Lv2 レベル101
アーサーが飛び込んだ縦穴は、数十メートルにわたって続いていた。彼のレベル100の体力と熟練の着地術をもってしても、その衝撃は無視できないものだったが、彼はすぐに体勢を整えた。
「くそ、深いな……」
辺りは、今までの洞窟の雰囲気とは完全に異なっていた。壁は不気味な紫色に染まり、足元の岩盤からは微かに青い炎のような魔力が立ち上っている。空気は澱み、まるで毒ガスを吸い込んでいるかのように、アーサーの身体に重くのしかかった。
『警告:【瘴気】によるステータスデバフが発生しています。』
ステータスウィンドウに赤い文字が表示される。
【瘴気デバフ】 効果:筋力、敏捷、魔力、体力、全能力を10%減少させる。
「いきなりこれは手厳しいな」
アーサーは舌打ちした。レベル100の能力が10%減少するのは痛手だ。しかし、このデバフを食らっても、彼の能力値は並のレベル90冒険者を遥かに凌駕している。
(この下層は、誰も到達しなかった場所。レベル100の限界を超えた者が、初めて足を踏み入れる『超限エリア』ってことか……)
彼は、全身に残る疲労を一気に振り払い、剣を構え直した。
光玉の魔法で周囲を照らしながら、通路を進む。数百メートルも進まないうちに、最初の敵と遭遇した。
「あれは……シャドウ・スケルトン?」
立ちはだかっていたのは、漆黒のローブを纏った一体の骸骨だった。その眼窩からは、赤い怨念のような光が漏れ出し、全身から禍々しい闇の魔力を発している。このモンスターは、通常の嘆きの洞窟では、まず出現しないはずの闇属性の強敵だ。
シャドウ・スケルトンはアーサーに気づくと、長大な骨の指を向け、闇の呪文を詠唱し始めた。
「厄介な魔術師タイプか! 詠唱はさせねぇぞ!」
アーサーは即座にダッシュを仕掛けた。敏捷デバフを受けていながらも、その速度は音速に迫る。一瞬で距離を詰め、抜刀術の要領で剣を抜き放った。
「【音速の剣】!」
ザシュッ!
シャドウ・スケルトンの詠唱が終わる前に、アーサーの剣閃がその骨の胴体を両断した。
ガシャン! と音を立てて骨とローブが地面に散乱し、赤い光が霧散する。
そして、期待していたメッセージが表示された。
『経験値を獲得しました。』
『次のレベルアップに必要な経験値: 550 / 1,000,000』
(一体で500以上の経験値……!?)
アーサーは目を見開いた。通常のレベル80台のモンスターであれば、倒しても数十程度の経験値しか入らない。レベル99の強敵でも、せいぜい数千だ。それが、この未知のエリアに入った途端、雑魚敵から異常な量の経験値を獲得した。
「間違いない。このエリアのモンスターは、レベル100を基準に設定された、超限モンスターだ!」
この確信は、アーサーに新たな闘志を呼び起こした。レベル100から先に進むためには、レベル100を凌駕する敵を倒す必要があった。そのための環境が、今、彼の目の前に広がっているのだ。
彼は立ち止まることなく、さらに奥へと進んだ。
通路を進むにつれ、敵の数は増え、種類も凶悪になっていく。
シャドウ・スケルトンの集団、漆黒の皮膚を持つ《深闇のコボルト(ダークネス・コボルト)》、そして巨大な体躯を持つ《瘴気のゴーレム(ストーム・ゴーレム)》。
カキン!
