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世界混合  作者: あふろ
第二章 リスモア大陸
12/145

12.宝物

『よー、ドグ。しばらく見ないうちに老けたなー。お前まだ三十過ぎだろ? ハゲて髭まで生やしちゃって。自慢のモヒカンはどこにいったんだあ?』


 ジェイクがわざとらしく、目の前の鉱石族(ドワーフ)におどけて見せた。

 散々待たされた挙句、出て来たのが全く知らない人物だったのだ。少し頭に来ている様子だ。

 オサのスキンヘッドをペシペシと叩く。


『無礼なッ!』


 女隊長レベッカが腰にした剣に手をかける。……が、オサがそれを制した。


『いや、まずはこちらの非礼を詫びよう。申し訳ない』


 オサは謝罪をすると、そのまま続けた。


『さっきの質問なんだが、その怪しい男はなんだ? まずは答えてほしい』


 ジェイクは心底面倒臭そうに舌打ちをする。


『ここから北西にわけのわからん町が現れてる。そこで拾った』

『意味がわからん』


 大雑把な説明に、オサが首をかしげる。見かねたヒイロナが詳しく補足をする。


『こことは違う、別の世界……か』


 オサは懐疑的だ。いきなりそんな話をされても信じられないのは無理もない。学人やヒイロナですら、まだ実感が無いのだ。

 顎をいじりながら考え込むオサに対して、ジェイクが言う。


『もしかしたらあの戦争のせいかもな。どうなったのか情報は届いてるのか?』

『ふむ……二年前のか。お前たちは愚かだ。素直に死を受け入れるのが運命だったのだ』


 その言葉に、ジェイクとヒイロナの顔色が変わった。


『おい、二年前ってどういう事だ!』

『何を急に。二年前の女神大戦の事を言っているのだろう?』

『二年前……』


 深刻な話をしているであろう事は、雰囲気から学人にも伝わる。

 同時に、内容がわからないのが不安になった。


「ヒイロナ……」

「あと、いう。ガクト、ちがう」


 ヒイロナはその不安を察して、学人の話ではない事だけを伝える。


『女神様の力が原因だとしたら、有り得ない話ではないかもしれんな……。もしかしたら、それが何か関係しているのかもしれん』


 オサが話を変える。


『何かあったのか?』

『五日前に到着する予定だったキャラバンが来ない。この都市の食料を供給するキャラバンだ』


 この都市は自給自足ができないのだろう。

 それを、他の都市から来るキャラバンに頼っていた。それが途切れてしまうと死活問題どころの話ではなく、都市の滅亡を意味する。

 関係の無い方向に話が向くが、ジェイクは黙って聞く。


『昨日、偵察隊を編成して様子を見に行くはずだった』

『だった? 出発していないのか』

『出発前日、つまり二日前だ。鉱山で落盤が起きた。何の前触れも無く、突然にだ』

『鉱夫でも埋まっちまったか? 救出活動で出発ができないと?』

『違う。落盤があったのは幸い夜だ。鉱山は無人だった』

『なら、それが偵察隊の出発と何の関係がある?』

『偵察隊の指揮をする者が、なぜか崩れていく鉱山の中に飛び込んで行ってしまったのだ。そこでだ、外から来たお前達に頼みがある』

『断る』


 大方、代わりに様子を見て来いとでも言い出すのだろう。

 ジェイクは内容も聞かずに、にべもなく断る。引き受ける義理は無い。


『他の奴が指揮して出発すりゃあいい。俺達には関係ねえ』

『皆、この都市から出た事が無いのだ。危険だ。引き受けてくれた暁には、この都市での自由を許可しよう』

『もう一度言う。断る。どうしてもってんなら、鉱山に入った奴を助け出してから出ればいい』

『無理だ、救出には時間がかかる。また崩れる恐れがあるのでな、手を出せていないのが現状だ。もう間に合うまい』


 つまり、自分達は引きこもりで、外に出るのが怖いから初対面の人間にお願いする。


(どういう了見だよそりゃあ……まてよ……)


 偵察隊のリーダーがいなければ、外に出るのが怖い。その事から考えると、鉱山に閉じ込められた人物に思い当たった。


『まさか……その鉱山に入ったっていう偵察隊のリーダーは……』

『唯一都市の外を知る者、ロウェルスターだ』

『馬鹿野郎! これ借りるぞ!』

『あ……ッ! 馬鹿者、それはッ!』


 ジェイクは怒鳴り声を部屋に響かせ、飾ってあったハンマーを手に、外に飛び出して行ってしまった。

 オサとレベッカも血相を変えてジェイクの後を追う。

 言葉がわからず、状況を飲み込めていない学人が、恐る恐るヒイロナに尋ねた。


「ヒイロナ、何が……」

「ジェイク、ともだち、やま!」


 ヒイロナは少し逡巡をし、前に見せた念話(テレパシー)をしてきた。


(ジェイクの友達が鉱山で生き埋めになってる。それを聞いて飛び出して行っちゃった、わたし達も追いかけよう!)


