焦燥感
陽菜たちが魔獣を倒した直後。
救助者を避難所へ届け終えた天音は、遠目に魔獣の倒れる姿を見て、安堵の表情を浮かべた。
「お二人とも、流石ですね。私が到着する前に片付いちゃいましたね」
そんな事を話していると、ふと天音は自分が魔法戦士になった頃のことを思い出す。
天音は中学三年の卒業間際に魔法戦士となり、約二年間活動している。
当初は非公認だったが、半年後に魔除庁へ加入し、大宮支部に所属。その後さらに半年後、引っ越しに伴い現在の支部へ移った。
徳姫はその直後に加わった仲間で、当時から現在の天音に匹敵する実力を持ち、後に起きたあの出来事でも私を除いて唯一生き残った。
そして、つい先日加わった陽菜もまた、徳姫に並ぶほどの才能を持つ存在である。
「私も頑張らないと…ですね!」
3人の中で一番遅れを取っているのは間違いなく自分だ。その遅れを埋めるため、自分も頑張らねば…そう思った。
駆け足で現場へ向かっていると、少し離れたところに人影を見つけた。
逃げ遅れ…にしては今更すぎるだろうし、第一外にいたら普通は本部のカメラが見つけるはずである。
不審な点が多く、天音は少し離れたところから様子を見る。
少しのあいだ見ていると、謎の人物はその場から動こうとする。
その時、天音の後ろにあった崩れかけていた瓦礫が崩れ、音を立てる。
その音に反応し、謎の人物は後ろを振り向く。
天音と謎の人物。二人の目が合うと同時に、謎の人物は慌てて逃げ始めた。
天音はその後ろ姿を追いかけ始める。
謎の人物はかなりの速度で走っており、天音と謎の人物の距離が少しずつ開き始める。
「仕方がありませんね。迅炎…!」
迅炎―――天音の攻撃のうち、動きの加速を行う技。迅炎を使った時の天音の速度は、最高で音速になることすら可能である。
音速で謎の人物を追い抜き、目の前に立つ天音。
謎の人物は慌てて後方に逃げようとするが、天音は逃さない。すぐに後ろ手を拘束し、動けなくする。
「誰かは知りませんが、何故このようなところにいるのでしょうか?」
謎の人物は泣きそうな目をしてパニック状態になっている。
「そ、その…許してください…!」
謎の人物―――声のトーン的におそらく同年代くらいの女性だろう。そのつもりはなかったのだが、かなり怖がらせてしまったようだ。
(見た目は同年代の女性ですが…念の為拘束してから本部につれていきましょうかね…)
天音がそう考えていた、その時だった。
「が…あが…っ…!」
少女は突如苦しんで腹部を押さえる。
「どうされましたか!?」
突如苦しみだした少女に、天音は癒炎をかける。しかし、効果は全くないようだ。
次の瞬間、彼女の口元からとてつもない量の血が溢れ出した。吐き出された血が僅かだが天音の腕に飛び散る。
まもなく、少女は動きを止め、ぐったりとして動かなくなった。
動かなくなった彼女の心音を確認するが、既に音はしない。
「駄目…でしたか…」
急な出来事だったとはいえ、それでも苦しむ彼女を助けることはできなかった。
天音は動かなくなった体を瓦礫に近づけ、寄りかからせる。
「申し訳ございませんが…またすぐに迎えに行きます。」
状況の理解はまだだが、ひとまず情報共有を優先したほうがいいだろう。
司令と陽菜たちに連絡するため、通信機を起動する。
「司令、こちら、少し変なことがありまして…魔獣は片付きましたし、援軍で呼んでた部隊を私のいる座標へ送ってくれませんか?少し気になることが―――」
それを遮るように通信機から声が出される。
『天音くんか!良かった、やっとつながった!』
通信機越しの司令はかなり焦っているようだ。
「どうしたのですか、司令」
『非常事態だ…大至急、今から送る座標の地点へ向かってくれ。現在、この付近で正体不明の二人組と陽菜くん、徳姫くんが戦闘している』
「え、それはどういう…」
『説明している暇はない、大至急向かってくれ!』
そう言うと、通信はプツンと切れてしまった。
正体不明の二人組に謎の少女。
今、この戦場で何が起きているのだろうか?
