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代表選抜


日本が世界最強国家になってから、すでに十五年が経っていた


教科書にも、ニュースにも、そして日常の会話の中にも

それは当たり前の事実として存在している


日本は強い

それも、圧倒的に


誰も疑わない

疑う理由がないからだ


スポーツ、科学、経済、軍事

あらゆる分野で、日本は世界一だった


それは誇りであり

同時に、日常でもあった


俺が生まれたときには、すでに世界はそういう形をしていた


だから正直に言えば

「日本が特別だ」と感じたことはない


水は下に流れる

太陽は東から昇る

そして日本は強い


それだけの話だ


ただ一つだけ

子供の頃から、ずっと気になっていたことがある


適応率


それは、すべての日本人に与えられる数値だった


小学校に入学する前

全員が一度、国の検査を受ける


血液、神経、遺伝子、脳波

さまざまなデータを測定し

その人間がどれだけ「進化」に適応しているかを数値化する


それが、適応率


平均は、12%


優秀とされる人間は、20%を超える


トップクラスともなると

40%以上


そして、歴史上最高は


83%


その人物は、いまや国家の英雄として教科書に載っている


だが


俺の数値は


0.3%


その数字を最初に見たのは

小学校一年生の春だった


白い部屋

白衣の大人

無機質なディスプレイ


そこに表示された数字


0.3%


「誤差の範囲ですね」


医師はそう言った


優しく

気遣うように


「問題ありません

生活に支障は出ません」


その言葉は、嘘ではなかった


俺は普通に走れる

普通に考えられる

普通に勉強できる


特別優れてもいないが

特別劣ってもいない


ただ一つ、この国では


普通であることが、異常だった


ピピピピピ


目覚まし時計が鳴る


午前六時三十分


俺は布団の中で天井を見上げた


今日が何の日か分からないわけがない


代表選抜


毎年、この時期になると県の代表局が学校を回る


才能を持つ人間を見つけるために


そして


国家の戦力を確保するために


テレビをつける


朝のニュースが流れていた


「本日より全国一斉に

県代表候補の一次選抜が開始されます」


画面には、スーツ姿の若者たち

インタビューを受けている


「小さい頃から、この日のために努力してきました」


「必ず代表になります」


「県のために戦います」


真剣な目、自信に満ちた表情


まるで、兵士だ


(さとる)起きてる?」


母の声が、ドア越しに聞こえた


「起きてる」


俺は体を起こす


制服を着る


鏡の前に立つ


普通の顔


特別なところは何もない


背も平均

体格も平均

成績も平均


適応率だけが


異常だった


朝食は、いつも通りだった


味噌汁

焼き魚

ご飯


テレビでは、まだ代表選抜のニュースが流れている


父が新聞を畳む


少しだけ間を置いて言った


「今日は来るかもな」


短い言葉


だが意味ははっきりしている


代表局


「……うん」


俺は頷く


それ以上の会話はなかった


両親は優しい


過保護でもない

厳しすぎるわけでもない


普通の親だ


ただ俺の適応率を知っている


それだけだ


家を出る


春の空気はまだ少し冷たい


通学路には、同じ制服の生徒たちが歩いている


みんな、少しだけ緊張している


いつもより静かだ


「おはよう」


声をかけられる


振り向くと、同級生の佐藤だった


短距離の全国記録保持者


適応率、38%


「今日だな」


彼は笑う


自信に満ちた笑み


「だな」


俺も答える


「来ると思うか?」


その質問は、俺に向けられたものではない


「お前のところに」


「……分からない」


嘘だった


分かっている


来ない


絶対に


学校が見えてくる


校門の前に、人だかりができていた


ざわざわしている


空気が、違う


そして見えた黒い車


三台


その横に立っている、スーツ姿の大人たち


腕章をつけている


黒地に、金色の文字


<神奈川県代表局>


心臓が、一度だけ強く鳴った


教室に入る


全員がそわそわしている


誰も落ち着いていない


担任も同じだった


時計を見る回数がやけに多い


そして


チャイムが鳴った


同時に


コンコン


教室のドアがノックされた


空気が止まる


「二年A組、失礼します」


スーツ姿の男が入ってくる


四十代くらい


無駄のない体つき


目が、静かだった


軍人のような雰囲気


実際、軍人みたいなものなのだ


「本日は、神奈川県代表候補の一次選抜対象者を発表します」


淡々とした声


感情がない


ただの事実


教室の空気が張り詰める


「対象者は」


男がタブレットを操作する


「七名」


息を呑む音


名前が呼ばれる


一人


また一人


全員、当然の顔ぶれだった



そして


六人目


静寂


男が、次の名前を読む


川部 智(かわべ さとる)


世界が、止まった


教室の視線が、ゆっくりと集まる


なぜ?俺は普通だ


いや


この国では普通以下だ


男が俺を見る


じっと


観察するように


そして


静かに言った


「確認する」


一拍


「未発現個体」


教室が凍りつく


「適応率、0.3%」


沈黙、男は続ける


「極めて稀な数値だ」


その目が、わずかに変わった


「君は」


はっきりと


「進化していない日本人だ」


息が止まる


そして


男は言った


「ゆえに」


「国家資産として、保護対象に指定された」


教室がざわついた。

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