アーサーは、深闇のコボルトが振るう毒を塗ったナイフを剣で受け止め、受け流しの勢いを利用して横薙ぎに切り払う。
「ふっ!」
彼は、回復ポーションの在庫を気にすることなく、魔力ポーションを飲み干しながらスキルを惜しみなく放った。
『経験値を獲得しました。』
『次のレベルアップに必要な経験値: 2,300 / 1,000,000』
『次のレベルアップに必要な経験値: 4,500 / 1,000,000』
『次のレベルアップに必要な経験値: 7,800 / 1,000,000』
経験値のゲージが、目に見えて上昇していく。その数値の伸び方は、レベル90台の頃と比べても、遥かに速かった。
数時間の激戦の末、アーサーは一つの広い空間に辿り着いた。そこは、これまでの通路とは比べ物にならないほど巨大な空洞で、大量の超限モンスターがひしめき合っていた。
「これは……まるで小規模な軍隊だな」
深闇のコボルトが数十体、シャドウ・スケルトンが十数体。そして、中央には巨大な瘴気のゴーレムが三体。レベル100のパーティーであっても、迂闊に足を踏み入れれば壊滅必至の光景だ。
しかし、アーサーの表情に戸惑いはない。むしろ、その瞳の奥が興奮でギラギラと輝いていた。
『次のレベルアップに必要な経験値: 895,000 / 1,000,000』
あと、わずか。
このモンスターの群れを倒せば、レベル101への扉が開く。
アーサーは深呼吸をし、全身の魔力を限界まで解放した。レベル100という人類の限界を超えた場所で、彼は既に無敵の存在と化しつつあった。
「来るなら来い! お前たちは、俺のレベル101への道標だ!」
アーサーは雄叫びを上げ、群れの中へと飛び込んだ。
彼は、最も体力の高い瘴気のゴーレムへと一直線に向かう。ゴーレムが振り下ろす巨大な岩の拳を紙一重で回避し、その足元を駆け抜けた。
「魔力剣・絶技:【雷鳴斬】!」
連続で繰り出される【雷鳴斬】が、ゴーレムの分厚い装甲を突き破り、内部の核を砕く。
ドゴォォン!
一体目のゴーレムが爆散する。その爆音を合図に、周囲のコボルトとスケルトンが一斉にアーサーへと襲い掛かってきた。
アーサーは、剣を振るう速度を限界まで高めた。
「【音速の剣・連斬】!」
彼の姿は、コボルトたちからは残像すら捉えられないほど高速だった。一瞬のうちに十体以上の深闇のコボルトが切り裂かれ、その命を散らす。
『経験値を獲得しました。』
『次のレベルアップに必要な経験値: 910,000 / 1,000,000』
まるで狩りが続く。アーサーの剣が唸りを上げるたびに、経験値のゲージがグングンと伸びていく。残り二体のゴーレムも、アーサーの圧倒的な攻撃力の前に、為す術もなく崩れ去った。
そして、最後のシャドウ・スケルトンを切り倒した瞬間。
『経験値を獲得しました。』
『レベルが上がりました!』
『レベルが 101 になりました!』
疲労困憊の状態だったにもかかわらず、そのメッセージを見た瞬間、アーサーの全身に強烈な光が走り、身体中を力が満たした。
『レベルアップボーナス! 全ステータスが大きく上昇しました!』
『HP、MPが全回復しました!』
彼は慌ててステータスウィンドウを開いた。
名前:アーサー・ウィルクライ
種族:人族
職業:剣聖
Lv:101
HP:1500 (+200)
MP:1100 (+200)
筋力:1900 (+300)
体力:1450 (+150)
魔力:1050 (+150)
敏捷:1700 (+200)
スキル: 【音速の剣】(Lv.MAX)【魔力剣】(Lv.MAX)スキル:【鋼鉄の皮膚】(Lv.MAX)【魔力障壁】(Lv.MAX) 【限界突破】(Lv.1) 【???】(未習得)
「……なんだ、この上昇幅は?」
アーサーは思わず声を上げた。レベル99から100に上がったときとは比べ物にならない、桁違いのステータス上昇だ。特に、主力の筋力が300も跳ね上がっている。
通常のレベルアップでは、せいぜい数十程度のステータス上昇だ。それがレベル101になった途端、それまでの常識を遥かに超える数値が加算された。
(レベル100から先は、レベルアップの効率そのものが跳ね上がるのか?まるで、これまでの苦労が報われるかのように……!)
アーサーは、自らの剣を握りしめ、高揚感に打ち震えた。
レベル100が終わりではない。
レベル100からが、本番だ。
この世界を変える力が、今、アーサー・ウィルクライの手に握られたのだ。彼は、さらなる深奥へ続く暗い通路へと、力強く踏み出した。




