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十七話目 いざ、待ち合わせ場所へ

 私と伊吹はタクシーを降りた。


 伊吹は私の財布に小銭をしまいながら、私にこう聞いた。


「なにをニヤニヤしているの?」

「イヤ、あの運転手は、君のことを完全に不審者扱いしていたと思ってね。降りる時に、上から下までジロジロと見られていたぞ。今頃、怪しい人物を空港まで送ったと、どこかに通報しているかもしれないな」

「それはおじさんのせいでしょ!」

「何をそんなに怒っているんだ?」

「もう、いい! それより、永田さんはどこにいるの?」

「あいつとは国際線ロビーで待ち合わせをしている」


 私達はそうやって話しながら、エレベーターで4階まで上がった。


 しかし、エレベーターのドアが開くと、そこは様々な国籍の人々で賑わい、人を掻き分けなければ前に進めないほど混雑していた。

 皆の高揚した熱気に圧倒されたかのように、伊吹が上擦った声を出した。


「ねぇ、永田さんの身長って、何センチぐらい?」

「百九十センチだ」

「めちゃめちゃ大きいね」


 伊吹はそう言いながら、キョロキョロと辺りを見回した。


「そうだ。めちゃめちゃ大きくて、しかもぽっちゃりしている。そして、少しだけ服のセンスに難ありだ。今日はどんな格好をしていたかな? ちょっと思い出せない」


 私もロビーに座っている人々を見回した。


「う~ん。例えば、ほら、あの明るい茶色のチェック柄のスーツを着ている人みたいな? まさかね。アレって、お笑いの人かな? テレビのロケでもやっているのかもしれないね」


 伊吹はそう言うと、十メートル程先にあるトイレの入り口付近でウロウロしている大柄の男を指差した。


「正解! あれが永田だよ」

「へぇ~、個性的なファッションだね……」

「だろ……」

「あれは、どこで売っているんだろうね」

「あいつぐらいの身長だと既製品は入らないから、オーダーメイドだ」

「オーダーメイドで、あのチョイスか~。なかなかだね」

「あぁ、なかなかだ」


 私達がそう品評しながら永田に近づいていくと、あいつは多目的トイレのスライドドアを開けて、中へ入って行った。


「入っちゃったね」

「どうしたんだ? 男子トイレが込んでいるか?」

「うーん。我慢できないぐらい切羽詰まっているのかも」 

「腹でも壊しているのか? まぁ、いい。待っていよう」


 私達はトイレの入り口が見えるベンチに座った。


「勢いで来ちゃったけど、ぼくは永田さんに、何て言えばいいの?」

「そうだな。まず、私が死んだことは伏せておこう」

「エッ? どうして?」


 伊吹は周りが振り返るほどの大きな声でそう言うと、慌てて身体を小さく縮めた。


「私が死んだとなると出張どころではなくなって、あいつは病院に駆けつけようとするはずだ。しかし、今回の実験が流れたら、もう一度セッティングするのは無理だろう。このチャンスを逃したくない。だから、永田には一人で飛行機に乗ってもらう。現地に着いた後は、そのUSBに入っているプロトコルに沿って実験を進めればよいだけだから」


 現地に着けば、協力先のスタッフや通訳もいる。お膳立てはできているから、永田一人でも大丈夫だろう。


「ええっと、そうしたら、ぼくとおじさんはバス停で出会いました。おじさんは具合が悪くなったので、これを預かってきましたって言うの?」

「まぁ、そんな感じだな」

「何か変じゃない?」


 伊吹はそう言うと、首を傾げた。


「変じゃないさ。補足すると、私は遅れても必ず行くから、先に飛行機に乗って現地に行ってくれと言っていましたと付け加えてくれ」

「でも、それは完全に嘘だよね。そんな事を言ってどうするの? それに、そうじゃなくて」

「どうした?」


「あのね、根本的なことだけど、ぼくとおじさんは見ず知らずの他人だよ。それなのに、ぼくに大事なものを預けるって、どう考えても変だよ。それに、ぼくは今、おじさんから直接、『あの人が永田だよ~』って教えてもらったけど、実際には僕一人で永田さんを見つけられるかな? 急に話しかけたら、それこそ不審に思われんじゃない?」


「アハハッ、あいつはそんな細かいことは気にしない。もし何か聞かれたら、私に写真を見せてもらったと言ったら大丈夫だ」


 私は伊吹の心配を笑い飛ばした。


「永田さんって、天然ボケの人なの?」

「そこは、おおらかだと言ってくれ」


 私がニヤニヤしながら、そう訂正すると、伊吹は眉間にシワを寄せて無言の抗議をした。


「大丈夫だから。心配ない」

「ホントに、ホントだね」

「あぁ、大丈夫だ」


 私は自分にも言い聞かせるように、そう言った。


「アッ、永田さんが出てきた」


 伊吹の視線の先を見ると、暗い顔つきをした永田が後ろ手でトイレのドアを閉めていた。もう一方の手には大きなボストンバッグとビジネスバッグを重たそうに持っている。


「さぁ、行こう」


 私は伊吹を促して、永田に近づいた。


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