魔法戦士たち
「優地…優地…!」
胸が苦しい。
それはおそらくずっと走っているためなのもあるのだろう。それ以上に、「優地を失ってしまうかもしれない」ことに対する恐怖が胸を締め付けてくる。
数分ほど走り続けると、先程まで私たちが遊んでいたワカバウォークに戻ってきた。
先程までの賑やかな建物の風景は一転し、上層階付近では火災が発生し、建物の所々にはヒビが入っていた。
たしか子どもたちがいるのはキッズスペースだと言っていた。
入口脇の案内板に視線を走らせる。
場所は二階。しかも、ここからそう遠くない。
向かおうとした矢先、屋上から一体の魔獣が現れ、立ちはだかる。
「あ…」
思わず私は地面にへたり込んでしまった。
魔獣はゆっくりこちらへ向かってくる。
襲いかかってくる、その時だった。ふと私の横を二人の人影が通り過ぎ、あっという間に魔獣を倒す。
「なんとか間に合ったね…大丈夫?」
そこには、青いショートヘアに白と青を基調とした衣装を纏った少女がいた。
体格は私と同じくらいだろうか。
もう一人は、金色の長い髪を揺らす魔法戦士。柔らかな雰囲気のその人は、私と目が合うと、にこりと微笑んだ。
年上のお姉さんのような、温かさを感じる笑顔だった。
青髪の魔法戦士が私に手を差し伸べる。私はその手を掴んで引っ張ってもらった。
「ありがとうございます…。」
「全く、避難勧告が出てるのにどうしてまだいるの?」
青髪の魔法戦士が私に問う。そして私は経緯を話した。建物に子どもが数人取り残されていること、そして彼氏である優地がその子たちを助けるためにここに入ってしまったこと。
「…こんな場所に残ってたら死ぬよ」
何も言えなかった。自分でも無茶を言ってるとは思っていた。
「…だけど私、優地のところにいかなきゃなんです。」
いかなきゃ、遠くへ言ってしまう気がするから。
「だから、ここは危ないの。その彼氏さんもすぐ見つけ出してさっさと避難させるから。」
「でも…」
平行線のまま、会話が続く。暫く続いたところでもう一人の金色の髪の魔法戦士が割って入った。
「それなら、いかせてあげれば良いのではないでしょうか?」
意外だった。自分でも無茶を言っているのはわかっていたから。
「天音ちゃん…。でもここらへんだけでかなりの数の魔獣を見てる。となればネームド級の魔獣がいる可能性が高い。もし中にでもいたら…」
「徳姫さんの気持ちはわかります。でもこの子、きっと彼氏さんが大好きなんですよ。…だから置いていけないんだと思います。きっと私たちが止めたところで中に行ってしまいます。なら出来るだけ早く彼女たちの目的を達成させてあげましょう。」
「…責任は持てない。それでもあなたは行く?」
「…はい。」
「その方がいる場所はわかっていますか?」
天音と呼ばれていた魔法戦士が私に問いかける。
「はい、さっき確認してます…!」
「なら、さっさと合流してね。まだ大丈夫だとは思うけど建物が倒壊する可能性があるから。」
私は頷いた。魔法戦士の二人はそのまま建物の中へ入っていった。私も二人を追うように建物の中へ向かった。
建物の中は停電しており、非常灯が僅かに光るだけだった。足元には瓦礫が散乱し、奥へ進むたびに胸のざわつきが強くなる。
やがて私は目的地のキッズスペースの近くまで来た。あと少しで優地に会える…そう思った時、角から突然人が出てきた。
「うわっ」
私はその人を避けることができずにぶつかる。尻餅をついて「いたた…」と腰を擦っていたところ、聞き覚えのある声が聞こえた。
「陽菜……?」
ぶつかった人の正体は優地だった。傍には三名ほど子どもがいる。おそらく件の子どもたちだろう。
「お前…どうしてこんなところに…」
そう言い終わる前に私は優地に抱きつく。
「無事で良かった……!」
優地に会えた安心で、私は今がどんな状況かも忘れて彼にしがみついた。
「……いや、俺も嬉しいけど、今はまず逃げるぞ」
優地の表情が険しくなる。
「この階…俺が来るときに魔獣が何体かいた。そん中に少し特徴的な見た目の奴がいたんだよ。」
おそらくネームド級の魔獣のことだろう。見つかる前にさっさと逃げれば良い…そう言おうとした。だが、彼は続けていった。
「…2体一緒いた。」
その言葉に背筋が凍る。
ネームド級が群れないのは常識だった。
だが、彼の言い方が正しければ…ネームド級の魔獣は二体いる。それも一緒に。
状況は最悪に近かった。
子どもたちを守りながら建物にいる魔獣の目をかいくぐって建物の外へ逃げる―――相当無茶なことだ。
だが立ち止まっていてはどうにもならない。近くで爆発のような音がする。おそらく先程の二人が戦っているのだろう。
覚悟を決め、私たちは出口へ向かった。子どもたちが怪我をしないために優地は肩に1人を背負い、もう二人の手を引く。
道中はかなり大変だった。かなりの量の瓦礫が散乱しており、乗り越えられるところはまだしも、場所によっては迂回せざるを得ない場所が多々あった。
もうすぐ入口に着く。その時だった。
突然横の壁が崩れ魔獣が現れ、こちらへ突進してくる。
特徴的な黒いたてがみ、これがさっき優地の言っていた…!
それを認識した次の瞬間、私たちは間一髪で魔獣の突進を避けた。そのまま、私たちは一心不乱に入口へ走り出す。
早く脱出すること。そのことばかりを考えていて私は一つ、大事なことを忘れていた。
優地は言っていた。ネームド級は、二体いたと。
今、目の前にいるのは一体だけ。
なら、もう一体は――。
「グォオオオオオ!」
気づいたときには既に遅かった。上からもう一体の魔獣が瓦礫とともに降ってくる。
避けられない――!!!
その時だった。私の体がなにかに押され宙に浮く。
「陽菜ぁぁぁぁ!!」
そう優地は叫び、私を押し出す。だが―――
彼がいた場所に瓦礫が降り注いだ。
土煙が立ち、目を閉じる。目を開けた時、そこには。
瓦礫に埋もれた優地。そして彼から流れ出す赤い血が見えた。
口を開いたのに、何も出なかった。
世界の音が、全部消えた気がした。




