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プロローグ

これから書いていこうと思います。

拙いかもしれませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

すでに設定やあらすじは決めているので、個人的な目標としては設定を活かすことでしょうか。


さて、まぁ、そんな感じで、

魔法世界ファンタジー物、始まります!

 いわゆる職人が行うダイヤモンドの加工方法に、それはよく似ていると言われている。

 便利な発明や手段があるにもかかわらず、今もなお伝統的な手法で玉石を扱う職人たちは、自分が手にした石を見て、適切な姿を見出し、形を整え、美しい輝きをあしらえる。鉱山などで採取された、石ころと見まごう原石を、時に人々の心を狂わせる宝石へと変える工程は、なるほど、確かによく似ている。


 レイ・バラシエルがぼんやりとそんなことを考えていると、私立ウィドゲン高等学校が抱える広大な校庭の一角で、大きい歓声が上がり、拍手が起こった。

 キャーキャーと騒ぐ女生徒の声に紛れて、女性教員の「キリ・ミゲ・ソーレンス、下がっていいぞ」という声がした。レイがそちらを見れば、同級生のキリがその手にひょうたん百合を抱えて、わずかに笑みを浮かべて綺麗にお辞儀していた。

「次、レイ・バラシエル。前へ」

 名前を呼ばれたレイは、教師の声に条件反射で「はい」と答えて立ち上がった。

 木々に囲まれた芝生の上に自分がいることを確認し、授業中だったな、とレイは思った。見れば、くるぶし丈の緑色のアルバに白いローブを羽織り、その溢れんばかりの母性を隠しているアターシャ・ロッセルがレイの方を見ている。

 彼の一つ前に“詠唱“を行ったキリがご満悦な様子で芝生の上を歩いて戻ってくる。上手くいったのだろう。その余裕からか、通りすがりに、

「落ち着いてやれば大丈夫よ」

 とレイに声をかけた。しかし、声を掛けられたレイはむしろ一層緊張した。ごくりと生唾を飲み込む。耳がなぜだかこそばゆい。

キリと入れ違いにレイは前へと歩きだした。

 学校の敷地内にある芝生の中で、円形に切り出された地面へと足を踏み出すと、小さくジャリと音がした。更に数歩進み、白い線の上に立つ。気のせいか甘い匂いがする。深呼吸をしようとして、失敗して少しむせた。

「大丈夫、レイ?」

 アターシャの言葉に振り返り、無言で首肯する。「そう」と彼女は返したが、見るからに不安そうだ。

 開始は生徒それぞれのタイミングに任されている。昔は“それなりに“ならしたアターシャの鋭い視線と愛すべき同級生たちのからかいの視線の中、レイは改めて深呼吸した。

 原理も方法も授業を受けて知っている。あとはそれを実行に移すだけ。下手な緊張は失敗の元。アターシャの教えを思い出し、気を引き締める。


 無意識と意識の間に自分をゆっくりと漂わせ、その中で時を探り、南の山から吹き下りてきたそよ風に乗せるように詠唱する。


「溶けゆく雪に掲げる酒。向かう道に滲む汗。柔らかな日差しがその名を語るだろう」

 詠唱を始めると彼の意識はゆっくりと体を離れてゆく。風と共に芝生の上を、空を、海を駆け、到達すべき場所を探す。心なしか体の周りを風が渦巻き、木々はザワザワと震えている。誰かの、唾を飲む音がした。

「命の芽吹きに感謝と、新たな祈りを込め、我はこの訪れに今一度の歓喜を示す」

 溢れ出る自らの魔力を感じ、望む物を想起し、整え、昇華させる。イメージは、ダイヤモンドで出来た花の宝石。

「《ハミリュス・トレルス》!」

 その瞬間、炸裂した白光と、砂を巻き上げる突風と、それに続く沈黙がレイと教師と三五人の同級生を襲った。




 その日は晴れだった。


 綺麗な青空に漂う雲は呑気なもので、四時間目の授業が半分過ぎても西の空から東の地平線へ辿り着いていなかった。風はそよそよと吹き、日差しもまだまだ温かだった。

「はぁ」

 そんなのどかな空には似合わない、深い深いため息がクラス1の教室の片隅、レイの口からどっぷりと漏れた。教室の窓際後方の隅という、人によっては最高の席位置も、モチベーションが最悪なら意味もない。前から来る「うるさい」という囁くような注意の言葉も、ろくに聞こえていないようだった。

