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Lv4 秘密の共有

アーサーが嘆きの洞窟から出たのは、太陽が西の空に傾き始めた頃だった。レベル101への到達と、規格外のステータス上昇のおかげで、彼の心は満ち足りていた。


「ふぅ……。よし、帰るか!」


アーサーは拠点である冒険者都市『エルドニア』のギルドへ向かった。


ギルドのカウンターは、夕暮れの冒険者たちでごった返している。アーサーは自身の冒険者カードと討伐証明の魔石を提出するために、一番奥のカウンターへと向かった。


「ロレッタさん、お疲れ様です」

「あら、アーサー。おかえりなさい。帰りが遅いから心配してたのよ」


ロレッタはベテラン受付嬢だ。彼女はアーサーの冒険者カード(更新前なので今はLv.99)を機械に通し、更新後のデータを確認して、ギョッとした表情を浮かべた。


「その様子だと、オーガキングは倒せたみたい、ね……って、ちょちょ、ちょっと待ちなさい!」

「ど、どうしたんですかロレッタさん。急に大きな声出して。顔怖いですよ?」

「顔なんてどうでもいいのよ! それより一体どうなってるの!? Lv:101になっちゃってるんだけど!?」


ロレッタはそこまで口にした瞬間ハッと我に返り、周囲に悟られないよう、すぐに声のトーンを落とした。


「……いいかい、アーサー。ひとまずこのレベルのことは秘密だよ」

「えっ。自慢しちゃダメなんですか?」

「これは、あんた自身と、世界の秩序を守るためよ。いい? こんなこと普通ありえないの。もしこれが公になれば、世界中がパニックになるわ。とりあえずギルドの登録上は、Lv:100で止まったことにしておくわ。ギルドマスターには私から伝えておくから安心しなさい」

「わ、わかりました。お願いします、ロレッタさん」


ロレッタはアーサーのカードデータをLv:100で上書きし、オーガキングの魔石の換金を済ませた。しかし、嘆きの洞窟の下層(超限エリア)で倒したグラウンド・アームなど、未知のモンスターの魔石は"異常な魔力反応で鑑定不能"となり、一旦、保留ということになった。


「はぁ……。まあ、普通に考えたら異常だよな、俺」


レベルのことは秘密にしろとロレッタに凄まれ、テンションが下がったアーサーはその足でギルドを後にした。


ギルドを出てすぐ、アーサーの耳に、聞き慣れた少し怒っているような声が響いた。


「アーサー! やっと見つけたわよ!」


そこに立っていたのは、銀髪の幼馴染であり、若き大魔導士のリリア・マルグリットだ。


リリアは駆け寄ると、心配と怒りが入り混じった表情で、アーサーの胸元を拳で軽く叩いた。


「もう! 今日一日どこ行ってたわけ? しかもボロボロじゃない。そんなんじゃ100レベルになる前に死んじゃうわよ」

「悪いリリア。でも、安心しろ。見ての通りピンピンしてるぞ」

「無事ならよかったけど……で、どこ行ってたのよ。私も99レベルになったし、二人でオーガキングを倒しに行く計画を立てようって、今日は約束してたじゃない」


アーサーは視線を逸らし、気まずそうに言った。


「……その件についてなんだけどな、リリア」

「? なによ」

「俺さ、我慢できなくてオーガキング一人で倒してきちまった」


瞬間、時が止まる。


「はぁぁあああ!?」


リリアが叫ぼうとした瞬間、アーサーは彼女の口を両手で塞ぎ、周囲に誰もいないことを確認してから言った。


「まぁ落ち着け。今はそれより伝えたいことがあるんだ。リリア、聞いてくれ。ロレッタさんには言いふらすなと忠告されたばかりだが、お前には全てを話したい。これは俺とお前だけの秘密だ」


リリアは、アーサーのただならぬ雰囲気に、真剣な表情になった。アーサーの手をどけた彼女は、小さく「分かったわ、話して」と頷いた。


「俺は……レベル100の壁を、超えてしまった」

「……え?」


リリアは、一瞬信じられないといった表情だったが、アーサーの目を見て冗談ではないことを確信した。


「まさか……レベル101になったってこと!?」


アーサーは自分のステータスウィンドウをそっと開き、リリアにだけ見えるように見せた。


『Lv:101』


リリアは、その数値を見て、言葉を失った。


「そんな……あり得ないわ。アーサー、あなたは一体、何を……」

「俺のユニークスキル、【能力開放ステータス・ブースト】が【限界突破レベルリミット・ブレイク】に進化したらしい。それでレベル100になった瞬間、次のレベルへの経験値ゲージが出現したってわけだ。それから経験値を稼いでレベル101になったんだが、その時のステータスの上昇幅が凄まじかったんだよ」


