十一話目 自分で選ぶということ
高速道路は空いているようで、タクシーは順調に空港へ近づいていた。
永田が首を長くして待っているはずだ。
私は伊吹を見て、こう言った。
「これからは勉強に力を入れて、自分の進みたい道を行くといい」
「それって、自分がやりたいことをやれってことでしょ? 何がやりたいかなんて、まだわからないよ」
「だからだ。解らないなら、今は勉強して、もう一度、大学受験をすることだな」
「大学って、どうしても行かなきゃいけないのかな? 先生と相談して、春からは予備校に行くことになっているけど、なんだか気が乗らなくて」
「糸がぷっつり切れた感じか?」
「うん。そんなとこ」
「君の志望校はどこだ?」
「大したところじゃないよ。でも、合格できたら、どこだっていい」
「どこでもいいとは、妙なことを言うのだな。それで、文系か? 理系か?」
「一応、理系だけど。どうして、そんなこと聞くの?」
「イヤ、単なる興味だ」
私がそう答えると、彼は何かを諦めたように、残念そうな表情を浮かべた。
「そんなことより、どうしてランクの高い大学を狙わないんだ。例えば、国立とか」
「どうしてって、無理に決まっているじゃない? 逆立ちしたって、ぼくには入れないよ」
伊吹は平然として、そう言った。
「そんな決めつけは、自分をバカだと言っているのと同じだぞ」
「違うよ。でも、ぼくはバカじゃないけど、賢くもない。普通。可もなく不可もなくだよ」
「その若さで開き直ってしまったら、お先真っ暗だぞ」
「大きなお世話ですよ。僕なんて、もういいんだ」
―これは厄介な永田病だな
「前置きをすると、これは私の持論であって、君に強要するものではない。もちろん、大学に行くには、それ相当の金額がかかるから、経済的に無理なこともある。しかし、私が今まで生きてきた経験上で言うと、ちょっとでも行きたいと思うのなら行った方がいい」
「どうして?」
「それは、後々、後悔しないようにだ。それに、大学に行けば、自分がやりたいことを考える時間ができるし、様々なことを知ることにより人生の選択肢が広がる。もちろん、やりたいことが明確にあって、そのために努力すべき道が他にあるのなら、話は別だがな」
伊吹は私の話に耳を傾けながら、何かを考えているようだった。
私は、更に続けた。
「しかし、果たして、そんなしっかりした高校生がどのくらいいるのだろうか? 」
「たぶん、そんな奴は珍しいんじゃないかな?」
彼も自分なりに、答えを見つけようとしているのかもしれない。
「だから、大学と言う社会とのクッション、すなわち生きてゆくための準備期間が必要だと、私は思っている。それに、酷なことを言うようだが、世の中には、大卒と言う肩書が必要な職種も多い」
「ぼくは普通でいいんだけど……」
「何をもって普通とするのか? 普通と言うのが、一番難しい」
――普通とは真綿で自由を縛るようなものだ。
あの頃の永田も、伊吹と同じように、普通でいいと言っていた。




