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世界混合  作者: あふろ
第三章 王国の旅
50/145

50.両手に花

『これを……あんたらに見つかるまで尾行して、見つかったら渡せって言われたんだ。まさかこんなに早く見つかるとは思ってなかった』


 暗闇族(ダークエルフ)の男から差し出された紙を受け取って、ジェイクは書かれた文字に目を走らせた。


――挑戦状や、器用貧乏。連れの男はもろたで。アイゼルハイム経由でバアムクーヘンまで行く。追い付いて奪い返せたら自分の勝ちや。

 黄金の爪ペルーシャ


 意味不明の挑戦状だ。学人は誘拐されたらしい。

 全く面識の無い黄金の爪に挑戦状を出される覚えなど無い。要求も書かれておらず、本当に意味がわからない。手紙の内容も鵜呑みに信じるわけにはいかないだろう。


『ロナ、すぐに乗り物を二頭買って来い! 出発する!』


 自動車は置いて行くしかない。二人には動かす事ができない。

 乗り物の調達に向かったヒイロナの背中を見送り、自分は倉庫へと走る。契約の延長だ。

 手持ちの金で出来る限りの期間を延長し、期限が過ぎたら荷物をくれてやるという約束をした。半年は持つので、それまでに帰ってくればいい。

 頭にトサカのある二頭の恐竜、ラファストを調達したヒイロナと再び合流し、跨がる。力はあまり無いが、大陸で最高速度を誇る種だ。


『手紙は鵜呑みにできねえ、ファラン経由で追うぞ』


 バアムクーヘンに向かいながら、近くを通る都市や村をひとつづつ潰して行くしかない。途中で一度もどこかに立ち寄らないという事は有り得ない。必ずどこかで目撃情報があるはずだ。

