この“おもい”はのしかかる
「ケイジさん、朝起きたらエリーの胸元に白い液体かかってたんやけど、なにか知らん?」
ぶふぉ!!!
「な、なにを言い出すんだノゾミっ!?俺は我慢したz「ああごめんうちが牛乳こぼしたんやった」……ッッッ~~~!!!」
「………で、ケイジさんはナニを我慢したんかなぁ?」
ノゾミがゲスい顔してこちらを向いている、エリーは話についていけず???と頭に浮かべているようだ…。
「おいゲスミ…じゃないノゾミ、いい加減にしろよ?」
俺はさすがに我慢ができなくなり、少しだけ怒気をこめてノゾミを睨む。
エリーが不安そうな顔で俺の横に寄ってくるが、ここはガツンと言っておかないとだめだ。
相手が女だろうと、俺は外道には容赦はしない。
「昨日、手、伸ばしてたの、見られてないとでも?」
容赦はしない…………が………外道は俺だった…。
俺はがっくりとうなだれ、orzとなった。
「2人とも早く行きましょうよ!今日中に南西の村に着かないと!」
こういうときはエリーの無垢さが助かる。
俺達はキャンプを片付け、南西の村へと向かった。
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「もうほんっまにありえへんっ!」
「す、すまん…」
両手を合わせて平謝りをするケイジ、私達は南西の町を出てハンナリに戻っている途中だ。
え?リーザドンはどうしたのかって?
「まず第一に!なんでリーザドンを1人で蚊を殺すみたいに殺れるんっ!?
そんでもってどうしてそれを言わへんの!
せっかく3人で連携してって、言ってたのに!色々用意してきたのに全部無駄やんか!」
そう、私達はもう既にリーザドンを倒したのだ、いや性格には彼1人でなのだが・・・。
さかのぼること30分前、南西の村に着き、クエスト依頼をした村長のところに行った。
村長が言うには、リーザドンは既に村近くの森を抜け、西都ハンナリのほうへ向かったとのことだった。
村長等も捜索隊を出したが、移動速度が速いうえ、緑色で森に溶け込むため発見に至らず、打ち切ったそうだ。。
その話が出た瞬間、ケイジが「え、緑…?」と顔を引きつらせて呟いた。
「も、もしかしてこれ…リーザドンのやつかなぁ?」
彼が布袋から爪と牙を取り出した…リーザドンのだった…。
曰く、昨夜薪を集めていたら緑色のトカゲが襲ってきたのでついやっちゃったZEということらしい。
Bランクのモンスターを、つい、で倒すのかという疑問がでたけど、ケイジだし仕方ないか…。
そんなこんなで、村長からは一応クエスト達成の証をもらい、ハンナリに戻ることにしたのだった…。
「もうっ!せっかくのPTなんやで!」
「だから悪かったって…リーザドンって赤くて翼があって尻尾に火がついてるイメージだったんだよ…まさかあんなしょぼいトカゲがリーザドンだなんて…」
「しょぼいて!あれ普通はBランクやで!?いくら単体で幼獣やったとはいえ、めちゃくちゃやん!」
ノゾミは怒りを抑えず吼えまくる…。
確かにめちゃくちゃだ…けど、Bランクモンスを瞬殺…かっこいいなぁ…。」
2人がジーっとこっちを見つめる、どうしたのだろうおまけにケイジは顔が赤い。
「ノゾミ、声でてたで…。」
「~~~~ッッッ!!?」
私は声にならない悲鳴をあげた。
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「ところでや、ケイジさん、あんたの魔力どないなってるん?
