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喧嘩っプルシリーズ

兄が婚約破棄したせいで代わりに婚約させられましたが、相性悪すぎて喧嘩しかしてません

作者: 慶村莉緒
掲載日:2026/05/01

「お前の兄貴が姉さんにしたこと、俺は絶対に許さないからな」


婚約者になった男――ルーカスが私を強く睨み付けてくる。


ごもっとも。


それしかない。


だってそれは私の兄アベルが、ルーカスの姉マリアンナ様との婚約を壊した件を指してるんだから。


それでも言わずにはいられなかった。


「なんでアベル兄さんの尻拭いを、私がしなきゃいけないの!!」


愛想笑いもかなぐり捨てて、テーブルを叩きつけた。

目の前に座るルーカスが同じ勢いで怒鳴る。


「俺が知るか!!お前んとこの父親に言え!!」


「カーテス商会が手に入れば、息子()でも()でも構わないってなんなのよ!」


カーテス商会は私の実家だ。


私、ルチア・カーテスは、本日、晴れて目の前の男と婚約をした。


不本意!


「お前の兄貴が、浮気なんてするからだろうが」


ルーカスが吐き捨てた。


私だって、兄さんがあんなにバカだとは思わなかった。


伯爵令嬢を婚約者に持つ身で、男爵令嬢ごときに夢中になり、骨抜きになるなんて!


いけない。


たった一文で終わる兄さんの愚行を思い出したら、また怒りが…。


もともと、兄さんとマリアンナ様が結ぶはずだった両家の縁。それをぶち壊した我が家に拒否権なんてなかった。


ただ、ひとつ言いたい。


「なんで、こいつ!!!」


「なにか言える立場だと思うなよ!」


指を突きつけた私の顔を、ルーカスがみょーっと引っ張った。


「乙女の顔に、なんてこと!」


「お前みたいなのは『乙女』とは言わない!じゃじゃ馬のくせに!」


兄さんとマリアンナ様の婚約は早くに決まっていた。当然、家同士の付き合いも長い。

――私たちは幼馴染みだ。


ただ、微笑ましく仲の良かった兄さん達と違い、私とルーカスはものすごく仲が悪かった。


顔を合わせれば罵りあうので、親に強制的に引き離されていたくらいだ。


「父さんもあんまりよ!何がなんでも貴族との縁がほしいんだわ、あの強突張りのクソだぬき!」


「うちだって、金と物流のルートが欲しいだけだろうよ」


ルーカスは鼻を鳴らして、テーブルのマカロンに手を伸ばした。

悔しいが、顔だけは良い男に育っている。


ルーカスは私の視線に気がつき、手元のマカロンと私を見比べた。


「やらねぇぞ。お前のはそっちにあるだろ」


「取らないわよ!」


こいつ、私をいくつだと思ってるんだ。乱暴に自分の皿に手を伸ばして口に放り込む。


ん!このベリーのやつ美味しい!


「はっ…、単純」


ルーカスが鼻で笑う。

ムカつく。


「お前の兄貴も魅了魔法の被害者っていうのは聞いたけどな」


「…ぐ。わが兄ながら不甲斐ない。跳ね返してよ、そのくらい」


拳を握りしめ、怒りに震える私にルーカスが小さく吹き出した。


「…ふっ。跡取りから外されて、商会の船で肉体労働。家に戻れる見込みもねぇんだろ?」


「どんな理由でも、マリアンナ様を傷つけたのは許されないわ」


ルーカスが肩をすくめた。


「姉さんは、お前が土下座しに来たときに吹っ切れたらしいぜ?」


「あんなの、全然足りないよ…」


「姉さんが良いって言ってんだから、それは良いだろ?」


少し低いルーカスの声が、優しく聞こえるのが憎らしい。


「俺は許さないしな!」


「…っ!ぐ!!!」


許されたくないのを見透かされたみたいで、それも悔しい。

テーブルに肩肘をつき私を見るルーカスと目が合う。


くそ!本当に顔だけは良くなったな!

顔だけは!!


「お前の兄貴の事は許さないけど、それ以外はお前次第だろ」


「なによそれ。慰めてんの?」


「誰がそんなことするか、ばーか」


こいつ、今日うちに来てから何回私を鼻で笑ったよ?

覚えてろ。


「いつまでも引きずるくらいなら、うちのためにせいぜい働けっつってんだよ」


ルーカスの唇が薄く引き上がった。

分かりやすい挑発。


「…分かったわよ!伯爵家がひれ伏すほど稼いでやるわ、見てなさい!」


その喧嘩、買ってやるわ。

兄のやらかしを帳消しにするくらいの価値をルーカスに叩きつけてやる。


「なんで、そんなに偉そうなんだよ」


「うるさーい!」


私の宣戦布告は、またしてもルーカスに鼻で笑われたのだった。


ムカつく。


少しだけ前を向けるようになった気がしたのは誰にも教えない。


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