忘れていた言葉
お題:素晴らしい台詞 時間:15分 終了:13分程度
いったいどうすればいいのだ。
警部に頼み込んで、居間に関係者を集め推理を披露したのはいいが、私は最後の言葉に詰まっていた。
謎は全て解けている。
誰が犯人かも予想がつく。
だが、だがだ。
私は最後の、締めとなる言葉が出なかった。
間抜けにも犯人を指差し、口を開いた段階で私は言葉を失っていた。
気が付いてしまったのだ。重要なことに、大切なことに気が付いた。
私は、私は何の準備もしていなかったのだ。
探偵という職業でありながら、日々活動していることは浮気調査といった地味で味気ない調査の数々。
ドラマのように事件に遭遇することもなく、私はサラリーマンのようにルーチンワークをこなしていた。
それがたまたま、とある富豪の孤島に招かれ、嵐がきてある種の密室となり、遺産を巡る殺人事件に巻き込まれ、偶然に偶然を重ねたヒントを見つけ犯人を特定できたというのに、私はもっとも重要なことを忘れていた。
ああ警部が不思議そうに見ている。館の住人も、お手伝いさん達もいったいどうしたのかと、私が指を向けている婦人さえ最初は戸惑っていたのに、今は首を傾げはじめていた。
証拠はある。
根拠もある。
凶器もあり、犯人もいる。
ないのはただ一つ……決め台詞だった。
どこのかの漫画のように真実はいつも一つだとか、祖先の誰かの名にかけてとか、自分の名前を言ってなになにでしたとか、そういったかっこよく素晴らしい決め台詞をまったく考えていなかった。
どうしよう、どうしたらいいんだ。
そういえば、陸の孤島と言われる警察のドラマの主人公も決め台詞らしきものはなかったかもしれない。それなら大丈夫……いやいや待て、あれはあれでキャラが立っていて、そういえば一つよろしいですかと言っていた。今更一つよろしいも事件のあらましも内容も全部語ってしまった後なので言えるわけがない。
そうだ、それなら外国のミステリ小説を参考にしたらどうだろう。
私が知っているのならうちのカミさんがおいおい待て、彼女もいない私がそんなことを言っても、というよりそれもまた今言う台詞じゃない。
悩んで迷った挙句、私が口にしたのは何とも決まらない台詞だった。
「えっと……犯人は、あなた……です……よね?」