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世界混合  作者: あふろ
第三章 王国の旅
42/145

42.この世界に光を

 朝、目を覚まして学校や仕事に行く。

 多くの人たちが、同じ様な時間に同じような行動を取る。

 内容は全く違うが、起きる。学校に行く。仕事に行く。同じ事だ。

 学校や仕事が終わると、ようやくそれぞれが違う行動に出る。


 学校が終わり、部活をする者。勉強をする者。遊びに出る者。

 仕事が終わり、帰宅をする者。残業をする者。遊びに出る者。


 その日によって、皆が取る行動は様々だ。

 今日、遊びに出た者は明日、勉強をするかもしれない。

 今日、勉強をした者は明日、遊びに出るかもしれない。

 だが、長い目で見ると結局、皆同じ様な事をしている。それが日常だ。

 その日常は、あの日を境に一変した。


 時計の無いこの世界では色々な事がアバウトだ。時計という鎖で縛られて生きて来た日本人には、とても考えられない。

 起きる時間、仕事に出る時間、食事の時間、寝る時間。全てが個人のさじ加減で決まる。

 固定の仕事を持つ者は、“日が昇って来たから、そろそろ仕事しよう”。

 こんな感じで一日が始まる。

 単発の仕事で生計を立てる者は、依頼主から“日が高くなるまでに”とか“完全に日が落ちる前に”などと言われる。


 曜日概念の無いこの世界では、休日も適当だ。

 そう、適当。

 時間だけではなく、色々な事がこの世界では適当なのだ。

 よくもまあ、この適当さで都市が成り立っているものだと、吉村小鳥は関心する。

 ドナルドに聞いたところ、中継都市ランダルだけではなく、どこも似たようなものだそうだ。


 この適当さに、小鳥たちは未だに慣れないでいた。

 “日が高くなるくらいによろしく”

