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エピローグ

「なるほど……そうして今回の事件は無事、解決されたわけですね」


 目の前でニンマリと笑うルイズを前に、ノエは頷きながら笑みを返した。


「はい。色々ありましたが、なんとかナスルさんたちを助けることができました」


 今、二人は劇場にある休憩室で紅茶を飲みながら、今回の事件について話していた。事件解決までの経緯を伝えると、ルイズはそれを面白そうに聞いていた。


「まさかアレヴィ家とも繋がりができるなんて、とんでもないお土産がを持ってきてくれましたね。そういえば、犯人のブルノス氏についても、警察が動いてくれているそうですよ」


 この事件で逮捕されたブルノス。元々違法な取引や工場経営など、黒い噂が付きまとう人物。この件で警察が彼の身辺を捜査し、彼がこれまで行ってきた犯罪行為が次々と明るみに出ることとなった。


「あの人、うちの劇場とも取引をしようと時々話を持ってきてたんですけど、嫌な噂ばかりだったから断り続けていたんです。それでもしつこく申し込んでくるものだから、正直辟易してまして。元々他の人たちからもよく思われていなかったみたいで、今回の逮捕でみんな『やっぱりか』って感じてると思いますよ」


「そうでしたか……よっぽど嫌われていたみたいですね。そのブルノスという男は」


「ええ。しつこい男は嫌われるのと同じですよ」


 ルイズの答えにノエは笑い声を上げた。


 彼が経営していた工場では過酷な労働状態が横行していたらしく、まともな生活すらさせてもらえない状態だったという。


 図らずもノエの行いがブルノスの逮捕に繋がり、工場で働く労働者を救うことに繋がった。ノエとしてはそれを嬉しく思っていた。


 ギャングに襲われた古書店のクロエも、無事に退院してもう店に立っているという。事件解決に協力してくれたテリムも、あれからアレヴィ家の人々とよく会うようになり、時々セレンから勉強を教えてもらっているという。


 こうして事件に関わった人々も日常を取り戻し、物語としては大団円を迎えることができた。


「こうして、名探偵ノエさんの活躍により、事件は無事解決されました。めでたしめでたし、ですね」


 拍手と共にそんな口上を呟くルイズ。ニタニタと笑う彼女にノエが慌てて否定する。


「いや、自分は何もしてませんよ。サフィナさんについて行ったらたまたまこうなっただけで。名探偵と呼ぶなら、モリスさんのことだと思いますよ」


「あら? そんなことはないと思いますけど」


 ルイズはそう言って、目の前に並んでいるマカロンを一つとって口に運んだ。


「劇場に帰ってきてから姉さん、ノエさんの活躍をずっと話してくれてたんですよ。まるでジョゼフ教授みたいでかっこよかったって。子供みたいに目を輝かせてましたよ」


 その時のサフィナのことを思い出しているのか、ルイズが面白そうに笑った。


「それに、あれから『新しいお友達』とずっとお話しているみたいだし。子供がもう一人増えたみたい」


「きっと二人とも、本の森に迷い込んで、楽しくて森から抜け出せないのでしょう。これが童話なら、二人はお菓子の家を見つけるのかもしれません」


 ノエがそんなことを呟くと、二人は楽しそうに笑い出した。


 今、サフィナは自分の書斎に入り浸っていた。そこで同じ本の虫のオイフェとずっと語り合っている。


 事件が終わって劇場に帰ると、そこには事件に協力してくれたオイフェが彼らの帰りを待っていた。


 サフィナが帰って来たのを見ると、オイフェは目を輝かせながらサフィナの書斎を称賛しはじめた。


 そのことが嬉しかったのか、サフィナは自慢の書斎とそこにある本について語り始めた。そこからは本好き同士の熱い語らいとなった。


 二人の語らいは今も続いており、本についての講評や感想などをずっと語り合う日々を送っている。


 サフィナの物語への愛情は強く、その境地に並ぶ者はあまりいない。彼女と本や物語のことで語り合える人間はほとんどいない。


 そんな彼女と同じくらい本を愛するオイフェは、サフィナにとって初めて本のことで語り合える友達となったのだ。


 ノエも時々、部屋に様子を見に行っているが、お互い黙々と本を読んでいたり、そうかと思えば一冊の本のことでずっと語り合ったりと、あんなに生き生きしているサフィナは初めて目にしていた。


 女優として舞台に立つ彼女も美しいが、今みたいに本のことで嬉しそうに語るサフィナの姿は、本当の彼女を見ているようで、ノエはそれが楽しく思っていた。


 こうして今回の事件は幸せな結末として終わったとノエは思っていた。めでたしめでたし、と。


「そう言えばノエさん。私、あと一つだけ知りたいことがあるんです」


 その時、ルイズがそんなことを言い出してきた。もう事件のことは全て説明したし、語るべきことは全て語ったと思う。


 これ以上知るべきことなどあっただろうか? ノエのそんな疑問を浮かべていると、ルイズが身を乗り出してノエに近寄る。その顔はまるで、面白いものを見つけた子供のように爛々としていた。


「姉さんと一緒にデートに行ったあの日。二人でどんなことをしたのか、まだ聞いていないんですけど。そこのところ、話してもらえますか?」


「…………」


 ノエは背中に変な汗が流れるのを感じた。まさか今さらそんな話をされるとは思ってもいなかった。


 今、ルイズの瞳がノエを捉えている。その目を見ればわかる。話すまで逃がさないつもりだ。


「あの日、帰って来た姉さんを見たらすっごい嬉しそうでしたよ。一体何をして、どんな話をしたのか。ぜひ教えてください」


 さらに身を乗り出して詰め寄ってくるルイズ。その圧力にノエは思わず身じろぎした。


 どうやら事件はあと少しだけ続くみたいだ。ノエはそんなことを考えていた。

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