一話目 成仏しないポジティブマン誕生
誰かが大声で叫んでいる。
しかも、やけに近くで、おじさんと呼ばれているようだ。
「誰だ! 私はまだ五十代だぞ。失礼じゃ……」
そこまで言って、喉が詰まった。
白目を向いた私が道路に横たわっているのだ。
そして、その身体にまたがって、必死に心臓マッサージをしている少年がいる。
――なんの冗談だ?
その少年は額に汗をかきながら、両手を動かし続け、
「もうすぐ、救急車が来るから。死なないで、もう、誰も死なないで……」
と、泣き叫んだ。
――あれは、もう手遅れだ。
周囲を見回すと、愛用のビジネスバッグとスーツケースが離れた場所に散らばっていた。
それから、植込みの奥に赤い水筒が転がっているのが見えた。
蓋は開いていて、茶色い液体が道路にシミを作っていた。
空港行きと書かれたバス停にも、その液体がかかっている。
その空港の文字を見た瞬間、一気に現実に引き戻された。
死んでいる場合ではない。これから飛行機に乗るはずだったのだ。
「おい、君!」
私は思わず大声を出した!
すると、肩で息をしていた少年が、身体を硬直させた。
「……聞こえるのか?」
そう言うと、少年はゼンマイ仕掛けの人形のような動作で振り向いた。
「もう無理だ。死んでしまったよ……。それよりも、タク……」
シーを拾ってくれと続けたかったのだが、少年の顔から見る見る血の気が引いて、紙よりも白くなったので、私は言葉を切った。
「おい、君、私が言うのもなんだが、大丈夫か?」
私は自分の言葉に半分笑いながら、そう言った。
すると少年は、目をギュッと瞑り、両手で耳を塞いだ。
「そんなことをしても無駄だ」
私はニヤリとした。
――この少年を使えば、空港に行ける。
ゴビ砂漠に行き、最終実験をする。
ここで終わるわけにはいかない。