リリアは腕を組み、真剣に考え始めた。


「世界の理を無視した成長……つまり、あなたはこの世界で唯一、レベル上限に縛られない存在になったということね。確かにこれはロレッタさんが言うように、秘密にしなければいけないわ」

「ああ。リリア、お前は俺の唯一の理解者だ。これからもバカな俺のサポートを頼む」


リリアは、青い瞳を真っ直ぐにアーサーに向けた。


「任せて。私の大魔導士としての知識と魔法で必ずあなたの秘密を守るわ」



秘密を幼馴染のリリアと共有したことで、アーサーの心は軽くなっていた。


二人は、エルドニアの街外れにある、リリアの私設研究室を兼ねた小さな家にいた。リリアは、まるで珍しい鉱石を見つけた科学者のように、目を輝かせながらアーサーの身体と装備を調べている。


「すごいわ、アーサー! あなたの【限界突破】、本当に規格外よ!」


リリアは、魔法陣を描いた水晶球をアーサーの前に置いた。


「どう規格外なんだ?」

「あなたのレベルは101と表示されているんだけど、そのステータス上昇の補正値が、理論上あり得ないほど高いの。レベル101なら、ステータスはレベル100の延長線上で少し伸びるだけのはず。なのに、あなたはレベル100の時点から、まるで新しい成長曲線に入ったように跳ね上がってる」


羊皮紙に計算結果を書き込みながら続けるリリア。


「私の見立てでは、あなたの【限界突破】はレベル100を超えた瞬間、経験値を蓄積するだけでなく、"レベル100までの成長効率の蓄積"を一気に解放した可能性が高いわ。つまり、レベル100までの苦労が、レベル101以降の成長に全て還元されているってわけ」


「なるほど……小難しいことはわからんけど、なんとなくわかった。要は成長期に入ったってことだな」


アーサーは納得した。レベル100までの過酷な修行が、無駄にならなかったどころか、爆発的な成長の起爆剤となっていたのだ。


「そして、この剣よ。《雷聖剣エクスカリバー》」


リリアは、アーサーの愛剣を手に取り、鑑定魔法をかけた。


「あなたの剣の光の加護が、以前より遥かに強力になっているわ。嘆きの洞窟の下層で、超限モンスターを倒した影響ね。魔力反応が、通常のエーテル結晶を凌駕している」


アーサーは、第三階層での【音速の剣ソニック・ブレード】の進化条件をリリアに伝えた。


『進化の条件:【限界突破】の真なる覚醒、及び【光の加護】を持つ武器による100000回の斬撃。』


リリアは、条件を聞いて興奮を隠せない。


「【音速の剣】を極限まで使い込むことで、更なる高みへ進化させられる……そして、必要なのは『光の加護を持つ武器』、つまりこの雷聖剣での100000回の斬撃ね! これは、私たちが協力すればすぐに達成できるわ!」


彼女は、研究室の奥から、自作の【魔力砲出機】を取り出した。


「いい? アーサー。この魔力砲出機から、私が最大魔力で闇属性の魔力を放出する。あなたはそれを、【音速の剣】で全て斬り払うの。これは経験値にはならないけど、進化の条件である斬撃回数を安全に稼げるわ」

「闇属性の魔力を……斬り払う?」

「ええ。あなたの剣と、あなたの技量なら可能よ。そして、その訓練中に、私が【限界突破】の真の覚醒条件も探るわ。まぁでも、ユニークスキルは、たいてい使い続けることで真の力が解放されるものよ」


アーサーの顔に、再び闘志が宿った。強くなるための道筋が、明確に見えたのだ。


「わかった。リリア頼む!」


リリアは水晶球を起動し、魔力を込めた。水晶球から、禍々しい黒い光線が、アーサーめがけて一直線に放出される。


キン!キン!キン!


アーサーは、瞬時に剣を抜き放ち、【音速の剣】を発動させた。黒い魔力の奔流は、アーサーの剣によって、瞬く間に光の破片へと切り裂かれていく。

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