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Lv1 上限のその先へ

薄暗い洞窟の最奥、嘆きの洞窟ケイブ・オブ・ラメントの深淵に、巨大なオーガキングが唸りを上げていた。


「こいつは凄まじい迫力だ」


若き剣聖ソード・マスターアーサー・ウィルクライは、鋼鉄の剣を構え、ほとばしる汗を拭った。周囲は魔物の血と、湿った土の匂いで満ちている。


「ハッ!」


魔力を全身に巡らせた一撃が、オーガキングの分厚い皮膚と肉を裂いた。凄まじい手応えとともに、剣が弾かれる。ステータスウィンドウに表示されたボスの体力ゲージは、まだ半分以上残っていた。


『HP: 580 / 1200』


この洞窟は、誰もが認める難関ダンジョンだ。そして、目の前のオーガキングは、レベル80台のパーティーが挑む、最後の試練。一般的な冒険者にとっての到達点であるレベル100の壁を前にした、最大の障害だった。


「くそ、一撃の威力が足りねぇか!」


オーガキングが地団駄を踏むと、周囲の岩盤が震え、天井から砂利が落ちてきた。


『【剛腕粉砕ストロング・クラッシュ】』


風切り音を立てて、巨大な棍棒が振り下ろされる。アーサーは、その威力を肌で感じ、即座に魔力による防御スキルを発動させた。


「【鋼鉄の皮膚アイアン・スキン】! 【魔力障壁マナ・バリア】!」


ガキンッ!


強烈な衝撃がアーサーの体を貫き、数メートル吹き飛ばされる。背中を硬い岩壁に打ち付け、全身の骨が軋んだ。


『HP: 115 / 1200』


危うく致命傷を免れたアーサーは、すぐに体勢を立て直す。心臓がドクドクと高鳴っていた。


彼の現在のレベルは99。


この世界――『アルカディア』において、人間が到達できるレベルの上限は100だと、誰もが信じている。それは、古の時代から伝わる、揺るぎない世界の常識だった。レベル100に到達すると、それ以上の経験値は消滅し、ステータスの上昇は完全に止まる。だからこそ、レベル99でこのボスに挑むことは、一人の冒険者としての集大成を意味していた。


アーサーは、自分のステータスウィンドウをちらりと確認する。


名前:アーサー・ウィルクライ

種族:人族

職業:剣聖ソード・マスター

Lv:99


HP:115 / 1200

MP:450 / 800


筋力:1550

体力:1200

魔力:800

敏捷:1400


スキル: 【神速の剣】(Lv.MAX) 【魔力剣】(Lv.MAX) 【限界突破】(Lv.1) 【???】(未習得)


このステータスは、レベル99としては大陸でも指折りのものだ。特に、戦闘に特化した筋力と敏捷性は、他の追随を許さない。これは、彼がこの一年間、ひたすら剣を振り、ダンジョンを駆け抜けた証だった。


「これで決める――全魔力開放ッ!)


オーガキングが再び、怒りに満ちた雄叫びを上げ、棍棒を振り上げる。今度こそ、防御では耐えられない。


アーサーは、残る全ての魔力を剣へと注ぎ込み、最後の切り札となるスキルを発動した。


「【魔力剣・絶技:雷鳴斬ライトニング・スラッシュ】!」


剣から放たれた青白い光の奔流が、稲妻のようにオーガキングの胸を深く貫いた。


ドォォン!!


凄まじい爆発が起こり、オーガキングの巨体がグラリと揺らぐ。


そして、ガシャン!と、岩が崩れるような音を立てて、ボスはその場に倒れ伏した。


全身の力が抜け、アーサーは剣を杖にして膝をついた。


『経験値を獲得しました。』


『レベルが上がりました!』


達成感と疲労が全身を支配する。ついに、レベル100。


(やり遂げた……これで、俺も伝説に名を連ねる、レベル100の冒険者だ)


彼は震える手で、ステータスウィンドウを開いた。


名前:アーサー・ウィルクライ

種族:人族

職業:剣聖ソード・マスター

Lv:100


確かに"Lv:100"と表示されている。これで、全てが終わった。そう思った、その時。


頭の中に、冷徹な機械的な音声が響いた。


『ユニークスキル【レベルリミット・ブレイク】が発動しました。』


『レベル上限が解除されました。』


『【限界突破】スキルが【レベルリミット・ブレイク】に進化しました。』


『レベルの上昇が再開します。』


「……何を、言っている?」


アーサーは、目を疑った。レベル上限の解除? そんな奇跡のような現象は、この世界の歴史において、一度たりとも記録されていない。レベル100が絶対の壁であることは、神話にも劣らない真実のはずだ。


彼は、慌ててステータスウィンドウをスクロールする。


名前:アーサー・ウィルクライ

種族:人族

職業:剣聖ソード・マスター

Lv:100


HP:1300 / 1300 (+100)

MP:900 / 900 (+100)


筋力:1600 (+50)

体力:1300 (+100)

魔力:900 (+100)

敏捷:1500 (+100)


スキル: 【神速の剣】(Lv.MAX) 【魔力剣】(Lv.MAX) 【レベルリミット・ブレイク】(Lv.1) 【???】(未習得)


全てのステータスが上昇している。レベルアップした直後に、再びステータスボーナスが付与されたのだ。


そして、レベル表示の下に、小さな追記があった。


『次のレベルアップに必要な経験値: 500 / 1,000,000』


「レベル100に到達しても、経験値の蓄積が続いている……まるで、レベル99までの道のりが、レベル100の先への準備期間だったかのように……」


俺のレベル上限は、本当に消滅したのだ。


常識の崩壊、世界の定義の書き換え。それは、恐ろしさよりも、全身を震わせるほどの興奮をもたらした。


アーサーは立ち上がり、洞窟の出口とは反対側の、暗い通路に目を向けた。そこは、オーガキングを倒した冒険者たちが「もうこれ以上は無い」と、誰も探索しなかった場所だ。しかし、このオーガキングを倒した場所の奥に、さらに下層へ続く道があるという、都市伝説のような噂が、彼の頭をよぎった。


「レベル100が限界? 笑わせるな」


アーサーは剣をしっかりと握り直した。


もし、この世界に俺だけがレベル上限を持たないとしたら。


他の冒険者が到達しえなかった、その"未知の領域"があるとしたら。


このアルカディアには、レベル100の冒険者ですら歯が立たないと言われる、《神級》の魔物や、未踏破のダンジョン、そして数多の伝説が残されている。それらは全て、人類の限界であるレベル100では、手が届かない場所とされてきた。


しかし、彼がレベル101、102、あるいは200、300と、無限に強くなれるとしたら……。


アーサーの口元に、自信に満ちた笑みが浮かんだ。


「レベル100で終わりだと思ってたが、どうやら……レベル100はスタートラインだったらしい」


彼は、周囲を照らす魔法を発動させ、誰もが諦めたその暗い穴へと、迷いなく足を踏み入れた。


「さあ、まずはレベル101を目指そうか!」


その一歩は、これまでの世界の常識を打ち破り、アルカディアの歴史を塗り替える、最初の一歩となった。


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