1.プロローグ
不定期更新にしてプロットも無し。
行き当たりばったりなお話がスタートです!
頭の中でネタは思い付くのですが、文章にする執筆力は皆無。
けれどやっていくうちに読めるようになるように、精進していきたいと思います。
この作品が落ち着いてきたら、ラフでも載せようか。
鐘が鳴る。
そんな行くことも無く、基本テレビを介して聞くことが多いであろう除夜の鐘ではない。
セー○ームー○のアニメのOPが始まった時のような教会の鐘でもない。
ゴーンって、そんな重い音じゃなく。
「敵襲だー!!!」
カンカンカン、ってやつの方で。
偶々少し離れていた場所にいた私は、見上げれば村の中腹にある見張り台で、男が力任せに何度も鐘を叩いているのが見えた。
「どうやら隣国が動いたようですね。マイカ様、ここは危険です。こちらへ」
背後から声を掛けられ、促されたのは何の変哲もない衣装箪笥の正面。
しかし訳もなく連れてこられたのではなく、声を掛けてきた主が箪笥の持ち手を何度か回転させると、手を離した瞬間、箪笥の中で何かを引き摺る音が聞こえた。
そして鈍い音を立てた後、そこで鳴り止んだ。
それを待っていたかのように、私をここへ連れてきた男が箪笥の一番下の引き出しを開ければ、中にはトンネルのようなものが存在していた。
所謂、仕掛け箪笥というもので、公人や商人等、主に社会的にも影響力がある人物が金庫代わりによく使うものだ。
例えば族が入ったとしても、仕掛けの解除方法が判らなければ手出しは出来ない。
当然解除方法は万に一つも同じ物は無いと言われてはいるが、似たり寄ったりの物も多く、稀に綺麗にごっそり持っていかれる事もしばしばあるらしい。
その為、下手な所に隠すよりはあった方が良いとされるのが、一般的な認識である。
だがこの屋敷は隠しているものが物や金品ではなく、防空壕だったり避難口だったりする。
ちなみに今私の目の前にあるのは、避難の為の隠し通路の入口である。
「さぁ、早く中へ」
男に背を押され、狭い入口へ押し込まれる。
しかしすんでのところで踏みとどまると、男へ振り返る。
「ジャス」
急がねばならないこの状況で名を呼ばれた男ーーージャスは、怪訝な表情でこちらを伺った。
配下である彼がどう思おうと、格上の私の行動を咎める事は無い。
むしろこういう時だからこそ、私の意志を図りとる事は最も重要視される。
ここで私が盾になれと言えばそうする様に。
何を言われるのか、と構えている彼に、私は静かに言い放った。
「ジャス、お前は今を持って自由の身となれ」
「え?」
予想もしていなかったであろう言葉に、ジャスは数度瞬きを繰り返した。
「何だ。お前の耳は節穴か?クビだと言ったのだけれど?」
そう言って嘲笑する私に、ジャスは目を見開いて口を噤んだ。
「信じられない、といったような表情だな」
「……というより、何を仰るのかと」
そう思うのも当然だ。
つい先程警報が鳴るまで、私達はいつも通りの日常を送っていたのだ。
こんな状況で解雇を言い渡される理由など、到底思い付きもしないのだろう。
「このような時に冗談はや」
「そういう事だから。避難が終わったら契約終了。もう顔見せないでね」
ジャスの言葉を遮って強引に言葉を被せた。
納得のいっていない顔をする彼が再び言葉を放とうとする。
それを感じて睨みつけると、私が本気なのだとわかってくれたみたいだ。
「……せめて、理由を」
正面を見据え、私の肩を掴む。
「あなたが」
次に出る言葉は、本心からじゃない。
それでも、きちんと言わなければ。
一呼吸の間を空けて、口を開いた。
「嫌いになったの」
ギリーーーと、肩を掴んでいたジャスの指が食い込む。
「ーーーっ。そんなの、納得出来るわけ無いでしょう!」
判ってはいるが、命令だと諭せば口を噤む。
その表情は歪んで、睨みつけるように私を据えていた。
居たたまれなくなり、捕まれていた肩を振り払うと、私は逃げるように踵を返して箪笥の中へと足を踏み入れた。
躊躇いは無い。
覚悟していた事が、今になっただけだ。
「マイカ様!」
ジャスが声を張り上げて追いかけて来るのがわかる。
元々使う道だったが、本来走っていける場所ではなく、壁の岩肌が突き出ていたり、地面も舗装されておらず険しい。
けれども躊躇ってはいられない。
彼から逃げるように、私は走った。
「ま、待って下さいマイカ様!!」
普段から冷静な男がこれほど声を上げるのを聞いたことがない。
心が折れそうになる。
けれど振り返っては駄目だ。
何のために彼を突き放したのか、意味が無くなる。
情に絆されてはいけない。
そんな生半可な覚悟ではなかった筈だ。
そう言い聞かせて、私は重い足を踏みしめて進んでいく。
私を必死で呼ぶ声を聞きながら。
「マイカ!!!」
何度も何度も耳にした名前。
事あるごとにマイカ様マイカ様と、後ろを付いてまわられた。
主にぐちぐちと嫌味を吐かれるからか、名前を呼ばれる毎によく肝を冷やされる思いだった。
時が過ぎ、名前に様を付けなくなったのはいつの事だったか。
私が二人の時は敬語はいらないと懇願した事で、彼を困らせていたのが懐かしい。
けれどもうおしまい。
これからもう名前を呼ばれる事も、その声を聞くことも、その姿を見ることも無い。
彼と過ごした思い出を胸に刻み、目尻に溜まった涙を拭う。
彼はすぐそこまで来ていた。
女が男の足に敵うわけがない。
それでも捕まることは無い。
いや、捕まる訳にはいかない。
私の居場所はここではないのだから。
全ては計算の上。
そして完全に視界が暗闇に覆われた今、計画は実行される。
脳裏にイメージするのは複雑な陣。
そして陣の中央に光る柱。
そこに足を踏み入るのを想像する。
一歩、二歩、とゆっくりと。
私の在るべき場所へと。
「さようなら、ジャス。私の大切なひと」
そうして私の視界は、眩しいくらいの光に包まれた。
プロローグなので短めです。
異世界へトリップする話なのに、初っ端から異世界から戻ろうとしている矛盾。
見切り発車は気を付けよう……。