同時刻、陽菜と徳姫は全速力で優地のいる場所へ向かっていた。
二人とも最高速で向かうが、焦る陽菜の姿を見て、徳姫が言った。
「陽菜ちゃん、気持ちはわかるけど少し冷静になって」
陽菜が焦ってるのは一目瞭然だった。かすかに聞こえてくる息は浅く、冬の時期にしては顔周りの汗が過剰に見える。
「でも…優地が!」
「わかってるけど…!」
「だったら!早く行かないと!!」
ここまで陽菜が焦っているところを見るのは、彼女と初めて会った時以来二度目だった。
どちらでも共通しているのは優地くんが危険な状態であったこと。
彼女にとって優地くんが大切なのは確かだろうが、にしてはあまりにも様子がおかしい。
恋人というのがそういうものなだけかもしれないが、だとしてもかなり引っかかっていた。
そんな事を考えていると―――
「…いた!優地!」
陽菜ちゃんの声に気づいて下を向くと小柄な少年と怪しい仮面をつけた人物。そして、腕や頭部から出血してぐったりとしている状態で仮面の人物に首元を掴まれている優地くんがいた。
「優地を離して!」
私が制止するまもなく、陽菜は一直線に飛んでいってしまった。
「おや、少々のんびりしすぎてしまいましたか」
仮面の男は向かってくる陽菜を見て言う。
「だからさっさと殺れって言ったんだ。のんびりしてたら気づかれるって」
「いや、バレたところで何ら問題はない。せっかくだし、彼女たちで少し実験でもしてみようじゃないか。レオ、彼はまだ殺さないでください」
「…下衆が」
そう言うと仮面の男は優地をレオの方へ投げ飛ばした。
「げっ、これでもまだ生きてんのかよ…」
優地の息は弱々しかったが残っていた。人とは思えないレベルの耐久性にさすがのレオも驚いた。
「さて、実験とは言ってたが…あいつらも運がないな」
そう言いつつ、付近の瓦礫の上の方に立つと、目の前で激しい衝突が起こる。
陽菜と仮面の男。二人の激しい攻撃の衝突が周りの地形すら歪める衝撃波を起こしていた。
「優地を…返せ!」
陽菜はそう言うともう片方の手でもアガペリオ・ストライクを放つ。
仮面の男はすかさずその攻撃を防御する。
「随分と焦っているようだね、魔力の流れが乱れてフルパワーを出しきれてないよ?」
仮面の男は陽菜を煽りつつカウンターを仕掛けようとする。
しかし、その動きを横から徳姫がすかさず阻止する。
「ハードヴァッサー!」
その声とともに徳姫の手元からレーザーが放たれる。
仮面の男が攻撃を避けた隙をついて徳姫は畳み掛ける。
「ハイドロ・ストリーム!」
放たれた水流が作り出した渦は忽ち仮面の男を飲み込んだ。だが―――
「水遊びにしては少々水量が多すぎるんじゃないかな?」
「なっ…」
いつの間にか渦から脱出した仮面の男は徳姫が反応する間もなく一撃を加え、徳姫を弾き飛ばした。
徳姫はすぐさま態勢を立て直し、仮面の男に殴りかかる。
「おや、突っ込んでくるのか。悪あがきかな?」
「そんなわけ…ないでしょ!」
そう言うと、徳姫は仮面の男を押し飛ばす。
仮面の男は徳姫へ攻撃を仕掛けようとするが、寸前で攻撃をやめ、後ろを振り向く。
「プラグマ・ルーチ!」
陽菜の放った大量の光の矢が仮面の男に降り注ぐ。
仮面の男は次々飛んでくる矢をいなすが、その間にも反対側の徳姫が攻撃を繰り出してくる。
「これは…ちょっとまずいかな?」
仮面の男が焦る様子を見せる。
陽菜と徳姫はすかさず攻撃の勢いを強めた。
しかし―――
「獄牙乱舞」
その声が響き渡るとともに、陽菜と徳姫に向けて大量の斬撃が繰り出されるのだった。




