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異形頭、職を探す

門番とのやり取りを終え、私は彼とともに街の中へと足を踏み入れた。


石畳の道、立ち並ぶ建物、行き交う人々。そのすべてが私の知るものとは違う、異国の街がそこにあった。


「……すごい」


私の呟きに、前を先導していた彼が振り返る。日に照らされ、いっそう輝きを増した金色が眩しかった。


「気に入ったかい?」


「いえ、まだ戸惑っています。でも、不思議と怖くはないですね。」


この街にいるのは、人間だけではない。門の前で見かけた異種族たちが、当たり前のように溶け込んでいる。私のような存在が受け入れられるかは分からないが、少なくとも完全な異端ではないようだった。


そんなことを考えながら、私はふと、門番の言葉を思い出した。


「ラバさん、さっき門番の方が言っていた"正式なギルド"とは何なんですか?」


道端で立ち止まる訳にもいかず、自然と、街路樹に設置されたベンチの上へ腰掛ける。木製の椅子は二人分の体重を受けて軋んでいた。

だいぶ傷んでいるのかもしれない。


「簡単に言えば、同じ職業の者たちが集まる組織のことだよ。この街には商人ギルドや職人ギルド、それに冒険者ギルドなんかがあるね。」


私の簡素な問いかけにも、彼は丁寧に答えてくれた。冒険者、まさに、ファンタジーの王道とも言うべき存在だ。


「…冒険者、?」


「冒険者ギルドは、仕事を求める者たちが集まって、依頼を受けて街の問題を解決する。害獣駆除や、危険な場所への調査とか…、それに、ギルドの会員になれば、報酬を得ることができるし、街の中でも認められるんだ。」


「認められる?」


私は密かに、胸をときめかせていた。

街の中で認められれば、少しなりとも彼への恩を返せるのではないか、そう考えたからである。


「そう。ギルドに登録すれば、公式に認められた冒険者として、様々な特権を得られる。例えば、依頼の優先権や、街の中での信頼を得やすくなる。」


「なるほど……」


その言葉を噛みしめながら、少しの不安が胸に湧き上がった。


「…冒険者を目指すのは、簡単ではなさそうですね。」


私の小さな呟きを聞かれていたのだろう。彼は頷いていた。


「ギルドに登録するには、まずは実力が必要だよ、君のような異形は特に…、"特別"を求められる」


「特別…、」


異形であるが故に、他より高い水準を求められる、と言うことだろう。

それはきっと、生半可な覚悟では成し遂げられないようなものだ。

この街で"異形"が受け入れられる背景には、そうした活躍が認められているからだろう。


「…まあ、そう焦って決めるものでもないよ。」


あ、と思ったときには、彼の手が私の頭へ触れていた。

髪も、皮膚もない、合成ゴムの冷たい頭を、壊れ物でも扱うみたいに優しく撫でてくれていた。


「ギルドに登録するだけなら簡単だけれど、本当に生きていけるかどうかは全く別の話だからね。特に、君のような異形は注目されやすい。良い意味でも、悪い意味でも。」


「……悪い意味?」


「この街の人々は、異形に対して一定の敬意を持っている。でも、それは"力を持つもの"としての評価であって、決して無条件に受け入れられるわけじゃない。実力を示せば味方も増えるけど、逆に期待を裏切れば、信用を失うことにもなる。」


「……難しいですね。」


「うん。だからこそ、君自身が何をしたいのか、よく考えたほうがいい。」


彼の言葉には、一切の誤魔化しがなかった。それだけに、私は真剣に考えざるを得なかった。

力を持つ者としての責任、それも、望んで手に入れたわけじゃない力への、責任。


「……それでも、試してみたいです。」


不安はある。

でも、それ以上に、この力を…彼の為に役立てたいと思った。


彼はそんな私をじっと見つめていたが、やがて小さく笑い、溜め息をついた。


「やっぱり、そう言うと思ったよ。」


「え?」


「君は慎重そうに見えて、意外と突き進むタイプだね。」


「……そうなんでしょうか。」


「そうだよ。でなきゃ、こんな状況で『試してみたい』なんて言わないさ。」


彼はまるで、面白がるような笑みを浮かべながら私の頭を軽く叩いた。乾いた音が響く。


「ま、君が本気なら止めはしないよ。ただし、ギルドに登録する前に、まずは宿を確保しようか。」


「……ああ、そうですね。」


そうだった。私はまず、この街で寝る場所を確保しなくてはいけないのだ。

けれど、この世界の通貨を、私は知らない。


「……でも、私はお金を持っていません。」


正直に告げると、彼は「ああ、そういえば」と軽く頷いた。


「なら、余計に宿を決めるのが先だね。運よく、安く泊まれる場所を知ってるよ。」


「安く……?」


「まあ、見た目は"ちょっと"危ういけどね。」


「……危うい?」


「行けば分かるさ。」


そう言って、彼は立ち上がる。


私は、彼の言葉に不安を覚えながらも、選択肢がない以上、ついていくしかなかった。

主人公はなんでも施されてばかりの自分が許せないけれど、力がないもどかしさに存分に打ちひしがれています。


頑張って欲しいです。

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