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離層

お題:理想的な兄 制限時間:15分

 理想とは何だろう。

 大体の人が素晴らしい人を想像する。

 理想的な親に、教師に、友達に、恋人に、兄弟。

 理想とは何だろう。

 私の兄が理想的かと言えば、まずその理想を持つのが誰かなのが問題である。

 兄から見れば自分は理想的な兄であると考えているかもしれない。

 親から見れば兄は理想的な兄であると考えているかもしれない。

 主観的なモノの見方でしかないのだ。

 理想なんてものはそもそも存在しない。自分の中で相手がいかに心地良い存在であるか、その程度の定規でしか測れないのだ。

 例え完璧な人格であろうとも、感じる者が完璧な人を求めていなかった場合は理想からかけ離れた存在になる。

 だから兄は、間違ったのだ。

 理想的な兄でいよう、理想的な存在でいよう。

 そんなことを考えたから、兄は兄らしくなくなってしまった。

 決して文武両道で誠実な聖人の如き振る舞いをしても、それは私にとって全然理想的な兄ではない。

 兄はもっと、ダメな人だった。

 ダメなのが兄だった。

 なのに、理想的なんて言葉に踊らされ、踊ってしまって、兄は理想から離れてしまった。

 誰もが言う、理想的なお兄さんだねと。

 でも、そのせいで兄は死んだのだ。

 現実には生きているけど、もう子供の頃のような、バカをやって笑う、バカをやって泣く兄はいない。

 誰かの理想を埋め込まれた兄は、理想を追い求めるあまり理想から離れてしまった。

 私の理想から、いなくなってしまった。

 だから私は言った、兄に。

 何が気に喰わないんだと、困った顔をする兄に。

「そんな理想的なお兄ちゃんじゃなくて、もっと理想から離れた、理想じゃないお兄ちゃんが私の理想だった」

 きょとんとした表情の兄は、私の言葉を聞いて、拗ねた顔をして言った。

「うるせぇ、お前の理想を押し付けるな」

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