拍手喝采
お題:薄汚い発言 制限時間:15分
「お前が死ね!」
「はぁ、あんたが消えなさいよ!」
言葉の応酬。互いに相手を思いやるのではなく、いかにして傷つけるかを念頭に置いた、刃物に変わる言語の斬り合いだった。
「ふざけんないつもいつも色目使いやがって、どうせ男漁ってんだろ!」
「あんた人のこと言えんの? ちょっとミニ穿いてる子がいたら鼻の下伸ばして……あれ、女子はみんなわかんだからね? 気持ち悪い」
「は? 見せたいんだろ、じゃなかったらそんなバカみたいに短いの穿くわけねぇだろ」
「男はあれね、エロい恰好しか見ていないのね。だからダサい恰好とか平気でするのね」
女が腕を組みそっぽを向く。
男は不機嫌に珈琲を飲んでいた。
修羅場、という奴だろう。
聞くに堪えない単語が飛び交うが、周囲の人間はわれ関せずと見向きもしていなかった。
私は一つだけ、彼らに言う。
「すみません、一つよろしいですか?」
「なんだよあんた」
「いえいえ、少しばかり気になったことがありまして」
男が不審な視線を送ってきたので、私は友好的な雰囲気を出すために肩を叩いた。友人にするように、そう気を張るなと。
「これ、どうぞ」
私はそう言って、女の方に一枚の写真を見せる。眉を潜ませていた女が、器用に写真を見た途端に吊りあがる。
「ちょっと! これどういうことよ!」
女が私から写真を奪い、男に付きつけた。そこには男によく似た後ろ姿と、見知らぬ女がホテルに入っていく姿がばっちりと撮られていた。
「はぁ!? 知らねーよ!」
「これあんたでしょ!」
「ちげーよ俺じゃねーし!」
そこから先ほどよりも加熱した、激昂した音が響き始めた。
私は火に油を注ぎながら、いそいそとその場を離れる。あの写真はまったくの別人だが、頭に血が上っている状態ならそんな判断できないだろう。
すると、周囲の野次馬と言うべきわれ関せずを貫いていた幾人の人間の言葉が聞こえてくる。
「うわーすごーい」「恥ずかしくないのかね」「こんな公共の場で……」「あ、彼女が殴った」「あれだねー人間って醜いねー」「おいおいあの女、喧嘩の後誘ってみねえ?」「最近の若いもんは……」「やーね、頭の悪そうな方達だこと」
様々な言葉を聞き、止めることも宥めることもしない、対岸の火事を眺めるだけの無責任な事を言う人間達を見て、私はほくそ笑む。
「はは、本当に薄汚い奴らですな、人間ってのは」