ももたろう
鬼は目を見開く。
桃太郎と言ったその少年を
面影のあるその顔を
そして鬼は静かに目を閉じた……
「おばあさん!僕は鬼退治に行こうと思います!隣村のゆきちゃんが泣かないように!」
おばあさんは驚きました。先日隣村が鬼たちに襲われ見るも無残な姿になり大人が見るに耐えないその光景は鬼たちの恐怖を一層強めるものとなったにも関わらず、高々と鬼退治に行くと言ったのはまだ幼い少年だったからです。
「なりません。あのような野蛮な者たちを相手にしたところであなたが殺されてしまいます!」
「ですが!僕はもうゆきちゃんが悲しむ姿を見たくないんです!」
その言葉におばあさんは声を荒げようとしますが、ぽん、と肩に手を乗っけられ出るはずだった言葉は不発に終わります。
「行かせてやりなさい」
「おじいさん」
おじいさんは優しく微笑み
「守りたい者がある。それだけで人は強くなれる」
おじいさんのその言葉におばあさんはため息をつき「きびだんごを作ります」と静かに言い作るために台所へと行こうとしました。
「おばあさん、僕を拾ってくれてありがとうございます」
「……あなたはうちの子です。何があっても」
おばあさんは涙声でそう言うと足早にその場をあとにしました。
「桃太郎。鬼を退治するのは簡単なことではない。生きて戻ってくるんだよ」
「はい」
桃太郎は頷きました。
この桃太郎、実は大きな桃から生まれたという面白い運命を持った持ち主なのです。
川から流れた大きな桃をおばあさんが拾い上げ切ろうとしたところを産まれ、桃太郎と名付けられました。
「それでは、行ってきます」
桃太郎はきびだんごを持ちおじいさんおばあさんに言いました。
「気をつけていってくるのよ」
「無理はしないことじゃ」
「はい!」
桃太郎は元気よく返事をし旅立って行きました。
途中、犬、猿、キジといった仲間を得てついに鬼ヶ島についたのです。
鬼の頭は驚きました。
人間1人と動物3匹が乗り込んできたからです。
ですが、そこは腐っても鬼。
皆殺しだ!と叫び桃太郎たちに飛びかかります。
犬は大きな口を開け鋭い牙で相手を噛み殺し
猿は鋭く爪で相手の急所を狙い
キジは空を飛び空中戦へと持ち込みます。
体の大きな鬼は小さく機敏な動きをする3
匹についていけませんが、重い金棒を振り上げ、力強い腕で3匹を殺そうとします。
途中犬は足を、猿は腕を、キジは羽を折られますが、続々と鬼たちを殺します。
桃太郎は頭である鬼と対決していました。いや、対決というより一方的な攻撃を受けていました。
血は流れ痣は赤黒く変色し始めていました。
顔は腫れ足は折れ引きずりながらそれでも鬼に向かっていきます。
目はまだ光を失っていません。
「もういいだろ。諦めろ」
鬼は息を荒げます。何度も何度も殴り蹴っても向かってくる桃太郎に向きになり力を使うため体力が消耗しているのです。
「まだ、だ」
桃太郎は満身創痍になりながらも立ち上がります。その姿に鬼は少なからずとも恐怖しました。
いくら痛めつけても立ち上がり足を折れようとも動くのをやめない少年。
ふらふらと体を揺らしながら立ち上がると鬼を射殺すように見てきます。
鬼はその眼差しに時が止まったように、動くことができなくなりました。
桃太郎はその一瞬を見逃さず持っていた剣で鬼を刺しました。
鬼は口から血を吐きます。
「お、お前はいったい……」
「僕は桃太郎。大きな桃から産まれた桃太郎さ」
鬼はそれを聞くと目を見開きました。
「お前たちはゆきちゃんを泣かせた。だから許せない」
桃太郎のその言葉に鬼は顔を歪めました。
そして、一言
「すまなかっ、た」
鬼は謝ると倒れ、それ以上動かなくなりました。
「やったね桃太郎」
キジが言いました。どうやら犬猿キジは無事なようで鬼たちはみんな殺したのです。
桃太郎は安堵しました。
「向こうに宝があったよ、持ち帰ろう」
猿が言いました。桃太郎は頷き、今まで見たことがない宝を目にしました。
キラキラと輝く宝をひとつ残らず袋にいれます。
すると、一枚の紙を見つけました。
「もしかして、他の宝の地図かも」
犬はそれを桃太郎に渡しました。桃太郎はその四つ折りにされている紙を開きます。
「これは地図でもないよ。字がビッシリだろ」
「なんだー、でも読んでよ桃太郎」
キジが言うと桃太郎は分かった、と返事をしました。
紙にはこう書かれていました。
優しい鬼を愛し、人間であるわたしを愛してしまい誘拐ということでこの鬼ヶ島に一緒に行ったこと。
そのせいで鬼と人間の仲が悪くなってしまったこと。
子どもが出来たが母親にそっくりの人間のためここじゃ育てられないこと。
大きな桃に入れて海に流したこと。
今度は父に似た子どもができ、その子は鬼だからここで育てていること。
鬼にとって久しぶりの小鬼の誕生で鬼たちは喜んだこと。ただ、桃に入れたあの子はすてきな人に運良く拾ってもらったのか心配だと書かれていました。
桃太郎は読んでいくうちに顔を青白くしていきました。
「桃太郎、まさか」
犬はその先の言葉を発しようとしましたが、後ろからガサリと音がして全員振り返りました。
そこには小鬼が泣いていました。
「よくも、父さんを
よくも仲間を……!」
小鬼は一直線にこちらへと向かっていきます。犬猿キジは警戒しますが小鬼は3匹には目もくれず桃太郎へと向かってきます。
「桃太郎!」
猿の驚いた声に桃太郎は薄く笑い、小鬼を殴りました。
満身創痍な桃太郎に比べて小鬼は怪我をしたいません。それでも桃太郎は小鬼を何度も何度も殴りその度に小鬼は倒れ、それでも向かっていきます。
桃太郎は鬼と人間の間に産まれたこども
鬼の血を引く
久しぶりの小鬼の誕生
一直線に向かってきた小鬼
それが呼ぶ父さんとはだれか
自分が殺した鬼は父親ではないのか
ダ レ ノ チ チ オ ヤ
コ オ 二 ト ジ ブ ン ノ
ソ レ ナ ラ コ オ 二 ハ
オ ト ウ ト ?
桃太郎は一心不乱に小鬼を殴りましたが小鬼は何度も何度も立ち上がります。
犬猿キジはその光景にデジャヴを感じました。
先ほどの桃太郎と鬼の戦いです。
あの光景にそっくりなのです。
思わず目を背けます。血の繋がった兄弟だと誰もが思いました。そして、まるで兄弟喧嘩のようだと。
そして勝敗は兄である桃太郎になりました。
小鬼は悔しそに見つめます。睨みつけ体が動けるなら必ず向かっていくだろう。
だが、体力はないに等しい。
桃太郎は小鬼に向かって言いました。
「僕は桃太郎!人間だ!そして逃げも隠れもしない!いつでも殺しに来い!」
小鬼は驚きましたが血を吐きながら
「必ず、殺す」
と、だけ言い残し気を失いました。
「なんで、あんなこと言ったの?」
キジは言いました。
「さぁ、僕もよくわかんない。ただ、お兄ちゃんだからかな」
桃太郎は空を見つめ悲しそうに微笑んだのでした。