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乗車拒否

お題:鈍い車 制限時間:15分

 まったく駅前も変わったものだと、私は煙草を吸いながら眺めた。

 今年で四十になるが、私が二十歳の頃なんかはもっと背の低い建物が多かった。今はどうだ、高層ビルなんか建って、しかも随分とハイカラな佇まいになっている。

 これも時代の移り変わりか、と短くなった煙草を携帯灰皿でもみ消した。

 そう、時代の移り変わりと言えば、煙草もそうだ。タクシーの運転手になって二十年経つが、十年くらい前から禁煙の風潮が出てきて、今じゃ車内で吸っていると客からクレームがくる始末だ。俺の車なのに、自由に吸う事もできやしない。

 私はポンと、相棒である車を叩いた。

 俺が仕事を初めて、五年経ってから個人タクシーとして購入した奴だ。燃費に関しては決していいとは言えないが、それでも長年連れ添った相棒を変える気にはならなかった。

 そうそうタクシーと言えば、この業界だとよく幽霊に会う。同僚の話を聞くと、頻度は多くないがそれでも乗客が忽然と消えたとか、トンネルを通ったら変な手の跡がついていたとか、そういう話をよく聞いた。

 残念でいいのか、俺はそういった現象にまったく会わないんだが。同僚からは羨ましがられるが、一度見てみたい好奇心もある。

 そろそろ仕事をしようと、俺は車に乗り込み、適当に辺りを走らせた。

 先日事件の会った公園に差し掛かった。ここで若い女がストーカーに殺されたとか、しかもその幽霊が出るとか噂されている。同僚が見たと騒いでいたが、もしかしたら俺も出会えるだろうか。

 すると、公園の角辺りで手を上げる女性が見えた。

 お、客だと俺は車を徐行させるが、くそ、また調子が悪くなってきた。

 随分年季の入った相棒なので、どうにもたまに、調子が悪くなるのだ。

 エンスト気味に相棒は客の近くまで行くが、十メートルくらい手前で止まってしまった。まったく、困った相棒だ。

 ドアに窓を開けて客を呼ぼうとしたが、反応しない。おいおいやめてくれよ、まったくと思って五分ほど格闘していると、なんとか生き返った。よしよし、まだ持ってくれよと俺が客に声をかけようとしたら、誰もいない。ああ、もう、客もいなくなっちまった、ついてないな。

 不思議なことに、たまに客を乗せようとするとこういうことが起こるのだ。

 すると、老婆が窓を叩きいいですか、と聞いてきた。

 俺はドアをあけ、客を乗せる。

 まったく、今度はちゃんとスムーズに行くんだから、我がままというか、なんというか。

 そのまま車を走らせた。 

 ふとバックミラーを見ると、さっきの若い女性が他のタクシーに乗っているのが見えた。

 同僚の車だ。

 なんだまだ居たのか、と思い、俺が近くに停車しなかったから同僚の車に乗ったのだろう。

 こういうことが続くと、上客を逃すから嫌なのだ。

 まぁ、相棒を変えるつもりはないが。

 鈍い車だが、俺の相棒だしな。

 俺はそのまま順調に車を走らせた。

 それから三十分後に、同僚からまた若い女の幽霊に会ったなんて法螺話を聞かされた。

 まったく、一度いいから会ってみたいぜ、なぁ相棒?

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