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四月二十六日 昼食と寮へのお誘い

 四月後半、ゴールデンウィークが目前に迫っている。

 それに向け、世間では連休に何をするかという計画が数多く練られている。


 久永学園にもその波は訪れており、休み時間になると楽しそうに予定を語る少女たちの姿が至る所に散見される。

 それは要たち三人も例外ではない。昼休み、三人は教室で食事をしていた。要は自分で作った弁当を、沙織と秋奈は購買で買っておいたパンを食べている。


「あのさ、要さん。今度私たちの部屋に来てみない?」


 目の前に座る秋奈の言葉に、要はすぐに答えが返せなかった。隣に視線を向けると、沙織も突然のことに戸惑っているのか何も言わずに固まっている。

 要と沙織が黙っていると、秋奈が言葉を続ける。


「この前、沙織が要さんの部屋に行ったんでしょ? それなら今度はこっちが招待する番かなって。寮の中がどうなってるか興味ない?」

「うーん……」


 楽しげな秋奈と対照的に、要は悩んでいた。断る理由もなく、実際に興味もあったのだが、あと一歩が踏み出せずにいた。


「それにさ、私たちゴールデンウィークに今のところ予定がなくてね。もし要さんの都合が良ければだけど、その最中か前後にでも一緒に何かしたいなって思ったの」

「まあ、私も特に予定はないけど……」


 そんな煮え切らない要を見て、秋奈は沙織に声をかける。


「ほら、沙織からも誘ってよ。チャンスだよ!」

「……チャンスってなんのチャンスよ」


 沙織は秋奈から要に視線を移す。


「えとね、この前のお礼もしたいし、私も要と一緒にいられたらいいなって思うし、だから、要がよければ来てほしいな」


 真っ直ぐ見つめて誘う沙織の姿が、一歩を踏み出すきっかけとなった。


「それなら、お邪魔しようかな」

「うん。大歓迎だよ!」


 沙織の顔が明るくなった。

 二人の間に結論が出たのを確認して秋奈が頷く。


「さて、そうと決まったら早速手続きしないとね」

「今日の放課後すぐに寮監さんのところに行かないと」


 沙織の言葉に頷き、秋奈は要に向き直る。


「それで要さん。いつ私たちの部屋に来るかだけど、五月一日の土曜日でどう? 翌日から休みでゆっくりできるだろうし、授業が半日で終わってそのまま寮に行けると思うから」

「うーん……そうだね。それがいいかな」

「オッケー、了解。それで手続きしとくね」


 秋奈は頷くと、要の手元に視線を移す。


「それにしても、要さんのお弁当おいしそうだよね」

「そう? 少し食べてみる?」

「いいの? それなら、隣で熱い視線を注いでいる可憐な乙女に食べさせてあげて」


 冷やかすような秋奈の口調。要が隣を見ると、その言葉通りの沙織と目が合った。


「……食べる?」

「食べる!」


 沙織が即答した。


「それじゃ、この玉子焼き食べていいよ」


 要は弁当箱の中を示しながら沙織に箸を手渡した。

 沙織はそれを受け取ると、玉子焼きに箸を伸ばす。掴み、口に運び、含み、飲みこむまで沙織の姿を要は見つめていた。


「おいしいな、要の作った玉子焼き……」


 沙織が幸せそうに呟いた。それを見ていると、要も幸せになるような気がした。


「お楽しみのところ悪いんだけど、そろそろ時間が危ないよ」


 秋奈が時計を示して言った。見れば昼休みが終わるまで五分しかない。


「次の授業は先生来るの遅めだから大丈夫だよ」


 沙織が楽天的な考えを言った。


「あと少し食べれば終わるから、なんとかなると思う」


 要も弁当箱の中を見ながら言った。


「それならいいんだけどね。私もあと少しだし」


 秋奈も残っていたパンを頬張った。

 三人の予想通り、チャイムが鳴る前に食べ終わり、授業の準備をすることができた。

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