黄色い方「………………」
――ところでこいつを見てくれ、こいつをどう思う…?
――………すごく…大きいです…
そう言って私は彼のナニかを手にとり、愛おしそうに見つめ…そして…
「いやああああああああああああああああああっ!?」
目の前には心配そうに見つめるノゾミがいる、いや違ったすごいニヤニヤしている…なんだかわからないが腹が立つ。
心臓がばくばくいっている、落ち着け、COOLになるのよエリー、まずは状況の整理よ、そうすれば落ち着くはず…。
そうだ、私はボス猿を倒しにいって、ケイジって人に助けてもらって、帰ってきてお風呂に入って…いや入ろうとして…そして……そして…
「いやああああ!?!?!?」
…落ち着いて考えたところで結局は悲鳴をあげたのだった。
「あんなエリー。気持ちはわかるけど、さすがにあれはちょっと急すぎるで?
恋愛にはA・B・Cって順序があってな、というかまずは告白からやな……」
「いやいやいや!何言ってるのノゾミ!?」
「え?ケイジさんと既成事実作ろうとしたんとちゃうの?」
「どういう意味よ!?ち、っちが!あれは、あの、あれはあの、たまたま!
まさかお風呂に誰かいるとは思うかと思わなかったし!
事故!そう事故よ!」
「ああそうなん?まあなんでもええわ。しかし…ケイジさんにまた謝らなあかんこと増えたなぁ…エリーは見てなかったんか知らんけど、お風呂は男湯の時間やってんで?助けられた上に素材もらって男湯覗いて大事なところにビンタして…」
「うっ…け、けどあれは仕方ないじゃない!誰だってそうするわよ!」
「まあまあ、そんなことよりご飯いこ?身体は濡れたタオルで拭いといたで。
あ、けど右手は一応拭かんとおいといたから、好きに使いな?」
「いやいや!?意味わかんないし!?意味わかんないし!?」
…大事なことなので2回言いました。
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…なんだこの状況は…。
俺は風呂場での出来事を忘れ…ることはせず脳内フォルダに名前をつけて、画像及び動画を保存した後、宿の食堂で飯を食うことにした。
おかみさんお勧めのステーキセットにし、せっかくまとまった金が入ったことだし…としてお酒も頼むことにした。
神正 大吟醸松の翠…ここはどこだとつっこみたくなったが、好きだった酒と似た名前のものがあったのでそれも頼んだ。
酒は上手かった…それなりの値段はしたが、その値段に相応しい……香りが良く納得の1本だ。
すると目の前に女性2人が無言で座った。
「………」
「………」
「………」
……仕方がない、俺が切り出すか。
「……先ほどは、ご馳走様でした。」
俺は、金髪の女の子――確かエリーだったか――に頭を深く下げた。
「いや意味わかんないし!?意味わかんないし!?」
ケイジの口撃、エリーは混乱した。
「………ぷっ…あっはっはっはっはっは!あ、あかん…ケイジさんおもろすぎ…」
黒髪のおさげの女の子――ノゾミちゃん――はお腹を抱えて笑っている。
「わ、笑い事じゃないわよノゾミ!?あ、あんたも!何がご馳走様なのよ!」
エリーが顔を真っ赤にして叫んでいる。
「「なにがって…ねえ…?w」」
俺とノゾミちゃんは目を合わせて、顔をにやにやとさせて笑いあった。
「まあからかうのはこれくらいにして…2人ともこの宿だったんだな。」
「そ、そうよ。まさかあんたがいるなんて思わなかったけどね…。」
「せやねえ……まあちょうど良かったわ。
ケイジさん、改めまして。うちはノゾミ・ユリノいいます、今日は助けてもらった上に素材までもらって…ほんまありがとうございます。
そのあともこうして何回かあって…これも何かの縁かと思います。
もしよかったら…これからもよろしくしてもらえます?」
「こちらこそ、事情がわからなかった故無理やり助けてしまったかもしれん。
素材に関しては気にしないでくれ、半分にしてしまったしな。
お昼に言ったように、俺は新米ハンターだ、こちらのほうこそよろしく頼む。
ケイジ・カミンチュだ、好きなように呼んでくれ。」
「えへへ、よかったぁ…ほなよろしくなぁ」
とノゾミちゃんがいいながら、ニヤニヤしながらエリーのほうを見る。
俺もつられてエリーのほうを見る。
「え、え、えっ…エリーシア…よ…。きょ、今日は助かったわ。
あとさっきはごめんなさい。あと「アト スキデス ツキアッテー」…ちょ!?」
ちょ!?と思ってノゾミちゃんのほうを見ると、あさっての方向を見ながら口笛を吹くそぶりをしている。
「のののノゾミ!?なにいってるの!」
「べっつにー?ただなんかそういう空気かなぁ思てー。」
ぎゃーぎゃーと口論をするかわいい女の子2人をおかずにご飯を食べる。
――旨い!
