愛する人と
2026年1月―――大寒の時期。
川越駅に向かう歩道橋には多くの人々が行き来していた。そんな歩道橋の上を、一人の少女が駅に向かって走っていく。
少女は駅の東口広場に着くとあたりを見渡し、一人の少年を見つけた。そしてゆっくり近づいていく。
「ごめん、待った?」
「そんな待ってないよ。ていうか陽菜も早いじゃん。せっかく30分前から待ってて集合時間くらいについた陽菜を驚かせようとしたのにさ。」
「奇遇だね。私も優地とおんなじ事考えてた。」
少女――陽菜はそう言って微笑む。
そして少年――優地はそっと陽菜の手を取り、指を絡めるように握った。
「じゃあ、少し予定より早いけど行くか。」
「うん!」
そうして二人は駅の中へ向かった。
電車は二人がホームへ入ってからそんなに経たずに入ってきた。電車からは多くの人々が降りてきたが、逆に乗る人はそれほどまでいなかった。そのため、陽菜たちは安心して席に座れた。
発車メロディーが鳴り、電車が動き出す。
電車に乗っても二人は手を絡めたまま離さなかった。
「やっぱ陽菜の手は温かいな、若葉までそんなに距離ないのに、寝ちゃいそうだ。」
そうして優地が陽菜の肩に寄りかかる。陽菜は少し恥ずかしそうにしながら言う。
「こーら、寝ないの。」
そう言うと、優地の頬をつつく。
「うへーい」と、気の抜けた返事をする優地。
ふと車内のディスプレイが目に入るとそこに書いてあるニュースを見て陽菜が言った。
「…また魔獣出たんだね。」
魔獣―――それは8年前の大災害「アポカリプス」の際に生まれた謎の存在。突然現れては町を破壊する、災害のようなものだ。
出現の条件やその生態など、詳細は全く不明である。
「…まーでも、また魔法戦士たちがどうにかしてくれたんだろ?ほら、けが人だってほんの数人だし。」
魔法戦士―――それはこの世界が唯一持っている魔獣への対抗策。
不思議な力を使い、戦う戦士たち。
世界中で魔獣が暴れ続ける中、彼女たちは人々を守るために戦い続けている。
アポカリプスの時、一度だけ見たがその力は今思い出しても圧倒的であった。少し前まで町を蹂躙していた魔獣たちをあっという間に倒してしまったのだから。
そんな事を考えていたらもう目的地の駅についてしまった。私は優地とともに電車から降りた。
駅から歩いて数分、私達は目的地のワカバウォークに着いた。私が小さい頃はもう少し規模の小さい場所だったのだがアポカリプスの後、大規模な改修工事が行われた。その結果、県内でもTOP5に入る規模の商業施設になったのだ。
「どうする?どっか行きたい場所はあるか?」
「うーん、そうだね…ゲームセンターで一緒にゲームしない?」
「よし、じゃあ早速行くか!」
そうして私達は施設内のゲームセンターへ向かう。
ゲームセンターに着くと、早速私達はレースゲームを二人で始める。
そこからクレーンゲームにリズムゲー、二人で一緒に遊んだ。昼にはフードコートで一緒のメニューを選んだ。久々に温かいものを食べた、と感動している優地を見て思わず笑ってしまった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。気づけば手につけている時計は4時を過ぎ、若干日が暗くなり始めている。
「はー楽しかったぁ〜。」
と、優地が満足そうな顔をしているのを見て私は言った。
「バイトばっかりの生活じゃ休むにも休めないでしょ?優地はたまにでも良いからしっかり休んでよね。」
「とは言っても金稼がないと俺も生活できねえしさ。だからこそこういう日がめっちゃ楽しいんだわ。」
そう言って優地は頬をつついてきた。
「こら、勝手に頬をつつくな!」
そう言って私も優地の頬をつつき返す。
もう少し、こんな時間が続いたらな…
そう思った矢先、
「ん…?」
と優地が言う。
「どうしたの?」
「いやなんか、今少し揺れたような…」
優地がそう言った直後、館内放送がなる。
『お客様にお知らせします。ただ今、当館から約4キロほど離れた地点で魔獣が観測されました。現在、この付近には避難勧告がでています。繰り返します…』
「…4キロ、結構近いな…。」
そう優地が言う。周りでは既に先程までゲームセンターで遊んでいた人やフードコートで食事をしていた人たちが避難を始めていた。
「大丈夫であっては欲しいが…おれらもさっさと出よう。」
そう言った矢先だった。
建物が激しく揺れる。
「きゃぁ!」
強い揺れに思わずバランスを崩すが優地が支えてくれた。
「ありがとう…」
「大丈夫なら良かった。でもこれは…まずいな。」
この揺れ方。おそらくここからそう遠くない場所に魔獣がいる。
私達は付近の避難所へ向かい始めた。ふと後ろを見ると、先程までいた建物の屋上に物陰が見えた。おそらく魔獣だ。
「ウォオオオオオ!」
鳴き声が響く。
まもなく、私達は避難所の入口付近まで着いた。入口のあたりはこのあたりの人間が一斉になだれ込んできたため、かなり混んでいる。近くの警察署の警官が誘導を行っていた。私達も誘導に従って動いていた。
だが―――
「まだ残ってるんです!」
その声が私達の耳に入る。
「うちの息子達が…まだキッズスペースに取り残されているんです!」
おそらくその子たちの親なのだろう。誘導中の警官に必死に説得している。
「避難勧告が解除されるまでは無理です、後ほど捜索を行うので今は避難所の方へ…」
親たちは譲らない。必死に説得し続ける。
正直、助けてあげたい。だが、一般人の自分らがでたところでどうにもならないのはわかっていた。
だが…
「…陽菜、ごめん。少し行ってくる。」
そう言うと、優地は私の手を離して人の流れとは反対側へ向かい始める。
「待って…優地!」
そう言って私も彼が向かった方へ行く。
避難所へ向かう人とは反対側へ向かう私。危険なのはわかっていた。でも、優地に万が一のことがあったら、私は…
最初は見えていた優地の頭部もやがて見えなくなった。だけど私は一心不乱に走り続ける。
大事な人のところにいるために。




