俺より強い奴に会いに行く!
「ぬぅりゃあああ!!!」
自身の頭上に迫りくる渾身の一撃、受ければ間違いなく、俺は冗談ではなく真っ二つになるだろう。
―――だが、
「見切ったァァァァァァアアアア!!!!」
俺は手刀を紙一重で回避し、ショートアッパー、続けて逆の腕で天に向かって腕を振り上げ、地を蹴る。
「真ッ! 天ッ! 昇ッ! けええええええんッッッッッ!!!!」
天まで光の奔流が突き抜け、自分の拳が相手の顎を打ち砕いた。
(勝っ…た…!)
俺は今この時に至るまでの長い長い道のりを走馬灯のように思い返していた…。
俺にとっては長い長い、しかし実際の時間にしては数秒であろう滞空の後、地面に両足で着地、その後目の前に、
ズンッー
と男が落ちてきた。
「…………見…事……我の…負けだ…」
「いい、勝負だった…傷がいえたら、またやろうぜ!」
俺は格闘家だ、小さい頃から漫画やゲームが大好きだった俺はその中でも特に強いキャラクターというものに憧れた。
男なら誰もが思うであろう…誰よりも強くありたい、と。
誰もが夢を見て、誰もがそれを歳をとるにつれ諦めていく、けれど俺は…諦めなかった。
小さい頃から血を吐くような特訓をし、さまざまな武術の門をたたき、それらをすべて吸収していった。
来る日も来る日も修行をし、冗談ではなく血小便を出しながら強さを追い求めていた。
気も扱えるようになり、子供の頃に夢見た某格ゲーの波動○も撃てるようになった。
そしてついに、この世界で最強だとか神だとか言われる男とまで戦うほどになったのだ。
また、という言葉は世辞ではない、俺がこの男に挑むのはもう10度目である。
10年間修行を行い、挑み、敗北し、また修行を行い…そんなことをずっと繰り返した。
だから今度も、あると思っていた…。
「それは…できん…」
男が発した言葉が、俺には理解できなかった。
「我は…今まで何人もの強者の命を刈り取ってきた…。
何千、いや万にとどくかもしれぬ…我は、我にあらず…ただ強さを追い求める…器。
強さを求める怨念の集合体、それが我だ…。
我に死という概念はない…たとえ敗れても…時間がたてばこの世に現れるであろう。
…だが……もう…疲れたのだ…、この世界にもう我に敵う者はいない…。
稀に挑んでくる者がいても我に破れ怨念のひとつになるだけであった…。」
「ま、待ってくれ、意味がわからん!
それに俺はあんたに負けてもこうして生きてるぞ!
何より俺が相手じゃ不足なのか!?!?」
「我にもは…お主のような時期があったのだ…ただただ純粋に強さに憧れ、鍛錬を行い、挑み、負けて。
さらなる鍛錬をして……そんなお主を見てな…思ったのだ…お主に、託してみたい…とな。」
「何言ってるんだよ!俺なんかまだまだだよ!あんたにだって負け越してるし、大体何を託すんだ!?」
「…この世界に、もう我以上に強いものはおらぬ…だが…異なる世界ならば…どうだ?
この世はな、一つではないのだ。
絵巻物のような世界が、どこかにあるのだ…。
我、いや我等の、万に届こう格闘家達の、想いを、怨念を、使って門を開く…。
どこに繋がるかは、わからん…だが、強い気を感じ取って開こう…。
そこにはきっと…まだ見ぬ強者が…いるはずだろう…。」
「だったら、あんたも一緒に行こうぜ!一緒にいって、一緒に頂天を、目指そうぜ!」
「言ったであろう…我は、我であり我ではない…。
この身に積もり積もった想いを使うのだ、それはつまり…我をも使うのだ…。」
「―――――ッ!」
「…我が消えて再度現れるまでは、待てぬ…。
いつになるやもわかぬし…な…。
さあ…どうする…行くか、行かぬのか…!」
「…なんだよっ!俺は、俺はもっとあんたと戦いたかった…っ!
あんたは…俺の目標であり………なにより…………師だった……っ!」
「お主が、我の技を覚えていく様は、なかなかうれしかったぞ…。
泣くでない…お主が我を師というならば、これは師から最後の試練だ…。
この世界の、我等の、格闘家の代表として、最強を…目指してこい…」
「――――――――ッ!
ああ、ああ、ああッッ!やるぜ…ッ!やってやるぜ!!!」
俺は何度も頷きながら、力強く肯定した。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
「門はいつでも開こう…準備はいいか…」
「最後に、あんたの名前を聞いておきたい…。俺に流派はなかった、だからあんたが俺の流派だ。
異世界で名乗りあげるには、流派があったほうがいいだろう?
それに、あんたらがいた…証になる。」
「ふっ…うれしいこと言ってくれるじゃないの…」
(「あれなんかこの人キャラ違うくね…」)
「我は、名などとうに捨てた…しかし…挑み来る者達はこう呼んでいたな…神に人と書いて…」
「しんじん…か…」
「いや、かみんちゅ…」
「えっ?」
カッー!
その瞬間俺は光に飲まれ、意識を失った…。