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世界混合  作者: あふろ
第三章 王国の旅
63/145

63.世界混合

 ヒルデンノースがどうなろうと関係無い。

 ヴォルタリスが、龍の影がどうなろうと知った事では無い。

 自分はもう抜けた人間なのだから。自分ではもうケリを着けて終わった事なのだから。


 勝手にすればいい。

 これがジェイクの本音だった。


『さあ、ヴォルタリスに制裁を加える時だ! 君も同じ気持ちだろう?』


 高らかに声を上げて叫ぶノットに、ジェイクは冷ややかな視線を送っていた。

 話をする内に気分が高揚してしまったのか、ノットからは冷静さが感じられない。両手を広げて叫ぶその姿は、狂人以外の何者でもない。


『……で、どうする気なんだ? 計画と味方の数は?』


 訊けそうな内に、できる限りの情報を引き出しておきたい。

 一人でひとつの領を壊滅させるなど不可能だ。ノットには大勢の協力者がいるはずだ。


『簡単だよ。生命の魔力で残ってる部分をぶつければいい』


 思わずため息が出る。

 会話が成り立たない。またしても言っている意味がわからない。


『ジェイク、君は女神ってなんだと思う?』


 話が飛んだ。

 今度は女神についての話だ。

 話に脈絡が無さ過ぎる。これ以上の会話は無駄だ。付き合う必要は無い。

 正気を保っていたように見えたが、十分に狂っていたらしい。


『重要な事なんだ。少し話に付き合ってくれるかな』


 ノットは落ち着きを取り戻し、静かに言葉を紡ぐ。


 女神が何なのか、訊かれる間でも無い。

 この世界の創造主だ。そんな事は物心付いたばかりの子供でも知っている。


『世界を創造する。そんな事が本当にできると思っているのかな?』


 ジェイクの思考を読み取ったかのように続ける。


『女神なんて自称さ、彼女もただひとつの種族に過ぎない。私たちが呼ぶ、天使族(エンジェル)の一員に過ぎないんだよ。確かに特殊な存在ではあったんだけどね』


 これは、この世界の存在を全否定する言葉に等しい。

 女神の信仰が無くなった今でなら、誰も気にも留めない話だ。

 しかし大戦前の、女神が信仰されていた時であれば、袋叩きにされてもおかしくないような、危ない発言だ。

 女神が世界を創ったのでは無い、ノットはそう言っているのだ。


『テメーの言う通りなら、奴は一体何なんだ?』


 大陸全員の意識下に同時に現れた。

 自らの宮殿を、一瞬にして出現させた。

 この二つだけ見ても、人間に成せる業ではない。


『天才だよ。ヒト族にもいるだろ? ほら、ジータとかいう。まあ、天才の規模が違うんだけどね』

『つまり何が言いたい?』


 ノットが鼻で笑う。


『女神は亜空間に干渉する事ができる魔力を扱える、ただそれだけの人間だったって事だよ。つまり、我々が“創世の魔力”と呼んでいた物がそれさ』


 だから何なのだろう。

 真偽はともかく、この話が今までの話と何の関係があるというのか。

 回りくどい話にいい加減うんざりとする。


『亜空間ってさ、凄いんだよ。時という概念が無くてさ、そして色んな世界に干渉する事ができるんだ。女神の宮殿もそうさ。あれは女神が他の世界から亜空間を通して持って来ただけなんだよ』


 亜空間から帰って来たら、世界では二年の月日が経過していた。時という概念が無いのであれば、有り得そうな話だ。

 ジェイクが亜空間にいた時間はあまり長くはなかった。だが、その長くないと思っていた時間が、地上では二年だったのだろう。

 腑に落ちない気もするが、一応の辻褄は合っているように思える。


『君……本当に自分の力で女神に勝ったって思ってる? 無理だね。創世の魔力は強大だ。生命の魔力を使っても、人間には遠く及ばない力だ。それは君が一番知っているはずだけど?』


 これはジェイクも不思議に思っていた事だ。ジェイクは今までに何度も、女神にかすり傷を負わせられる事無く敗北してきた。

 それが今回に限っては女神を討つ事ができた。

 ジェイク自身思ってもみなかった結果だ。


『シャルーモの協力のおかげでね、生命の魔力を使って女神の魔力に干渉する事に成功したんだよ。女神の魔力が別世界そのものを、この世界に引き寄せようとしたらどうなると思う?』


 ジェイクが顔色を変える。

 何となく想像がついてしまった。

 女神を殺した事が原因では無かった。

 女神を殺す手段に原因があった。

 これは天災などではない、人災だ。


『女神にだって限界がある。魔力の大半を引き寄せる力に使って、女神は弱体化されるってわけさ。まあ、思っていたより力が強くてさ、引き裂かれた異世界の一部がこっちに来ちゃったんだけど。ははは』