 日が高くなるくらいにって、一体どのくらいの高さなのか。個人差があるだろうに。

 時刻を管理し、時刻で管理されてきた者たちには、一生慣れないかもしれない。

 小鳥が昨日言われた言葉は、“日が高くなって、しばらく経ったくらいに会議を始めるから”だ。

 それは一体どのくらいなのか。全然わからない。


 不機嫌な顔を隠そうともせず、小鳥は斡旋所へ向かった。職場だ。

 昼食をとって、“しばらく経った”ので会議をする部屋のある二階へと上がる。

 会議室の扉を開き、部屋の様子が目に飛び込んで来ると、そこにいた全員が小鳥の方を見た。

 飛んで来た第一声が“遅かったな”だ。

 怒りに顔を引きつらせるが、謝罪を入れる。とりあえず何でもいいから叫びたい気分だ。


 最後に来た小鳥が部屋に置かれた円卓に着席し、会議が始まる。

 参加者はランダルを代表する、ハーヴィーとクラレンス。

 そして日本を代表する、小鳥と自衛官の岩代。

 最後に中立な立場をとる、ドナルドだ。


 議題は多い。

 まず都市の増築計画だ。

 一気に人口が増えた事により、都市が狭くなってしまった。

 いつまでも宿や広場を占拠しているわけにもいかないだろう。

 計画と言っても適当だ。

 長い年月を掛けて増築に増築を重ねた、この歪な形の都市を見ればわかる。

 “この辺に増築しよう”、“じゃあそれで”という話し合いで、無計画に増築されて来たのが手に取るようかる。


 増築には様々な問題がある。

 まずランダル周辺の廃墟だ。片付けなければ増築どころの話ではない。

 魔獣も危険だが、人の手に負えなくなってしまった町というのも非常に危険だ。

 町には放置されている燃料や、化学物質などが膨大に存在する。

 ちょっとした火が何かに引火してしまい、大火災になってしまう恐れもある。

 大火災になると、ランダルもただでは済まないだろう。最悪、廃墟共々灰になってしまう。

 また、人体に有毒な“何か”が垂れ流されてしまう恐れもある。

 何も考えずに、魔法で破壊してしまうのは愚の骨頂だ。

 ジータが爆発魔法でオークたちを殺戮したのは、かなり危険な行為だったと言える。


 この危険性を訴えたのは、意外にもドナルドだった。

 ドナルドは自衛隊から知識を手に入れ、周辺の廃墟がどれほど危険な物なのか、という事に気が付いた。

 撤去する建築物を徹底的に調べ、少しずつ破壊していく。

 ガスは残っていないか、破壊した事によって有害な物質が出て来ないか。


 人類の文明知識など集合体の知識だ。

 専門的な職に就いていた者でも、その全体を把握する者はいない。思いもよらぬ所から危険が迫る可能性があるのだ。

 どんなに小さな物でも慎重に進めていく。


 一番の問題は、やはり危険物の問題だ。

 例えばガソリンスタンドの地下には、何十キロリットルというガソリンが貯蔵されている。全て合わせると何百キロリットルだ。

 放っておくわけにもいかないだろう。

 魔法で凍らせる? 馬鹿な。ガソリンの凝固点はマイナス90度以下だ。魔法でなんとか出来る温度ではない。

 時間が掛かってでも使い切るのが一番いいのかもしれない。

 使い切るにしても、どうやって取り出すのか。



 例えば工場には、一般には知られていない様な危険物が存在している。

 工場の人間が使っていたからといって、具体的な処分方法など知っているはずもない。


 次から次に議題は増えていく。

 結局、この日も議題を増やす形で会議は終わった。



 夜に沈んでいく街並みを見て、小鳥が深いため息を吐いた。

 疲れた体を引きずり、宿に帰る。

 宿に帰ると主人に声を掛け、部屋の明かりを点けてもらう。自分では点ける事ができないのだ。


 小鳥たち人類が科学で文明を築き上げたように、この世界の人類は魔法で文明を築き上げた。

 小鳥たち人類が科学に頼って生きて来たように、この世界の人類は魔法に頼って生きている。

 照明器具にしても、魔力を魔法結晶に注ぎ込む事で明かりを灯す。

 この世界には魔法結晶という物があり、魔力を注ぎ込むと封じ込められている魔法が発動するのだ。

 これならば照明魔法を使えない者でも、使う事ができる。

 その他にも、火を発生させる魔法結晶に魔力を注ぎ、料理をする。

 水を発生させる魔法結晶に魔力を注ぎ、体を洗う。

 

 つまり、何をするにしても魔力を操作して、使う事が必要なのだ。

 この世界から見て異人である小鳥たちにも、身体に魔力を宿してはいるらしいが、操作して扱う事はできない。

 魔力に頼っている文明で生きていくには、かなりの不便を強いられてしまう。


 本当に一変してしまった。

 だが、生活に変化が起きたのは異人だけではない。

 ランダルの人々にも変化が起き始めている。

 全く異なる文明を持つ者同士が、共に暮らしているのだ。どちらか片方が変わらないというのはありえない。


 変化はまず食に現れ始めた。

 この世界の食事はあまり良い物とは言い難い。元々関心が無かったのか、レパートリーが少ないのだ。

 主食はパンで、箸、スプーン、フォーク、ナイフといった物が無く、全て手掴みだ。

 手掴みなので当然汁物の料理など無い。焼く、蒸すくらいの調理方法しかなかった。

 食にうるさい日本人が当然耐えられるはずもなく、料理屋で働いている者が廃墟から調理道具や調味料を調達し、様々な料理を提供し始めた。

 パンも黒く硬いものから、柔らかいものが作られるようになった。

 箸などの道具が当たり前に使われるようになった。


 今日また、大きな変化が訪れるかもしれない。


 日が完全に落ちた頃、小鳥は広場に出掛けた。

 テントが立ち並ぶ、避難民キャンプだ。

 広場の中心にはテントが無く、代わりにあるのは黒っぽいパネルと大量のバッテリー、見慣れない機器と、組まれた木材に巻き付いた大量の電球だ。


 そろそろだろう。


 人々が見守る中でスイッチが入れられると、電球に明かりが灯り、歓声が沸いた。

 太陽電池だ。廃墟から材料を集め、太陽電池を作ったのだ。

 今日は太陽電池のテストをする日だった。


 懐かしくも思える、人工の光に全員が見惚れる。

 この日、世界に小鳥たちの光が灯された。

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