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二話目 せっかちなポジティブマン

 私は転がっているスマホを取り上げようとして、手がすり抜けた。

 時間を確認したいだけなのに、なんと不便な身体なのだ。


 すると、少年がこう言った。


「一体、どうやって幽霊になったのですか?」

「それを知ってどうする?」

「幽霊になってほしい人が……。あっ、何でもないです」


 思春期には、妙なことに興味を持つものだ。


「まぁ、強いて言えば、気が付いたらこうなっていた」


 私はそう言って、胸を張った。


「そんな自慢気に言われても……」


 少年は明らかにげんなりした。


「それで、タクシーって? あぁ、病院に行きたいんですね?」

「違う。死んだ人間に病院など必要ない。君は私と共に空港に行くのだ」

「……死んだのに、空港って。ぼくも一緒に?」

「そうだ。君にはやってもらうことがある」


 少年は頭を抱えた。


「恐いし、無理です……」


 実に真っ当な意見だが、こちらには、それを上回る理由がある。


「君にしかできないことだ。世界を救う手助けをしてくれ」

「世界って? ぼく、戦うとかできないけど……」

「安心したまえ。戦隊ものでも、スパイものでもない」


 少年の目にはっきりと『?』マークが浮かんでいた。


「……今のは、忘れてくれたまえ。君はただ私の言う通りにすればいい。急がないと、乗り遅れてしまう」


 少年は目を見開いた。


「えっ、飛行機に乗るつもりなの? これは? おじさんの身体の方はどうするの?」


 理由は分からないが、かなり怒っているらしい。


「それは救急車に任せればいい。然るべき、処理をしてくれるだろう」


 私は自分の顔を見下ろした。なかなかの苦悶に満ちた顔だ。


 このバス停のベンチに座ったところまでは覚えている。

 だが、その後は、まるで暗転でもしたように真っ暗だ。


「自分の身体のことを、それって……。どうしてそんなに冷たいの? 自分の身体でしょう? これを置いていくなんて、可哀そうだと思わないの?」


 少年は泣きそうな顔でそう訴えた。

 しかも、私の身体を『これ』と言った。『それ』はダメだが、『これ』なら良いのだろうか? 


「うん。確かにそれは私だが、もう私と一体ではない。そして、今は悲しむ前にやるべきことがある」

「でも……」


 少年は首を振った。


 ――煮え切らないな


 私は十秒ほど考えた末、両手をだらんと垂らし、いわゆる“おばけのポーズ”を取った。


「早くしないと、一生、君に取り憑くぞ~」


 よっぽど怖かったらしく、少年は踵を返し、道路に向かって勢いよく片手を上げた。

 作戦成功だ。


「そのビジネスバッグを持ってくれ」

「泥棒みたいで、嫌だ!」

「私が許可する」

「もう死んでるのに、許可って……」


 すると、少年はベンチの横を指差した。


「じゃあ、あっちのスーツケースは?」

「ハハッ、今の私に着替えなんて必要ないだろう?」


 私のクールなブラックジョークは完全にスルーされた。


「ゴォホン! タクシー代は、そこに入っている財布から払えばいい」


 それを聞いた少年は、ようやくバッグを持ち上げた。


「さぁ、急げ。救急車がきたら、時間をロスしてしまう。そうなれば、もう間に合わない」


 すると、少年は私の身体に手を合わせた。


「おじさんは……、ほんとに未練とか感じないんだね」

「私は常に“今”を生きる人間なのだ」


 私は再び胸を張った。


 すると、少年は私の方を見もせずに、


「……生きるって、もう死んでるけどね」


 と、言い放った。


 ――随分と生意気な少年だ。



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