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異形頭、倒れる。

宿に着くまでの間、彼に言われた言葉を反芻していた。

危うい、安く泊まれる、どう聞いても訳ありの宿。門番との話を聞く限り、この街に知り合いが居るらしい。しかも、門番の反応を見るにかなり高位の役職についている。

宿も、その人の紹介なのかもしれない。


目の前を歩いていた彼が動きを止める。どうやら、目的の宿についたらしい。頭を上げて、固まった。


「……あの、ラバさん」


鉄柵に囲まれ、伸びた草が柵に絡み付いている。その奥には家があった。

元は富豪の屋敷であったことを伺わせる様な立派な家。屋敷に合わせた巨大な扉はきっと何年も人の出入りがなかったのだろう、片方が地面に倒れていた。


十中八九、これが"訳あり"の宿なのだろう。


「うん?ああ、そんなに怯えなくても大丈夫だよ、見た目はコレでも中身はそこそこ良いから」


「……宿、と聞きましたが、これはその、廃墟…では?」


お世話になっている立場で図々しい、と思いながらも口に出さずには居られなかった。

私の言葉に彼は首を傾げ、考え込んだかと思うと、おもむろに顔を上げて私の手を握った。


「そっか、君にはそう見えるんだね?なら、ちょうどいいか…、君の力を見せる絶好の機会だ、」


「…ラバさん?いったい何の話を…」


「アクセル」


その言葉の真意を問いただす前に、彼が呪文を口にする。

足に力が入る。ぐるぐると頭が回転する音が聞こえる。目の前には、門があった。


_______ずどぉんっ


視界が揺れる。元々朽ちていた門に衝撃が加わって、弾け飛んだ。


「らっ、…ラバさん?!いきなり何を、」


「宿をよく見てごらん、」


「え?…あ、」


戸惑いのままに、彼が指さす廃墟を見る。そして、唖然とした。


ひび割れだらけの壁は、今や美しい白に覆われ、崩れ落ちていた扉は漆黒塗りの重厚な扉に変化していた。

荒れ果てて、まるでジャングルの様になっていた庭には、色彩豊かな美しい花々が咲き誇っている。


まるで、魔法がかかったような、


「彼も意地悪なことをするね、」


「彼、?いえ、それより…なんで、綺麗に?ここが宿なんですか、…?」


「そうだよ、ここが僕と君が泊まる場所。ちょっと、趣味悪いけど…まあ中身は綺麗だから」


「……一体どこが、…?」


視界に映るのは、さながら貴族の邸宅のような巨大な屋敷。見た目が危ういと言っていたが、一体それはなんだったのか。

整えられた庭園に咲く花は、甘く香しく、美しい。手を伸ばし、それに触れようとする。


「まって、!その花には触れない方がいい、…毒だから」


焦ったような声が聞こえ、手首を掴まれる。さらさらと流れる髪は、見事なまでの翡翠色。大きく見開いた目は神様と同じ、黄金色。


「えっ、あ…すみません。……ありがとう、ございます。」


咄嗟に、謝罪と感謝を口にする。それと同時に、疑問が頭をよぎった。



この人は、誰だ?


「……アルセ、あなたは相変わらず変な物を集めているみたいだね。」


その疑問を口にする前に、私の側で立っていた彼が、呆れたように笑っていた。

翡翠色の髪の男――アルセと呼ばれた男は、手首を掴んでいた私から視線を外し、彼を見た。


「変な物とは失礼な。あなたの方こそ、随分遅かったじゃないか、」


彼は肩をすくめ、「そうかな?」と笑う。私は状況を飲み込めず、二人の間を見比べた。

彼らは明らかに知り合いで、それなりに気安い関係のようだ。


「……あの」


なんとか口を開いたが、何を聞けばいいのか分からない。私が考えあぐねていると、アルセはふっと表情を和らげ、改めて私を見た。


「ああ、自己紹介がまだだったね?私はアルセ・マージク。この屋敷の管理人であり、この街の治安を預かる者でもある。」


アルセ・マージク、門の前で聞いた名前と一致する。


「…魔法使い、の…?」


「…うん?あぁ、まさかラバ…、説明しなかったの?」


アルセは少し呆れたように目を細め、ラバの方をちらりと見た後、肩をすくめた。


「まぁ、そんなに詳しく説明しなくてもいいと思ったんだろうね。…そう、魔法使いだよ。と言っても、そんなに大きな事はしていないけどね。私のやってる事なんてせいぜい、この街の治安維持くらいさ、」


やはり重要な役割を担っているらしい。治安維持、と言うことは憲兵や警察のような役職なのだろう。


「治安維持?」


私の言葉にアルセは頷きながら、少し照れたように言葉を続ける。


「そうだよ。私がやってるのは、街の平穏を保つこと。怪しい者が街に入らないように監視したり、問題を未然に防ぐことが主な仕事さ。ただ、魔法も使うけど、派手に戦うようなことはないから、あまり目立たないんだ。」


その言葉に、私はようやく彼がどんな人物か、少しだけ理解できた気がした。警備や治安を担当する立場であれば、確かにこうした屋敷に住むことも納得できる。街の守護者とも言える立場なのだろう。

目立たない、と言っていたが、門番の反応からしても、彼がこの街の人にどう見られているか、おおよそ察しがつく。


「それにしても、ラバ、…あなたはいつも説明を端折るよな、」


アルセはラバに向かって軽くからかうように言った。ラバは肩をすくめて、少し困ったように笑った。


「仕方ないだろう?無理に説明しても、理解するのは難しいと思うし、それなら直接体験して貰ったほうが早いと思ってね、」


私が二人の会話を聞きながら戸惑っていると、アルセが再びこちらを見て、真面目な表情に戻った。


「…流石にこれは聞いているよね?あなたには、特別な力がある。私もまさか、私の魔法を打ち破るほどとは、思わなかったけど…」


「…魔法?」


魔法、魔法、…もしかして、あの廃墟が、そうなのだろうか。

君にはそう見える、とラバは言っていた。つまりあれは、魔法で作られた幻覚や幻術の様なものだったのだろう。


「…もう気づいたと思うけど、あなたが始めに見ていた屋敷は、私の魔法が作っていたんだ。あなたの力を試そうと思って、仕掛けたんだけど…」


アルセはそこで言葉を区切って、ラバの方へ視線を向けた。


「…酷いじゃないか、ラバ。これほど強力なら、門を普通に開けるだけでもよかった…、わざわざ吹き飛ばすなんて、」


ラバは少し照れくさそうに肩をすくめて、苦笑した。


「まあ、ちょっとした嫌がらせだよ。君だって、わざわざ僕の嫌いな物ばかりこの家に使ってるよね?」


「あの花も、あの壁も、まあ僕には殆ど効かないけどね。」


「それくらい知ってて仕込んでるさ、あなたへの嫌がらせの為にね」

 

アルセとラバのやり取りを見守っていた私の頭は混乱でいっぱいになっていた。

嫌いな物?効かない?嫌がらせ??


てっきり、彼らは仲の良い友人同士なのかと思っていたが、違ったらしい。

殴り合いの取っ組み合いに発展する前に、さてどうやって止めようかと頭を捻っていると、ふらりと体が傾き、地面に落ちる。


この、体が鈍くなったような感覚は覚えがある。どうやら動力が切れたらしい。


「燃料切れを起こしたみたいだね。魔法一つ打ち破れるなら、まあ上出来かな?」


遠くに彼の冷静な声が聞こえたような気がした。

ついに出ましたね、新キャラ。

異形頭要素が薄れ始めてると思ったので、そろそろ人外らしい動きを見せたいなと思っています。

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