は凄まじいものだった。



『虹姫か』


 鉱石族(ドワーフ)の一人、ドグ・ロウェルスターが問いかける。

 引きこもりの鉱山都市の人間が、自分の事を知っているとは思わなかった。ドグの口から出た意外な質問に驚きながらも、肯定の言葉を返す。


『そうよ、こっちはミクシード。あたしの友達よ』


 訊くだけ無駄だと思いつつも、探し人の情報を探る。


『ところで、ジェイク・エイルヴィス・イーストウッドという森林族(エルフ)を探しているんだけど、あなた何か知らない?』

『ジェイクか……二ヶ月ほど前に何日か鉱山都市に滞在したあと、中継都市に向かった。その後の事は知らない』


 思わず「はぁ?!」と大声を上げてしまった。

 偽情報(ガセネタ)を掴まされたのは一度や二度ではない。今回もあまり期待はしていなかった。

 商人ジェイコブの情報は正しかったようだが、鉱山都市に滞在していたという話は無かった。

 排他的なあの都市にジェイクがいるだなんて夢にも思わなかったし、自分が行ったところで鉱石族(ドワーフ)と揉めるのは目に見えていた。

 そういった理由から、そこは探さなかったのだが、完全に失敗だったらしい。もしもあの時、タンバニアではなく鉱山都市に向かっていれば、ジェイクと会う事ができただろう。

 つまり、本当に入れ違いになっていた。


 解せないのは、ジェイクがなぜ自分の事を追いかけて来てくれないのか、という事だ。


――帰ったら結婚しよーねー!


 これはジータが最後にジェイクへ向けた言葉だ。

 あの時、彼の返事は何だったろうか。なぜかあの時の記憶がぼやけている。

 それでも彼の返事を忘れるはずがない。たしかにこう言った。


『もちろんだよハニー。王国を挙げて派手な結婚式にしよう!』


 考えられる事は……逃げた?

 きっと誰かにたぶらかされて、騙されているんだ。

 犯人には心当たりがある。煙草だ。

 今頃、煙草と二人で甘い生活を送っているに違いない。許せない。

 ジータの頬を一筋の涙が伝う。


『え? ちょ、ちょっと、ジータ?』


 無表情で突然涙を流し始めたジータに、ミクシードがうろたえる。

 赤面してよだれを垂らすのはしょっちゅうの事だが、泣きだしたのは初めてだった。

 ジータは決心を固めたようにして、


『ミッキー、あたしちょっとタンバニア焼き払って来る』

『なんで?!』




 荷馬車が揺れる。

 廃墟に入ると新しく街道となった道には、巡回をする傭兵の姿がちらほらと見受けられた。二ヶ月経った今でも、警戒は解かれていないらしい。

 淳平と京子は沈痛な面持ちで、廃墟と化した祖国の町を見渡していた。


「ちょっと、淳平! どこに行くの!」


 淳平が京子の制止を振り切って列から飛び出した。手にはスマホを握っていて、何か写真を撮っている。

 不審に思った京子が遠目に覗き込むと、被写体は道路に設置されている近辺地図だった。

 撮影を終えて淳平が戻る。


「地図なんて撮って、どうする気?」

「いや、ちょっと……」


 淳平が言葉を濁した。言いにくい事なのだろう。

 もしかすると、身内に関係する事なのかもしれない。あまりしつこく訊かない方がいいと思い、京子はそれ以上追及しなかった。


『あれ? ミクシードちゃん、それは?』


 淳平がミクシードの背負うマスケットに気が付いた。

 この世界に銃は存在しないと聞いていた。なのに、目の前にあるそれは、誰からどう見ても銃だ。


『ミッキーでいいよ、これ?』


 淳平に見せ付けるようにして、


『わたしの特製なんだよ。いいでしょー。武器なんだよ、これ』


 ミクシードが得意気に言う。


『止まれ!』


 レベッカの声が二人の会話を遮った。列の進行が止まる。

 魔獣だ。

 といっても小さなもので、脅威的な存在だとはとても思えない。それこそ、無視して進んでもよさそうだ。

 鉱石族(ドワーフ)たちが抜刀する。


『ちょっと待って!』


 淳平が皆を制止して、荷車から“新商品”を取り出す。性能や威力は度重ねたテストで問題ないはずだ。

 しかし、実際に魔獣に対して使ってみない事には、不安を拭いきる事ができなかった。本当に通用するのだろうか。

 これが、初めての実戦テストとなる。


『え? それって』


 淳平が手にした武器を見て、ミクシードが目を丸くする。

 淳平考案の新武器、フリントロックピストルだ。もちろんマスケットも用意してある。

 魔法のある世界では、あまり役に立たないかもしれない。

 しかし、皆が皆戦えるわけではない。これは戦えない者のための、特に日本人に向けた武器だ。


 点火方式はその名前の通り、フリントロック式を採用。見た目だけならばミクシードの物とあまり変わらない。違うのは火薬を使って弾丸を発射する、本来あるべき銃の姿だ。


 一番初めに作った物は使い物にならなかった。

 威力、命中精度、反動、全てにおいて話にならなかったのだ。

 発砲時の反動を少しでも軽減できるよう、銃口付近には穴を空けて工夫を凝らしている。

 命中精度においても、現代と同じ形状に似た物を使用し、銃身内部には螺旋の溝を施している。初期に作った物は丸い弾丸で、大きいブレを引き起こしてしまっていた。

 性能面ではかなりの改善がされたものの、先込めなので連射ができなかったり、暴発や生産性の問題など、まだまだ改良の余地がある。

 それでも、護身用としては申し分無い性能に仕上げたつもりだ。無いよりはあった方がいいだろう。


 淳平が魔獣に銃口を向けて、狙いを定めた。引き金を引くと耳を突く銃声と共に硝煙が立ち昇る。

 音に驚いた魔獣は身を翻してあっという間に逃げてしまった。

 淳平の撃った弾は近くにあった廃車にめり込んでいた。やはり動く標的にそう簡単には当てる事ができない。

 銃の扱い方を自衛隊にレクチャーしてもらう必要があるだろう。


 淳平の銃を見たミクシードが目を輝かせる。興味津々の様子だ。

 お互いの銃を見せ合い、すぐに意気投合してしまった。


『どうしたの、ジータ?』


 ジータが魔獣の逃げた方向を見つめたまま視線を動かさない。流れていく景色の中で、首を動かして、ただその方向だけを見ていた。

 淳平もそちらを見る。

 何かがいるのかと思ったが、既に逃げた魔獣の姿すら見られない。

 ジータの視線はそれよりももっと奥、遥か遠くを向いていた。


『迷宮が……生まれる』


 ただならぬ魔力の渦を、ジータは感じ取っていた。

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