おもちゃの村の、ひとりぼっちのシュガー
いちばん欲しかったのは、いっしょに笑える“ともだち”でした。
むかしむかし、世界のどこかに、
時間に取り残されたような不思議な村がありました。
「おもちゃの村」と呼ばれるその場所には、
ころころ転がるボールや、おしゃべりする人形、
独りでに歩き出すクマのぬいぐるみ……。
たくさんのおもちゃたちが、楽しそうに転がっていました。
なぜかというと――その村に住むシュガーという女の子が、
人をおもちゃに変えてしまう魔法を持っていたからです。
シュガーは毎日、新しいおもちゃを生み出しては、夢中で遊びました。
それはそれは、にぎやかで楽しい日々でした。
けれど、ある日。
村の最後のひとりまでをおもちゃに変えてしまったあと、
村から笑顔も、返事も、温かなぬくもりも、すべて消えてしまいました。
それを見て、シュガーはふと思ったのです。
「ひとりで遊んでも、ちっとも楽しくない……」
――そして次の日、クリスマスの朝。
シュガーは、そっと自分自身をおもちゃに変えました。
それは、いつか新しい遊び相手が、この村に訪れて、
自分と遊んでくれることを願った、祈りのような気持ちだったのかもしれません。
それから、長い長い時が流れて――1000年後。
ひとりの旅人が、その村を見つけました。
彼は、微笑むように眠る小さな人形を、壊さないようにそっと抱き上げました。
「その人がね、このお店をつくったんだよ」
パパはそう言って、優しく微笑みながら、おとぎ話を締めくくった。
◇
「ねえ、あなた」
ママが少し不思議そうに、パパに尋ねた。
「さっき、娘たちに何を話してたの?」
「……」
「だって……せっかくクリスマスにトイザらスまで来たのに、
この子たち、――“何もいらない”って言うのよ」
◇あとがき◇
これは、随分昔の、実は……実話です。(笑)
クリスマスにトイザらスへ行ったら、4歳と5歳の娘たちが本当に「何もいらない」って、
悲しい顔で言い出してしまいました。
原因は――どうやら、妻が店のトイレに行っている間に、童話仕立てに語ってしまったこの話。
……完全にやらかしました。
おかげで妻から「せっかく来たのに!」と叱られ、
私は小さくなってレジ横のウサギのぬいぐるみを握りしめる羽目に(笑)。