 学人とヒイロナも建物を飛び出し、線路を頼りに鉱山へ向かう。




 先を行った三人の姿は既に無かった。鉱山までは直線で行けそうにない。道に迷う事を考えれば、遠回りでも街を囲う坂道を行った方がいいだろう。

 坂道を走っていると、屋根伝いに飛び跳ねる影が見えた。ジェイクだ。

 軽い身のこなしで街を真っ直ぐに突っ切り、鉱山に到達する。

 鉱石族(ドワーフ)の二人は近道があって、それを行ったのかもしれない。


「なんだよあれ、ずるいだろ!」


 ジェイクは中央の入口へと消えて行った。

 もうだいぶ日が沈んだとはいえ暑い。大量の汗が顔を伝う。運動不足のサラリーマンが坂道をずっと走り続けれるわけもなく、とうとう立ち止まってしまった。背負っているザックも重い。

 肩で息をしながらヒイロナに言う。


「ヒイ……ロナ……ちょ……まって……」

「ガクト、いそぐ!」


 ヒイロナは一度止まって振り返ったが、すぐに前を向いて走って行ってしまう。これ以上走れない学人は、歩きながらゆっくりと後を追った。


「元気だなー……みんな」


 そう呟きながら鉱山を見上げると、入口よりももっと上。山脈の岩肌に不思議な物を見つけた。


「なんだあれ?」


 人がとても登れそうにない所に、なにか建物の一部にも見える人工物があった。とはいっても、建物にしては小さすぎる。

 坑道が上に向かって掘られていて、あれも鉱山の一部なのだろうか。

 学人は不自然な部分に疑問を覚えるが、今はそれどころではない。棒になった足を引きずって鉱山へ向かう。



 入口に到着すると、今度はヒイロナが鉱石族(ドワーフ)の二人と揉めていた。

 揉めているというよりは、ヒイロナが一方的に怒鳴られているようだ。


 嫌な予感を感じながらも、近付いてみる。

 話を聞いてみると、原因はジェイクが勝手に持ち出したあのハンマーだった。

 何百年も昔、一人の鉱石族(ドワーフ)があのハンマーでこの地に巣食う魔獣を退け、鉱山都市を作ったという言い伝えられている。

 つまり、伝説のハンマーだ。

 連帯責任でお前達が取り戻して来いと、怒り心頭というわけだ。


 行かざるを得ない。放っておけば何をされるかわかったものではない。

 学人が崩れた坑口を覗いてみる。

 入って少しした所から崩れていて、天井付近にはまだ少しスペースがあった。人一人ならなんとか通れそうだ。ジェイクもそこから潜り込んで行ったのだろう。

 かなり狭いので、体格の大きい鉱石族(ドワーフ)には無理かもしれないが。


 転がっていた空っぽのランタンに、ヒイロナの周囲を照らす魔法の球を入れてもらう。

 照らす範囲はかなり小さくなってしまうが、これならば術者の後にしか付いて来ない球も、自由に持ち運べる。

 念の為にとザックから包丁を取り出す。

 さすがに女の子に先を行かせるなど格好が付かない。


「僕が先に行く、合図したら続いて入って来て」


 ヒイロナにジェスチャーでそう伝え、ザックを放り出して土砂をよじ登る。

 隙間から中の様子を窺うも、奥まで光が届かず、どうなっているのかがわからない。

 匍匐前進でゆっくりと進んで行く。道のりは長く、かなりの規模で崩落してしまっているようだ。

 とりあえず土砂が途切れるまではと、どんどん奥へ進んで行く。

 あと少しという所まで来ると、何かが聞こえてきた。心臓に悪い嫌な音、地鳴りだ。


『ガクト! 危ない!』

『また崩れるぞ! 下がれ!』


 後方からヒイロナとオサの遠い声が届く。


(崩れるっ!)


 そう察した学人は、急いで先に進む。戻っている時間なんてない。


「うわあああああ!」


 間一髪だった。学人が瓦礫を転げ落ちると同時に、再び落盤が起きた。

 入口は完全に塞がってしまった。

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