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異形の力事情

夜が明けるまで、私は森の中を走り続けた。


最初は自分の体があまりにスムーズに動くことに驚き、次第にその動きに慣れ、そして最後には恐怖に変わった。

どこまでも続く木々の間を縫うように駆け、転ぶことも、ぶつかることもない。


「…もう、無理……」


次第に、動きが鈍くなるのが分かった。体が重い。いや、体ではない。

私の"動力"が、切れかけている。

足が止まる。自然と詰めていた息を吐き出した。舌を噛まなくてよかった、舌ないけど、なんて思いながら。


彼は少し離れた場所で立ち止まり私の様子を見つめていた。


「そろそろかな、と思ってたよ。」


優しい声とは裏腹に、どこか楽しげな響きを含んでいるように感じたのは気のせいだろうか。


「…どういうことですか?」


膝に手をついて、息を整える。

……いや、そもそも私は息をする必要があるのだろうか?


彼は少し考えるように視線を上げた後、にっこりと微笑んだ。


「君は、エネルギーを消費するんだ。ずっと走っていれば、そのうち動けなくなる。つまり、"燃料切れ"ってわけだね。」


「……燃料?」


私は自分の身体を見下ろした。人間なら食事をしてエネルギーを補給する。しかし、今の私は異形頭だ。普通の物が食べられるとは到底信じられない。

であれば、このまま燃料切れとして、森に転がることになるのだろうか、


「まぁ、その辺りの詳しい話はあとにしよう。まずは食事をしないと。」


彼はそう言うと、手に持っていた獲物を私の目の前に投げ出した。


「……これは?」


「ルスヘン。獣のように走り、鳥のように羽ばたく獣さ、美味しいんだよ。」


あの怪物だ、私を追いかけてきた。いつから握っていたんだろうか、もしかして最初から?

私はふと、森の奥の方へ視線を向けた。


私たちが通ってきたであろう地面は、まるで何か巨大なものでも通過したかのように抉れていた。


「……神様でも、食事…するんですね…、」


もう一生分の驚きを使い果たした気がする。思考がどこか遠くにいくのを感じながら、ふと疑問に思った事を口にした。

彼はくすくすと笑いながら、私の疑問に答えるように言った。


「僕は神様だけど、食事もするし、眠ることもある。まぁ、君が思う神様とは少し違うかもしれないね。」


その言葉に私は驚きながらも、すぐに納得できる自分がいた。彼はただ「神様」という存在ではなく、もっと身近で、人間味を感じさせるような存在のように思えた。


「でも、どうやって食べるんですか?」


私は、ふと興味本位で尋ねてみた。もちろん自分も、食事に関してはまだわからないことだらけだ。私にとって、食べるという行為が果たしてどうなるのかすら謎なのだ。

彼は少し笑みを浮かべながら、ルスヘンの肉を両手で裂いてみせた。


「食べるときはね、こうして力を使って、"食材"のエネルギーを吸収する。君はまだそれを経験していないだろうけど、少しだけやってみるか?」


その言葉に戸惑いながらも、彼が示すようにその肉を手に取り、顔へ近づけてみた。だが、どうやってそれを「食べる」のか、全くわからない。


「えっと、どうやって…?」


私が困惑していると、彼は優しく教えてくれた。


「吸収する感じで、食材に意識を向けるんだ。食べるという感覚を覚えるといいよ。」


そう言われて、私はその肉に意識を集中させた。すると、肉から何か暖かいエネルギーが流れてくるような気がした。気がつくと、手の中の肉は消えていた。


「うん、できてるね。」


彼はそう言って、微笑んだ。その言葉に、私は少し安心した。


「でも、まだ慣れないな…」


もう一つ、肉を手に取る。

顔に寄せる、肉が消える。味はしない、生肉だからなのか、それとも味覚が消失しているのか、わからない。


「そうそう、その調子だ。」


彼は満足そうに頷きながら、私が食事を取るのを見守っていた。そして、その後に続けて言った。


「君も、この世界のルールに慣れていかないとね。食事だけでなく、力の使い方や、この世界で生きるための方法も学ぶ必要がある。」


その言葉に私は、まだまだ分からないことだらけだと感じた。けれど、少しずつでも理解していくべきなのだろう。


「……まず、この世界は、なんですか…?あの、怪物は?」


私の問いかけに、彼は少し考え込み、そしてゆっくりと答えてくれた。


「この世界は、いわば異世界だ。君が知っていた世界とは全く異なる法則が働いている場所。魔法が使えるし、怪物も普通に存在する。君が見たルスヘンは、この世界における動物の一種だよ」


「あれが、動物…、?」


あんな恐ろしい怪物が、この世界ではただの動物だなんて、それに、魔法?

私の"力"も、魔法の一つなんだろうか、


「……ルスヘンのような獣は、本来、滅多に遭遇することはない。」


その言葉に安堵する。つまり、あれは、元の世界における熊やライオンの様なものなのだろう。

とても危険な生き物だが、生きているうちに遭遇する事は、まず少ない。


「本来であればね、」


そう言って、言葉を区切ると、彼は視線を天へと向けた。


「…でも、この世界には予期せぬ事が多い。用心するに越したことはないよ」


「…神様でも、それはわからないんですね、」


意地悪な私の言葉に、彼は一瞬、表情を変えていた。驚き。それもすぐに笑顔の裏に掻き消える。


「…そうだね、どんなに力を持っていても、全てを予測する事は難しい。」


「それが、この世界の面白いところだよ。」


彼はまるで、神様のように笑っていた。

エピソードタイトル、思いつかなくなってきましたね。

次はそろそろ森を抜けて街に行きます。果たして、町の人々の主人公への対応はどっちだ。

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