プロローグ
それは突然だった
——いや
本当は、水面下でコトは起きていた
それでも現代の人類は、その異常を信じることができなかった
誰もが、現在の常識に当てはめて考察し
時には推論を立て
そして結局、こう結論づける
やはり、おかしくはない
ある人は言った
「百年に一度の天才が生まれた」
ある人は言った
「歴史の偉人の再来だ」
才能に溢れた若者が登場するたびに、世間は囃し立てる
まるで偶然の出来事であるかのように
過去にもそういう人間はいたのだから、と
人は、知っている言葉でしか世界を理解できない
情報が瞬時に世界へ行き渡る時代
インターネットやソーシャルメディアの台頭により
人の活躍は誰もが容易に知ることができるようになった
だからこそ、人々はこう考えた
才能が増えたのではない。
知る機会が増えただけだ
それは合理的で
そして、非常に人間らしい判断だった
短距離走の世界新記録が更新された
ノーベル賞受賞者が誕生した
プロスポーツリーグで最優秀選手が選ばれた
それらすべてが同じ年に起きたとしても
世間は「豊作の年だった」と言うだけだった
ましてや——
それらすべてを
同じ国の人間が達成したとしても
だが
さすがに、その年だけは違った
世界が初めて
異常という言葉を口にした年
それは、とあるオリンピックだった
すべての競技
すべての男女種目
金
銀
銅
その表彰台の上に立っていたのは
すべて——
日本人だった
沈黙が世界を覆った
歓声ではない
祝福でもない
理解できないものを前にしたときの
あの静かな沈黙
その日を境に、
世界は仮説を口にするようになった
日本人は、どこかおかしい
最初は冗談だった
次は噂になった
やがて、研究対象になった
そして——
国家機密になった
才能あふれる若者が次々と誕生した
世代が入れ替わるにつれ
世界の表彰台は徐々に埋められていった
スポーツ
学問
軍事
産業
あらゆる分野において
やがて
他の人種の追随を許さなくなった
人類史上、初めて
一つの民族だけが、明確に優位に立った
科学者はそれをこう呼んだ
進化
あるいは。
適応
あるいは。
次の人類
だが、当の日本人自身は
その変化を特別なものだとは思っていなかった
ただ、努力しただけだ
ただ、教育が優れていただけだ
ただ、環境に恵まれていただけだ
誰もがそう説明した
それで説明できると、信じていた
そして世界は
一つの現実に直面する
強すぎる国家は、外に敵を持たなくなる
代わりに
敵は、内側に生まれる
かくして
世界最強国家となった日本は
新たな時代を迎える
他国との戦争ではない。
侵略でもない
革命でもない
それは
選抜
そして
競争
国家の未来を担う才能を選び
国家の資源として管理し
国家の頂点を決める戦い
人はそれを、こう呼んだ
第二次戦国時代
これは
進化した人類となった日本人同士が
互いの才能をぶつけ合う時代の物語
世界の頂点に立った国の中で争う
単純で、残酷で
そして極めて合理的な覇権争い
そして
この物語の主人公は——
その進化から取り残された、日本人である