 仮に目撃情報が全く無かったとしても、それは手紙通りにアイゼルハイム経由で向かっている事を意味する。

 アイゼルハイムとバアムクーヘンの間には大きな河が流れていて、必ず橋を渡らなければならない。

 ファラン経由の方が距離が短く、しかもこっちは最速の種、ラファストでの移動だ。上手く行けば先回りして橋での待ち伏せが可能だ。

 あくまで手紙で示す行き先が本当である事が前提だが、手掛かりはこの手紙しか無い。




…………。




『ニャんでここにおんねん!』


 目の前に現れたジェイクとヒイロナに対して、狼狽えた様子でペルーシャが高い声を上げた。

 本当に運が良い。一発目で大当たりだ。


『自分らちゃんと手紙読んだんかいな?!』

『手紙? これか?』


 ジェイクがピラピラと紙を指で挟み、はためかせる。


『それや! アイゼルハイム経由って書いたやろ! こっちはファラン経由や!』


 ペルーシャが大きく指でさしてわめき、ジェイクはわざとらしく、とぼけた顔をした。


『あぁ、これはアイゼルハイムって書いてたのか。字が下手糞で読み間違えたみたいだ。すまん』


 もちろんそんなわけがない。字の上手い下手はともかく、字数が全然違う。

 とぼけた態度のまま、ジェイクが続ける。


『お前を倒したら、俺の勝ちだったっけか?』


 言って、無駄の無い動作で腰の双剣を抜いた。


『え? ちょ』


 ジェイクが戸惑いの声を漏らすペルーシャに容赦無く斬りかかる。

 咄嗟に出した鉤爪で剣を受け止めるが、剣圧に弾かれてモンローから転げ落ちてしまった。

 転がった勢いで地面を蹴り、ステップを踏んで距離を取る。


『ガクト! ニャんやねんアイツ、正気か? クレイジーや!』


 視線をジェイクから離さずに、学人に叫ぶ。学人にはペルーシャの言っている意味がよくわからなかった。

 問答無用で斬りかかられた事を言っているのだろうか。おそらく違う。

 ペルーシャは襲われても仕方のない事をしている。それは本人も重々承知のはずだ。


白露の射撃(ティーロ・ロシーオ)!』


 ジェイクの後方からヒイロナの援護が飛んだ。ペルーシャに躱された水の弾丸は、建物の窓を破壊して大きな音を鳴らす。


『何をしているお前ら!』


 聞いた事の無い声で怒声が飛んできた。ここでようやく、ペルーシャの言葉の意味に気付いた。

 街の中で暴れれば警備兵が黙っていないだろう。当然だ。

 学人は自分が少し感覚が麻痺していた事に気が付いた。


『ほら! あいつら(警備兵)すっ飛んで来よんで! どニャいすんねん!』


 言わんこっちゃないと、ジェイクに怒鳴る。


『それがどうした?』


 対するジェイクはどこ吹く風だ。

 歯ぎしりをし、今度はペルーシャが仕掛けた。

 ここは広場だ。蹴る壁が無ければ天井も無い。一気に距離を詰め、正面から殴りつける様に爪を繰り出す。ジェイクは電光石火の攻撃にしっかりと反応し、剣で正面から受け止めた。

 攻撃の衝撃が足の傷に響き、ペルーシャの額に脂汗が滲む。強引にそのまま押し切ろうと、痛みをこらえて腕に全体重を乗せる。

 だが、怪我をした足では当然力が入らずに、逆に押し返されてしまった。

 後ろに倒れ込むペルーシャにジェイクが追撃を加える。


『お前達! そこまでだ!』


 いつの間に応援を呼んだのか、建物の陰から警備兵が雪崩れ込んで来た。

 目の前に迫る突きを横に転がって避けたペルーシャが、再び距離を取り、


『チッ! うぜえな』

『来るのはやッ!』


 二人が殺到する警備兵にそれぞれの反応を見せた。


『ガクト! ずらかるぞ!』


 ジェイクが学人に手を差し伸べる。


『ガクト! 逃げるで!』


 同時に、なぜかペルーシャも手を差し出してきた。

 ここに来て突然の二択だ。

 迷う必要など無い。普通であればジェイクの手を取るべきだ。


 だが……。


『ジェイクごめん! 理由は後で話す。行き先はエルフの森だ!』


 学人はペルーシャの手を取っていた。素早くモンローに飛び乗り、


『モンロー! 全速力や!』


 ペルーシャが指示を出すと、モンローは言葉を理解しているかの様に猛スピードで走り出した。瞬く間にジェイクとヒイロナが小さくなる。

 ジェイクは少し驚いた顔をしたが、一言わかったと言い、後を追う素振りを見せなかった。


『あの野郎、どういうつもりだ』


 それは学人とペルーシャ、両方に向けた言葉だった。

 仲間を攫っておいて、行き先を示した手紙を出したペルーシャ。目的が全く見えない。

 そして、その誘拐犯に付いて行った学人。何か思うところがあるのだろうが、見当も付かない。


『武器を置いて両手を高く挙げろ! おい女、お前もだ!』


 槍を構えた警備兵に囲まれて、ジェイクとヒイロナが素直に従う。

 たかが乱闘騒ぎに駆け付けたにしては、やけに人数が多い。優に二十人は集まって来ている。最初は強行突破をして逃げるつもりでいたが、遠目に、ある男の姿を見つけて思いとどまった。

 円になった警備兵の壁が、一点から裂ける様にして道を作り、その道を人間族(ヒト)の男が通る。

 鉱石族(ドワーフ)の平均的な成人男性よりも少し大柄な、重鎧を身に纏った人間族(ヒト)にしては巨躯の男だった。

 巨躯の男が騒ぎの元凶を認めた瞬間、呆れた表情を浮かべた。


『お前か、ジェイク。生きていたのか』

『なんでお前がこんな田舎にいる。ドジって降格でもされたか? ユージーン』


 その男、ユージーンの顔を見たヒイロナがハッとする。ヒイロナも以前に見た事のある顔だ。

 竪琴の島でアリスティアが挨拶に来た時も、花火を打ち上げたあの夜も、常にアリスティアの傍らにいた騎士だ。つまりジェイクの戦友という事になる。


『とりあえず、事情を聞かせてもらおうか。ついて来い』

『なんでテメーがこんな場所にいるのか聞いてるんだが……』


 ジェイクが怒られて拗ねた子供のように、先程の言葉を繰り返した。

 ユージーンは答えず、ジェイクの腕を掴んで引っ張って行く。その様子は本当に怒られている子供みたいだ。

 わかったから離せと抗議しながら、詰め所に連れ込まれて行った。

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