変身
心臓の音が早まる。
眼の前で赤い血がどんどん広がる。
私は瓦礫に埋もれた優地に必死に語りかけた。だが彼は動かない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
1人になるのは嫌だ―――そう思い必死に彼の手を握る。迫りくる魔獣すら忘れて。
魔獣が私を襲う直前。
「ハイドロ・ストリーム!!!」
声とともに流れてきた激流が魔獣を吹き飛ばす。魔獣は壁に激突し、動かなくなる。
「まだあなたいたの!?」
青髪の魔法戦士―――徳姫が言う。
続いて、金髪の魔法戦士―――天音もやってくる。
金髪の魔法戦士は瓦礫の方を見てなにかに気づいたようだ。
「失礼します。」
私を押しのけて金髪の魔法戦士は優地の手首を触る。
「…脈自体はまだあります。ですが、かなり弱いです。このままだと…」
―――死。優地に死が迫っている。
「そんな…!どうにか…どうにかできないんですか!?」
「できはします…私の力なら。」
「なら早く優地を助けてください!お願いします…!」
私は彼女に懇願する。
「…徳姫さん、援軍は。」
「少なくともあと10分は来ないって。規模が規模だから人集めるのに苦戦してるって。」
天音は魔獣の方に目を向ける。ネームド級の魔獣は先程まで気絶していたが、今は起き上がっていた。話してる最中に回復したのだろう。
「今は残念ながら無理です。あの魔獣…今まで戦った中でも相当な強さの部類です。私たちでは足止めがやっとです。」
「そんな…!」
私は絶望した。天音は続けて、
「徳姫さんを信頼していないわけではありませんが、ネームド級2体を相手にするのは分が悪すぎます。仮にその方を助けられても、魔獣を取り逃がしてしまったら元も子もありません。最悪の場合…もっと多くの死人が出る可能性があるでしょう…。」
「だけど優地が…!」
そこまで言ったところで徳姫が割って入る。
「そこまで。こうしてる間にも彼が死に近づいちゃってるかもしれないよ。」
慌てる私を落ち着かせる。
「彼を見捨てるってわけじゃない。もう少ししたら援軍がたどり着く。そうしたら彼の回復もできる。だから…それまでは我慢して。」
私は、それ以上何も言えなかった。
二人の魔法戦士はネームド級魔獣の方を向く。
2体のネームド級魔獣は二人を睨む。
「…行くよ。」 「はい。」
二人は魔獣と再度交戦し始めた。私はその場に取り残される。
「どうすれば…」
そう言うと後ろの方から服を引っ張られる。
服を引っ張ったのは助けた子どもの1人だった。
優地のことに夢中で彼らのことを忘れてしまっていた。
「…ごめんね、みんな。一緒に避難所行こっか。」
本当は嫌だ。優地の横にいてあげたい。だけど、彼らをこのままここにいさせるのは危険だ。何より、この子たちの身に何かあったら、優地の決死の行動が無駄になってしまう。それだけは何があっても阻止したかった。
「みんな…行くよ。」
そう言うと私は入口へ向かった。
まもなく私たちは建物から出た。
避難所まではまだ少し距離があるが止まらなければすぐに着けるはず…!そう思ってたときだった。
少し進んだところで後ろから足音が聞こえる。人ではない。魔獣の足音だ。
後ろを振り向くと魔獣が飛びかかってきていた。咄嗟に私は子どもたちを抱えて後ろに倒れ、回避する。
起き上がると避難所へ向かう道を塞ぐように魔獣が立ちふさがっていた。
これじゃあ避難所へ行けない。私は引き返すことを決意した。すぐさま後ろを振り向き全力で走ろうとする。だが―――
「そんな…!」
後ろにも魔獣がいた。前にも後ろにも魔獣。逃げ道を失った私たちはその場に留まるしかなかった。
両手で連れていた子どもたちの手を握る力が強まる。怖いのだろう。だけど、私には何もできない。
魔獣がゆっくり、こちらへ近づいてくる。
後ろへ後退りしたいが、後ろの魔獣もこちらへ近づいてくる。
どうしようもなかった。もし、私があの人たちのように戦う力を持っていればよかったが、あいにく私はそんな力を持ち合わせていなかった。この子たちも、優地も助けられずに私は死ぬ。
私は願った。
(優地を…この子達を守る力を…!)
魔獣が爪を振りかざす。
その時だった。空から光の柱が私を覆う。
「えっ…!?」
眩しさに目を瞑る。目を開けた時、そこには白い空間が広がっていた。
私は死んでしまったのか……?そう思っているとどこからか声が聞こえる。
「あなた、すっごい愛を持ってるわね♪」
声が聞こえる方を向くと神々しく光る何かがそこにいた。
「あなたは…?」
私は問う。
「私はね―――うーんそうだな…金星の意思、かな?」
…何を言ってるのだろうか?
「分かりづらかったかぁ。まあ、あれよ。あなた達がよく見るであろう魔法戦士の力の根源。せっかくだし、きんちゃんとかで呼んでくれればいいわよ♪」
私は驚いた。きんちゃんは続けて言う。
「で、私はあなたに共鳴したの。愛する人を助けたいという強い思いを持ったあなたに。」
そういえば、金星は恋の星とも言われていた気がする。
「え…でもどうして私をここに…」
「決まってるじゃない♪あなたを魔法戦士にしてあげるのよ!」
私が魔法戦士に…!?
「でも…私に務まるか…」
「でも、その力がなければあなたは勿論、近くの子達も助からないわよ。」
「それは…」
魔法戦士は世界を救う存在。そんな大役の1人を担えるのか。私は不安になった。だが、ふと先程見た光景が広がる。
瓦礫に埋もれた優地。もうあんな光景は見たくない。あんな思いをしたくない。
少し悩んだが、私は決心した。
「…なります。私、魔法戦士に。」
「決まったみたいね。じゃあこれを。」
そう言うときんちゃんは輝く結晶を私に渡す。
「それを持って『変身』って言うの。そうすればあなたも魔法戦士よ!」
私は結晶を掴む。
「ここからはあなた次第。でも、あなたならきっとどうにかできる。」
「……はい!」
私ははっきりと答えた。
「最後に…」
きんちゃんが言う。
「大いなる闇に気をつけて。」
え?大いなる闇って何?
そう言おうとすると意識が現実へ戻り始める。
そして―――
「変身!」
そう叫んだ瞬間、眩い光が私を包み込む。
体の奥から熱が駆け巡り、衣装が次々と形を変えていく。
髪は桜色のロングへと変わり、服はピンク色のミニドレスへ。
まるで、別人に生まれ変わったみたいだった。変身が終わると、私は魔獣の攻撃を受け止め、そのまま投げ飛ばす。
「…本当になっちゃった、魔法戦士に…。」
自分でもびっくりしている。実際になった今も実感がわかない。
だけど、体からは今まで感じたことがないくらい力が溢れてくる。
投げ飛ばされた魔獣が起き上がり、もう一体の魔獣と共に襲いかかる。
二体同時は止められない。なら―――!
見様見真似だが、先程二人が使っていたときみたいに手を重ね、力を込める。すると、ハート型の光弾ができる。私はそれを連射する。形勢は逆転しつつあった。
少し時間が経過した。魔獣はかなり疲弊していた。同時に、私はあることに気づいた。。
(優地のことを考えると、力が溢れてくる……!)
これが私の「固有能力」なのだろうか……?