俺は2人が落ち着くまでもくもくと食べ続けた。
「あんたさ、あんだけ強いのにEランクなの?」
2人の前に運ばれてきた料理により、ようやく口論を終えたエリーが俺に対して問いかけた。
旨かった、俺はステーキに手をつけず、目の前のおかずだけで5杯いけた。
「ああ、そうなんだ闘うことしか知らなくってな…いい加減定職に着こうかと思ってハンターになったんだ。」
「そっかぁ…だからあんな強いのにEランクなんやなぁ…。」
そういってノゾミちゃんはエリーに目配せをする、頷くエリー…なんだろうか。
「あ、あのさ…ケイジ…さん。も、もしよ?もしよかったらなんだけどさ…あの…さ…あの、いっひょ、一緒に…PT組まない…ですか?
あのーほら私達2人後衛だし、ケイジさん…格闘家なら前衛だろうし?
私達もちょっと2人じゃきついと思ってたし!?あのほらケイジさんに色々私達も教えられることとかあるかもしれないし!だからほら、ね!?」
最後のあたりは鼻息を荒くしていた。
「ま、まあかまわんが…。」
俺としてもこの世界とハンターの常識を知れるし、何よりこんなかわいい子たちときゃっきゃうふふできるなんて…なんて…辛抱たまらん!!!
「ほんとっ!?やった!え、ええっへへへ…じゃ、じゃあ改めて、よろしくね?ケイジさん!」
「ケイジでいい、PTなんだろう?…それに俺も2人を呼び捨てにするしな。」
ものすごい笑顔のエリーを見てると何かこっちまでうれしくなる。
その横ではニコニコとしているノゾミ…楽しい生活になりそうだ。
「ほな、PT名も変更せなあかんなぁ…」
夕食を食べ終え、食後のまどろみタイムとなったときノゾミが呟いた。
「PT名か…今はどんなのなんだ?」
「今はなぁ…『ぷりちー&きゅあー』っていうんや。」
ブフゥーーーー!!!!