 意気揚々とチョークを走らせる“教養”の教師の話も聞かず、レイの頭の中には“詠唱”のことばかりがあった。

 ガッガッと黒板には魔法成立前までの通史が書かれ、生徒たちの板書も特別に淀みはなさそうだった。そんな空気を感じ取ったのか教師は話を進めるべく振り向いた。幸か不幸か、知ってか知らずか、一人沈んでいるレイのほうへ視線を向けることは無かった。

「んで、原初の魔法使い、うちの理事長のバンデル・ウェリミが大幅に魔法の体系を整えたんだな。あの人がいるといないとじゃ魔法史が百年違うとまで言われているくらい、すごい人なんだぞ。そして、このすごいってのが何がすごいのかが問題だ。テストに出るとこだな。これがカッティングなわけだ」

 バンデル・ウェリミが体系化した魔法の工程をカッティングと呼ぶ。これが偉大な発見で、発明だった。

 魔法成立以前は、魔法の存在や魔法使いの存在こそあれ、それに対する理解は浅かった。魔法を扱うのは、一部の魔法陣か偶然発見した詠唱を知った魔法使いとその弟子たちだけだったのである。

 そこに現れたのが、齢五〇〇を超えていたとされるバンデル・ウェリミだった。彼が魔法を体系化して一般に広めることによって、魔法の教科である“詠唱”“陣形”“感制”が学校教育のカリキュラムに取り込まれることになった。

「この体系化された魔法ってのが、今君たちが受けている授業の半分を占めることになるわけだな。君たちの教科書にも書いてある『魔法とは、思いそのものである』ってのもバンデル・ウェリミが書いた魔導書の序文にあった一文だ。これは歴史に出ないけど、国語史で聞かれることもあるから覚えとけよ。んで、この一文は要約すれば、体内にある魔力を魔法へと変換する際、行使する時の感情が重要になる……っていうのは、まぁ、君たちもよく知ってる事か」

 魔法を行使する際の要、感情制御であるカッティングは、嫉妬や憎悪など複雑な感情なほど難しくなり、詠唱によって均一的な感情を起こしたり、魔法陣で補助することが多くなる。無詠唱や魔法陣無しの場合では、難易度が格段に変わるのだ。

 レイも魔法陣の暗記や速記、持ち込みアリの実技である“陣形”ならば出来るのだが、“詠唱”は苦手で、先刻の失敗も半ば予想済みではあった。しかし、感情制御の“感制”がダメなわけでもないため、アターシャからの叱責は逃れられるものではなかった。

 七度目の溜息を吐いたところでチャイムが鳴り、日直の号令と共に昼食となった。


「ねえ、うるさいんだけど」

 礼をし、教師が帰ったのを見計らって、一つ前に座る少女が振り返って言った。

 可愛らしい少女である。活発そうな茶色い短髪には癖はなく、利発そうな焦げ茶の瞳は光を吸ってキラキラと輝いている。醸し出される雰囲気はつい話かけてしまうように明るく、それに反して華奢な体が一層構ってしまいたくなる魅力を生み出している。

「何の話かね、キリ・ミゲ・ソーレンス?」

「あなたの話よ、レイ・バラシエル」

 キリはじっと睨みながらそう言った。

 キリ・ミゲ・ソーレンス。名家ソーレンスの次期跡取りに付けられるミゲの名を受け継いだ少女で、その名に恥じない実力で学年トップクラスの成績を手にしている。成績の良さに裏打ちされた容量の良さで広い交友関係を持ち、人懐っこい性格と輝くような笑顔で男子からは特に抜群の人気を誇る。

