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七月十二日 試験初日とプール計画

 試験初日が訪れた。一日に二教科ほどの試験を午前中に行い、十六日までその時間割が続く。そのため午後は自由時間となる。予習、休息、気分転換など何をしても構わない。ここにも自由意思を尊重するという学園側の意向が表れている。


「ねえ、どうだった?」


 後ろの席から声をかけられ、要は振り向く。


「とりあえず空欄は全部埋めたよ」

「わたしも。見直しもちゃんとしたから、もしかしたらいい点取れるかも」


 ホームルームが終わり、教室に残る生徒の数もまばらとなっている。


「どうしようか、この後。お昼ご飯食べに行く?」

「行くー。学食でいいかな?」

「いいよ。今日はお弁当作ってこなかったから」

「学食に行くのも、なんだか久しぶりな気がする」

「そうかな。月に六回くらいは行ってると思うけど」

「教室とか中庭で食べてるイメージが強いからかな」


 そんな会話をしながら二人は席を立ち、学食へ向かって歩き出した。


「沙織は勉強どれくらいした?」

「昨日の夜、ノートとかをパラパラ見たくらいかな。要は?」

「私もそんな感じ。秋奈さんが聞いたらなんて言うかな」

「秋奈はずっと机に向かってたよ。今朝もわたしより先に起きててノート開きながらブツブツ言ってた」

「頑張り屋さんなんだね」

「負けず嫌いなだけじゃないかなあ。要は何食べる?」


 二人は既に南棟に入り、メニューのサンプルを見ていた。


「うーん、日替わり定食にしようかな」

「今日は奮発するねえ。よしっ。わたしも日替わり定食で、サラダもつけちゃおう」


 二人は定食をトレーに乗せ、席に着いた。昼時ではあるが、周囲には空席が目立っている。


「ねえ、沙織は夏休みの予定って何かある?」


 食べながらも、二人の会話は止まらない。


「特にないけど……あ、そうだ」

「どうしたの?」

「秋奈がね、夏といったら海に行かなきゃ始まらないって言ってたのを思い出してさ」

「海か。確かに夏っぽいよね。でもさ」

「そう。海ないもんね」


 葛上山市は内陸県に位置している。海に行くとなれば、隣の県まで行かねばならず、一番近い海水浴場でも電車を乗り継いで二時間かかる。


「行くだけで疲れちゃいそうだね」

「海で泳げばもっと疲れるし、たぶん帰る気力なくすと思う」


 その疲労感を想像したのか、沙織が机に突っ伏した。


「じゃあさ、プールはどう?」

「それなら近いけど、まだ行くって決まったわけじゃないよ?」


 久永学園の最寄駅から電車で三駅行ったところに、大きなプールがある。名物テーマパークになっており、特にこの季節はテレビや雑誌で何度も目にすることができる。


「もしもの話だよ。でも、秋奈さんに話をしておいてもいいんじゃない?」


 沙織はゆっくりと体を起こす。


「んー、そのうちね。今は勉強で忙しいだろうから」

「沙織は勉強しなくていいの?」

「部屋に戻ったら秋奈に付き合わされるだろうから、そこで一緒に」

「そっか」


 食事を終えた二人は、寮に向かって歩き出した。沙織を寮に送ってから帰るのが、要の日課となっていた。







 自室へ帰り、洋室に入った要は着替えを後回しにして、衣装ケースやクローゼットの中を探った。

 手を伸ばした奥の方に目的の物があった。引っ張り出し、体に当ててみる。


(……着られる、よね)


 去年買い、ほとんど着ていない水着を鏡越しに睨みつける。買った当時と体形はそれほど変わっていないはずなのだが。


(よし、着てみよう)


 要は生まれたままの姿になり、セパレートタイプの水着を身に着けた。最後にパレオを腰に巻き、改めて鏡を見る。

 まずウェストは問題なし。たるんでなどいない。パレオがアクセントとなり、脚の線を引き立てている。最後に胸。


(大丈夫、かな)


 また少し大きくなったかも。そんなことを思いながら要は水着を脱ぎ、部屋着へと着替えた。

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