俺は口に含んでいた酒を噴き出した。
俺は咳き込みながら、前の世界で戦った強敵のことを思い出した。
彼女達は14・5歳ながらすさまじい身体能力を持っていた…。
一度敵と間違えられ、全面対決となったことがある。
敵は20数名ほどだったろうか…カラフルな彼女達はそれぞれユニークな戦法で挑んできた。
なんとか撃退していったが、特に強かった白黒の2人組みは特に印象に残っている。
他の者たちが4人5人なのに対して彼女達は2人組であった、が、その強さは郡を抜いていた。
白い方はこちらの打撃を受け流してきた…覇王天翔波をも受け流されたときは思わず目が点になったし、彼女の技はなんというか…俺が言うのもアレだが、物理法則を無視している気がする…。
対して黒い方は一点してパワータイプ、2人は典型的な柔と剛の2タイプだった。
その拳はとてつもなく重く、力もすさまじかった、真・天昇拳を食らってなお、同じような技をこちらにかけてきた。
あとで知ったが、それは彼女が彼女達の先人だからだろうか…先輩の意地ともいえるそれは、とても重かった、何かを背負っているモノの強さを感じた。
ダウンをしても、すぐに起き上がる…すさまじいまでの闘気…いくら俺がカミンチュにはじめて挑む前…15の年齢だったとしても、もうあらかたこの世界に強いものはいない…と調子に乗っていた俺―まあこのアト彼女達以外にも強い強敵にあうのだが―にとって、同じ年齢…ましてや女子に負けそうになったことは、俺の人生のターニングポイントとなった。
全てを呑み込む剛、全てを受け流す柔、この二つを目の当たりにした俺は、さらなる強敵を求め…そしてカミンチュにあった。
思えば俺がカミンチュに初めて出会い、ボコボコにされてなお立ち上がったのは、黒い女の子の姿を思い出して、自分だって!と思ったからだったなあと思い返す…。
話がそれたな…それにしてもそのPT名は…色々と危ない、何がという訳ではないが、うん、危ない。
「そうか…しかし俺が入ってはそのPT名には矛盾が生じるだろう…変えるか?」
「そうやねぇ…エリーはなんかある?」
「えっ!?わ、私っ!?…ええと…ええと…」
ウーウーとうなるエリー…こういうのはきちんと決めたそうな性格だなぁ。
「じゃあそれは保留でいいんじゃねえかな。」
「んーそやねえ…まあ時間はこれからたっぷりあるし、それでええか。」
そうして俺達は夕食を終えて部屋に戻っていった。
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部屋に戻り、寝る準備をしながら今日のことを思い出す。
ケイジさん…この出会いはなんか運命的なものを感じるなぁ。
色々と謎がある人やけど、悪い人やなさそうや。
何よりあの強さ…今は無名やろうけど、そのうちその名を世界に轟かすんちゃうかな…。
そうなってからやと遅い…うちのツンデレ鈍感な相棒はこういうことにはてんで疎い。
これはうちが一肌ぬいでやらなあかん…。
エリーがケイジさんに惚れてるんは確実や、ケイジさんのあの強い…体つきもええし強さも半端ない、あそこだってすごい大きかった…どこやて?そんなんなにとは言えへんわ。
何よりあの顔や、本人は自覚してないけどあのかっこいい顔で愛を囁かれたらみんないちころや……!
つまり、チャンスはいつか?『今でしょ!』ケイジさんに変な虫が着く前に勝負つけなあかん。
てかもうすでにギルドのシエルさん、ここのノピちゃんあたりが狙ってる…。
と、とにかく!作戦は明日の朝からや…!
………そ、それにしても大きかったなぁ…男の人のんてあんま見たことないけど…昔お風呂でみたお父さんのとかより全然………。
モジモジさせながら、私は布団をかぶった…。
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ああああああああ…彼の顔がまともに見れない。
裸を見られた…そして彼の裸を見てしまった…しかも触ってしまった…なににってなにによ。
ノゾミは任せときぃとか言ったけど、不安だ、どうしよう。
どうした私…何をこんなに不安がっている…
――――もし断られたら…?彼への好意から来る恐怖心だと気づくのは少し先の話
夕飯は味が全然わからなかった…。
エリーが上手くまとめてくれたみたいでPTは組むことになった。
途中彼がお酒を噴き出していたがなぜだろう…?
とにかく、彼と一緒になれた…なんでこんなにうれしいんだろう、顔がにやけてしまう。
「明日は早いで、戦の基本は朝駆けと夜襲や」ノゾミがゲスい顔してこんなことを言ってきた…意味がわからないがまあ寝よう…今日は疲れた。
…隣のベットのノゾミが布団の中で何かごそごそしているが、気にしないでおこう…私は瞼を閉じると、すぐに真っ暗な世界へと落ちていった…。