 しかし、チャームポイントの一つである可愛らしい額には今は小さく皺が寄せられていて、表情豊かな顔から怒りを滲ませている。それに対するレイは怪訝な顔で、

「俺、何かしたっけ?」

「ため息の話に決まってんだろ」

 眉間に皺を寄せながらレイがそちらを見ると、すらりと高い男子生徒が立っていた。からかうような笑みを浮かべて、レイの事を楽しげに見ているその男子生徒は、やや長めの金髪に青い瞳のコントラストが不思議と目を引く美少年だ。

 一部女子から爽やかと評判になっている、タリナ・トレルだ。

「そんなにうるさかった?」

 そう訊いたレイにキリとトレルは異口同音に「かなり」と返した。レイはむうと唸りを上げた。一応キリに謝罪すると、挑発するようなため息で許された。

 その光景をさも面白そうに見ながら、一時間目の事を思い出したのか、トレルは楽しそうに、

「いやぁ、笑わせてもらったよ」

 その笑みに、レイは見るからに嫌そうな顔で応えた。

「何がだよ?」

「くっくっく、怖い怖い」

 愉快そうに笑うと、トレルは断りもせずに弁当箱をレイの机に置き、断りを入れてレイの隣から席を借りると、レイから見て垂直に座った。なんとなくぶすっとしたレイの表情に気づきながらトレルはニタニタと笑い続け、弁当箱を広げた。そこに入っていた弁当の内容の武骨さは、青少年が作ったと一目でわかる。武骨なそれにレイが反応した。

「あれ、妹さん、まだ怒ってんの?」

「おやつのプリンの代償は重いらしい」

「ライちゃんを怒らせるからよ」

 やれやれと嘆息をつくトレルを鼻で笑ったキリのほうも、机を反転させてレイの向かいに座るとカバンから自前の弁当箱を取り出し、開いた。


 途端、レイたちの周りから教室の端にまで波及するように、野卑ではないものの、強烈に食欲をそそる香りが広がった。何人もの生徒がキリのほうを見る。洞窟鰯の塩焼きが放つ独特な、花に近い匂いから漂っていた。じゅるりとどこで音がした。

 洞窟鰯は、その身の白さが火を入れてもなお変わらないことで知られる。もちろん焦げることはあり、その見極めは難しいのだが、上手くいけば香りも味も見た目も楽しめるメインディッシュとなる。キリの弁当箱からは見事な調理の後が垣間見えた。

 わずかにじゅうと脂の弾ける音が小気味よく、キリが箸を入れた際の、サクッという音は筆舌に尽くしがたい。身を割いた瞬間にほんのりと香るのは程よい塩の匂いで、それだけで胃袋が目を覚ますほどに、嫋やかで、刺激的である。

 それが口の中に広がった時のことを、ある人は新たな味覚と言ったそうだ。臭みの無い脂の甘さと、身に沁み込んだ塩の辛さは、舌先に触れた瞬間、ただの脂であるにもかかわらず味覚の奥深さを垣間見せる。


「なぁ、レイ。これは何かの嫌がらせかね?」

 トレルがキリに聞こえるように耳打ちする。キリはわずかに頬を赤く染めながら

「ち、違うの、お母さんが『今日のお弁当は気合い入れました』って言ってたけど、まさかこれとは」

「俺なんてパンだぞ、弁当ですらないんだぞ」

「レイまで~!」

 グズグズと泣くふりをキリはした。しかし、わらわらと寄ってきたクラスメイト達が箸を伸ばそうとするのを感知すると、フーと言いながら威嚇していた。なんだかんだ言って喜んでいるようだった。

 さすがキリのお母さんだと思いながら、レイは持って来ていた自家製食パンにイチゴジャムを塗りたくって頬張った。

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