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十二月二十五日 しばしの別れと沙織の想い

「それじゃあ……」

「うん。またね」


 夕方、沙織は寮の前で要を見送った。

 次に要と会えるのは、遅くても三十一日。もしかすると、それよりも前に会えるかもしれない。けれどそれも不確かなこと。確かなのは、年越しの瞬間を共に過ごそうという約束だけ。

 冬ではあるが、まだいくらか明るいということもあり、要とは寮の前で別れることにした。沙織としてはもう少し一緒にいたかったのだが、途中で要が用事で寄る所があるらしく、断念せざるを得なかった。


 沙織は自室へ戻った。つい数分前まで要がいた部屋には、今では自分しかいない。椅子に腰掛け、机に頬杖を突く。

 わずかに聞こえる外からの騒音も、徐々に耳へ届かなくなる。誰もいない部屋で沙織は一人、物思いにふけっていた。


 要は自分にとって、どのような存在なのだろうか。

 普段は秋奈がこの部屋にいるが、今は自分一人。それにより生じるこの寂しさの正体は一体なんなのか。ただ秋奈がいないという喪失感から来るものに過ぎないのならば、それを埋めるために過ごす相手は誰でも構わないはず。

 彩や悠希に頼ることもできたはずだというのに、それでも沙織は要を求めた。これが意味することはなんなのか──いや、本当は沙織自身でもわかっている。


 とにかく、今はこの寂しさを克服できるような強さが欲しい。要と過ごしたこの二日間はとても楽しく、充実したものだった。その反動として押し寄せる、この寂しさを乗り越える手段があるのなら。

 気付くと沙織は、細められた目で要の痕跡を辿っていた。昨日と今日、要が歩いた道筋を視線でなぞる。それだけでは飽き足らず、ついに沙織は行動を起こしてしまう。

 何気なく発した独り言に反応してくれる人はいない。ふと気配を感じて横を向いても、そこには誰もいない。折れ曲がった布団を直していると、嗅覚がわずかな残り香を感じ取った。誘われるようにふらふらとベッドに潜り込めば、中心より少しだけずれた場所──要が寝ていた所に身を預けてしまう。

 衣服が乱れることも気にせず、沙織はその場所で小さく体を丸めていた。眼鏡をしたままだというのに、沙織の視界は濃霧の中にいるかのように霞んでいる。







 日付が変わる直前、沙織は浅い眠りから目を覚ました。

 喉の渇きを潤そうと起き上がり、そこで気付いてしまう。隣に要がいないことに。手を握られていないから自由に体が動かせることに。要を起こさないように気を使う必要が全くないということに。

 用を済ませた沙織は急いでベッドへ戻り、頭まで布団をかぶって目を閉じた。要のいない世界など、これ以上見たくはなかった。

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