うちらも把握しとかんと正直やってられへん。」
南西を出て半日、俺達は行くときと同じように夜営キャンプをしいた。
エリーの絶品料理に楽しみながら食事をしていると、ノゾミがきりだしてきた。
確かに、気持ちはわかる…しかし話してもいいものだろうか。
俺は全リミッターをONにした状態であっても、本気を出せば彼女達など足元にも及ばないほどの魔力を所持している。
彼女の自信を砕かないだろうか、いや違うな…何より怖いのは、彼女達が俺のことを怖がることだ。
圧倒的な力は、畏怖され距離をおかれる…この世界にきて、俺は久々に人と付き合うということを実感した。
女性というものも、体験している。
はじめて女性をかわいいと思った。
だから、そんな彼女達に怖がられるのが、怖い…。
俺が思いつめた表情で黙っていると、エリーがそっと俺の拳の上に手をおいた。
「ケイジ、あなたが言いたくないのなら、それでもいい。
けど、私は…あなたのことが、知りたい。
なんとなくケイジがとてつもない力を持っているんだってわかる、けどそれでも私はそれを知りたい。
………………ねえ、ケイジ。
私に、あなたを教えて…。」
エリーの瞳は潤んでいた、しかし、目はまっすぐとこちらを見ていた。
「わかった。少し離れてくれ。」
不安でたまらないが、今はあの瞳を、俺をまっすぐ見てくれた彼女を信じよう。
「はあああああ…………ッ!」
俺は抑制していた気を解放した――無論全リミッターONでの状態においてのだ。
周りの木々はざわめき、風が吹き荒れ、大地が揺れる。
気を抑えて2人のほうを見る。
エリーはポカーンとした表情で、ノゾミは下唇を噛んで睨むようにこちらを見ている。
「すごいすごい!すごいよケイジ!まるでSランクハンターみたい!!」
エリーがきゃっきゃ言いながらこちらに寄って来る。
ほう、Sランクハンターまでいけばこの程度はあるのか…ほんの少し楽しめそうだな。
しかしエリーはともかく、ノゾミは…相変わらず厳しい視線を送ってきている。
やはり…といった気持ちを抑えつつ、対照的な2人と共に、俺達は西都ハンナリへと戻った。
――――――約2ヵ月後
俺達はアレからも変わらずPTを組んでいた。
1週間に1~2度程度討伐クエスト等を受け、間の日は休息や買い物などをしたり、たまにエリーの訓練にもつきあった。
あと、やはりエリーの料理は絶品だった、街中でつくってもらったそれはキャンプでのものよりさらに旨く、俺は胃袋を鷲掴みにされた。
リーザドン討伐から、一気に距離が縮まったように感じる…口には出してはいないが、俺はエリーのことが…そして同様にエリーも俺のことを…なんて考えてしまっている。
ノゾミは気をつかってか、それとも俺を嫌ってか、あの時から距離をおくようになってしまっている。
討伐等には一緒にいくが、街中での買い物はエリーと2人きりになることが多かった。
そして今夜俺は、行動を起こす―前の世界で出会った漢が言った言葉を思い出す…
禁欲の果てにたどり着く境地など
高が知れたものッッ
強くなりたくば喰らえ!!!
朝も昼もなく喰らえッッッッ
食前食後にその肉を喰らえッッ
飽くまで食らえッッ
飽き果てるまで食らえッッ
喰らって喰らって喰らい尽くせッッ
とな…ちなみに彼は息子にこれを言ったらしい、すごい漢だ…。
3人でエリーの手料理を楽しんだあと、あとは寝るだけ、となりそれぞれ部屋に戻ろうとしたその時、そっと彼女に近づき耳元で囁いた。
―今夜、俺の部屋に来てくれないか
エリーは「えっ?」と言ってこちらを見つめてきたが、俺は真剣な眼差しで見つめ返す、たぶん頬は赤くなっていただろう。
エリーはそれを察してか、「わ、わかった…」と顔を真っ赤にさせながら呟いてノゾミの後を追った。
俺はDTを捨てるぞ、SISYOOOOOOO!!!
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初めはなんでかわからんかった。
理不尽なまでの強さに、怒ってたんかと思った。
今までうちが必死になって積み上げ、練り上げてきた魔力を超えるその圧倒的な強さに。
確かにそれもあったと思う、けどほんまのところは違った。
自分がいらん存在になってしまう…そういうことに対する怒りや恐怖、悲しみやったんや。
エリーが彼に対して思いを募らせる度に、うちの胸はしめつけられた。
討伐クエストで彼が圧倒的魔力で敵を屠るのを見るたびに、うちの魔法使いとしての、PTとしての存在価値がなくなるのを感じた。
憎かった、寂しかった、怖かった…たぶん彼には大分ひどい態度をとってたと思う。
それでも彼は…私に対して態度を変えなかった。
いつでも優しく、嫌な態度を微塵も感じさせずに接してきた。
1ヶ月がたったころ、うちの考えは変わった。
エリーを…彼とエリーを応援する。
エリーはうちの大切な人や、そしてケイジは…いい奴や。
女なら惚れてしまうのがわかる、今ならなんでエリーやノピちゃん、ミリアさんが惚れ、さらには色々な人が惚れているのかわかる。
うちかて、エリーと相棒やなかったら、たぶん…。
けど2人は奥手や、お互い両想いなはずやのに、後一歩が踏み出せてない。
そやったらうちが手伝ったる。
うちは、約1ヶ月間戦った、他の女がアプローチかけんように、特にノピちゃんやミリアさんを牽制、妨害しまくった。
エリーには、何度も助言をしたし、2人きりになれるように動くようにもした。
そのおかげか、ついに…ついに動きがあった。
「今夜、ケイジのところで、泊まってくる…ね…」
部屋に戻ると、顔をリンゴみたいに真っ赤にしたエリーが、呟いた。
その瞬間、うちは胸が締め付けられた、いやあかん、悟られるな。
「そっかぁ…おめでとう、エリー。」
うちは笑顔で言えたやろうか…。
「ちゃんと、終わったら報告にくるんやで?
付き合い…あ、突き合いました?とか、すごかったとか。」
「うん…ってなによそれ!」
冗談を交えつつ、エリーと温泉に入った。
そして部屋に戻り、うすく化粧をしてあげ、この前2人で買った勝負下着を選んであげた。
目を瞑った彼女は…本当に綺麗やった…。
「…終わったら、うちも大切な話がある。
エリー、おめでとう。そして、がんばってきい!」
そう、うちはもう…PTにいらへん…。