親の背中
お題:ちっちゃな暗殺者 制限時間:15分
「……え?」
「……ん?」
僕が五十音の一つを発音すると、目の前の少女……いや幼女が正しいか、小学校一、二年生くらいの女の子も真似をしてきた。しかも最後の文字である『ん』を使ってくるとは、なかなか侮れない。
「えっと……迷子、かな?」
戸惑いながら聞くと、幼女はやや不機嫌な様子で言葉を繰り返した。僕が思わず聞き返してしまった、台詞を。
「だから、あたしが殺すから、あたなは死ぬの! いい?」
よくない。ここでオッケー任せてよと言えるのは変態でMでロリコン的な紳士の類の犯罪者予備軍と呼ばれる者達だろう。だが彼らも紳士であるからそのようなことはしないと弁明をよく聞くが……違うそうじゃない。今はそんなことどうでもいい。
幼女が遊びで聞いているのなら問題ない。だが、この子の手には果物ナイフがしっかりと握られているのだ。
相手は子供である。いいよと言ったら本当に刺してくる可能性は高い。
僕はどうやってこの場を切り抜けようかと考えるが、そんなどっかのライトノベルみたいな考察は普通いらないだろう。
走って逃げて、背を向けて逃げ出せば終わりだ。
これが銃なら、いやこの場合は銃でも、相手は子供だ。
僕よりも幼い、僕よりも小さい、子供。
それならば、話にならない。
文字通り赤子の手を捻るように、逃げ出せる。
危険なのは武器を取り上げようとしないことだ。
恐らく絶対、武器を取り上げようとしたら泣き叫ぶか騒ぐだろう。その場合、例え果物ナイフを取り上げられたとしても、周囲に人が集まった場合、僕はおまわりさんとデートすることになる。
ナイフを持った状態で泣き叫ぶ子供を抑え付けている場面を目撃したら、どんな変態だろうと助けに入るだろう。
ここは大人しく、尻尾を巻いて逃げるのが吉だ。
僕が逃げよう決心した時、女の子が口を開く。
「あたしもパパのお仕事、手伝うんだから」
嬉々として、危機としたことを言い出す。パパは暗殺者か何かのだろうか。
すると、近くの民家から男が飛び出してきた。
「こらっ! 何をしているんだ!」
「ま、待ってください! 僕はまだ何もしてません!」
思わずそんなことを口走ってしまった僕だったが、男は僕ではなく幼女に言っていた。当然だった。
「パパのお手伝いできるもん!」
「いいから、後はパパに任せない。お前はまだ早いっていつも言ってるだろう?」
「いーやー!」
ぐずる女の子を抱っこして、男は僕に「すみません」と言って家に戻って行った。
恐らく、こういう展開になったのはライトノベルの読み過ぎだからかもしれない。
もっとこう、なんかこう、上手くストーリーを考えられなかったのだろうか。
課題である……。