 ノットは軽い失敗をした時のような、笑って誤魔化すような笑い声を上げる。

 大陸の人間たちは、自分の都合で全くの無関係な世界を破壊したのだ。

 笑って許される事ではない。


『でだ、まだいっぱい残ってるのさ。出現しきれなかった部分が、亜空間に。それを領都にぶつけてしまえばいいんだよ。後始末(・・・)はその後でも構わない』

『……後始末ってのは何だ?』

『異人さ。彼らはここに居ていい存在じゃないんだよ。元に戻す? 無理だね。女神の居ない今、再び亜空間を通して元の世界に戻すなんて事できるわけがない』


 無理矢理この世界に連れて来た上に、全員を始末しようと言うのか。

 あまりの身勝手さに反吐が出る。


 中継都市で両者は上手く共存している。彼らの持つ文化で、こちら側の人間も少なからず受けた恩恵がある。

 一番身近な物で言えば美味い料理だ。

 彼らの作る料理は、大袈裟ではなく人の作る物とは思えないほどに美味だった。

 加えて彼らには、この世界には無い技術の数々がある。

 お互いに良好な関係さえ維持する事ができれば、技術を取り入れて新しい世界が生まれるだろう。


 それが悪い事だとは思えない。

 しかし、ノットの懸念はもっと別の所にあった。


『彼らは凄いよ。何と言っても魔力の使い方だ。さっきガクトとかいう異人を直接調べる事ができたんだけどさ、本当に驚いたよ』


 異人は魔法を使えない。

 学人がそう言って落ち込んでいた事を思い出す。

 ヒイロナの話だと、魔力の操作ができないという事だったが。


『彼らは無意識で魔力を変異させているんだ。変異した魔力は操作不能になる。私にですらできなかった。変異途中の魔力を少し吸い出すだけで精一杯さ』


 死体であるならまだしも、生きた者の魔力を強制的に操作するなど、通常であれば考えられない。

 魔力の流れを研究するノットは操作する事にも長けている。

 以前にジェイクの部下を縛り付けたり、女神の魔力に干渉できたのも、ノットであるからこそ成し得た芸当だろう。

 そのノットですら操作できない魔力だ。


『その魔力は一体どこへ行くと思う?』

『知るかよ。イチイチ質問形式にするんじゃあねえ。なぞなぞ大魔神かテメーはよ』


 ノットが自分の頭を指で叩く。


『脳さ。変異した魔力は全て脳に吸収される。おそらく彼らは、魔力を養分に脳を活性化させて、それで文明を築き上げて進化させてきた』


 片や魔力を操作する方法を選んだ。

 片や魔力を吸収する方法を選んだ。

 使い方の違いだ。それ以外の何物でもない。ただ、それだけの事だ。

 それが彼らを殲滅する理由にはならない。

 彼らに関しては自分たちの身勝手さが原因だ。責任を負う義務がある。

 殺すなど断じてあってはならない。

 たとえ彼らから侵略行為を受けようとも、文句を言う権利は自分たちには無いのだから。


『彼らは魔力を吸収する。つまり還元されずに消費されていくんだ。彼らが出現した時、大陸の魔力の流れに穴が空いたからね。彼らの世界にはもう魔力が残っていない証拠さ。魔力を食い潰される前に始末しなければ、いずれはこの世界から魔法が消えて無くなる』


 大きく呼吸をして、冷静さを失わないように務める。

 この男はここで止めなければならない。その為には冷静さを欠いてはいけない。

 魔法が無くなる。女神を倒した代償と考えれば安い物だ。

 ヴォルタリスはどうでもいいが、異人たちは殺させない。

 これがジェイクの出した答えだった。迷う必要すらない。

 剣を握る手に力を込める。


 ノットはジェイクの考えを察したように、


『はあ……頭固いね、森精族(ハイエルフ)。シャルーモのような、妖魔族(タイタニア)を見習って少しは柔軟になったら?』


 ジェイクはゆっくりと口を開く。


『ひとつなぞなぞだ。あるひとつの大きな事柄の中で、真っ先に死ぬ奴ってどんな奴だと思う?』

『んー。そうだね……愚か者かな?』

『……知り過ぎた奴だよ、ボケ』


 ジェイクが地面を蹴ろうとした刹那、結界から光が失われた。

 周囲が闇に包まれて、ノットの気配が消える。


『あまり残ってはいなかったけど十分だ。あと、覚えておくといい。黒幕ってそう簡単には死なないのさ。またね、ジェイ君(・・・・)


 覆う闇と共に声が小さく消えていく。

 どうやったのか、どこへやったのかはわからない。結局、長話で時間稼ぎをされてしまったらしい。

 ただひとつ言える事は、生命の樹の枝に僅かに残っていた魔力が、ノットに奪われてしまったという事だった。

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