溶けたチョコ
お題:軽い火事 制限時間:15分
「なぁ、今日が何の日か知ってる?」
「へっ!?」
授業が終わった放課後、関東では大寒波となる豪雪に見舞われていた。
窓から見える景色は真っ白の一言。
凍えるガラスが、ストーブの体温によって汗をかいていた。
私と彼は誰も来ない部室で思い思いに過ごしていた。
「な、なにが?」
「いや、あれだなーと思ってな」
彼がぐだーと、机に伏す。
私はストーブではない暑さを感じつつ、バックへと目を向けた。
そこには今日、彼に渡す予定のモノが入っている。他の部員の子にも頼んで、二人きりにしてもらったのだ。
チャンスは今しかない、と思いながらすでに一時間が経過していた。チャンスは何処に行ったのだろう。
「あ、あれって何が?」
とにかく話題を続けようと尋ねると、彼は少しばかり拗ねた様子で答えた。
「いんやー、なんか今日に浮かれた奴らがたくさんいんだなーと思ってな。他の奴らも来ねえし……」
来ないのは私が頼んだからなのだが、そんなことに気付くはずもない彼は今日という日を理由に来ていないのだと思っているようだ。
「そ、そうだねー」
「んで、お前は誰かに渡したの?」
直球できたー、と心の中で叫んでしまう。
大胆すぎる質問だ。それと同時に、あっさりとそう聞いてくるということは、どういうことだろう。
私にまったく興味がないから聞いて来るのか、チョコが欲しいから聞いて来るのか。
どちらの理由だったとしても、結構心に来る。ぐさりと、窓の外に見える雪の如く、冷たい一撃だ。
「わ、渡してないけど」
「あー、じゃあこれから?」
「な、なんでそう思うの?」
「だって、お前のバックにチョコらしきものが見える」
なにぃー!?
慌ててバックを見る。確かに口は開いているが、彼の位置から見えないように調節したのに。
これは予定外だ。チョコを持ってきていることを知られている。
いや、まぁ知られていても別にそれほど問題があるわけじゃないんだけどね。
私は壊れてしまった心臓を少しでも落ち着かせるため、深呼吸をしてみるが失敗だった。
「? はぁはぁどうした?」
「べ、別に! 何でもないんですのでよ!」
変態的な息遣いに変な言葉使いになる。
ああもう、妄想ではもっとロマンチックで素敵な感じだったのに、雪は降るのはいいが降りすぎだ。豪雪ってなによ、これ遭難した感じの降り方で全然ロマンないんですけど。
はぁと溜息を吐いたら、彼が立ち上がった。もう帰るらしい。
ああ、なんだこれ、もう結局渡せないのか、そう思った私の横まで彼が来ると、徐に鞄を漁り出した。
「ちょ、何やってんのよ!」
「なぁ、これすげえ豪華だけど、本命?」
「あ、あんたに関係ないでしょ……」
バカだ私。ここであんたのだって言えば上手く渡せたのに。
だが、彼は言った。
「……なぁ、じゃあこれさ。俺に、くんない?」
「うん……え?」
今、なんて……?
「だからさ、その、これ、くれよ。やる奴いないんだろ? だったらその、このチョコ……」
そこから先はあまり覚えていない、なんてことはなく、あまり言いたくないだけだ。
ただそうだ、私の中では軽い火事のように、身体が熱くなっていた。
それだけ素敵な日になったことだけは、伝えておく。
ありがと、協力してくれて。
最後が時間足りなくて失敗した。
お題の言葉が凄いいい感じのモノだったのに、軽いを出し損ねて、火事の伏線を張り忘れた。
火事はストーブ辺りで伏線としておくべきだった。