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3.

 そんなある日のこと。

 フィールデン公爵邸の私の部屋に、突然デレク様とラヴェルナが現れた。挨拶もなく扉を開けズカズカと入ってきた彼らは、侍女たちを下がらせ人払いをすると、ドカッとソファーに腰かけた。

 私はひそかにため息をつくと、渋々向かいのソファーに腰かけた。


「……。一体何のご用でしょうか、デレク様、ラヴェルナさん」

「用があるのはあんたじゃないわ。あんたが着けてる、その指輪よ」


 ふんぞり返るデレク様の横で、ラヴェルナが私に向かってそう言い放った。


「お前、ハミル侯爵家の娘だからそのなんとかの指輪を着けることによって聖なる力を発動して、土地を潤しているんだろう?だが、考えてみればこのラヴェルナだってハミル侯爵家の血を引く娘じゃないか」

「そうよ。あんただけに特別な何かがあるとは思えないわ。その指輪、あたしが身に着けても同じ効力を発揮するはずよね。父がハミル侯爵家の出身なんだから、あたしだってその血を継いでいるわ」


 ……なるほど。

 おそらく二人は私を追い出し、ラヴェルナをこのフィールデン公爵家に引き入れたいのだろう。聖石の指輪だけを奪って、邪魔な私をここから追い出し、結婚する。密会しながらそんな計画を立てたに違いない。


 瞬時にそう察した私は、冷静に答えた。


「あなたでは駄目です、ラヴェルナさん。同世代の女性二人が聖石の指輪の力を引き出した過去はありません。そのことはベイリー伯爵もあなたに話したはずでは?今指輪は私を選んでいるのだから、あなたでは効力を発揮しないはずよ」


 私の言葉を聞いたラヴェルナはハン、と鼻で笑った後、ギロリと私を睨めつけた。


「何を調子に乗ってるのよ。ミシュリーのくせに、偉そうに。孤児になってからうちに引き取ってもらってずっと使用人をやってた女が、公爵令息夫人になってちょっと見た目を整えてもらったぐらいで、何をいい気になってるわけ?あんたにできることは、あたしにもできるの。あんたがあたしより優れているところなんて、何一つないのよ。デレク様だってあんたよりあたしの方が断然いいんですって。……いいから黙ってその指輪を寄越しなさいよ」

「ラヴェルナの言うことを聞け、ミシュリー。さっさと指輪を外して彼女に渡すんだ」


 二人は目の色を変えて私を見据え、そう急かす。その様子に身の危険を感じ、私はさり気なく立ち上がった。……誰かに助けを求めなければ。このまま応じなかったら、何をされるか分かったものじゃない。

 紅茶を入れ直しに行くようなそぶりを見せ、私は一度部屋の奥に向かって歩く。


「……ですから、簡単に外すことはできません。亡き両親からも、ベイリー伯爵夫妻からも、そしてフィールデン公爵夫妻からも口酸っぱく言われておりますもの。聖石の指輪だけは肌身離さず身に着けておくように、と。指輪を着けることによって発動する私の聖女の力をお疑いでしたら……、」

「だから!!一遍試しに外してみろって言ってるんだよ!!それが本当かどうか俺たちで確かめてやるから。お前がそれを外してラヴェルナが着けても領地の状況が変わらないようなら、別にお前じゃなくてもいいだろうが!」

「そうよ!お父様もお母様もあんたがここに嫁いで領地を離れた後、またベイリー伯爵領が荒れはじめるかもしれないって懸念してたけど、結局今もずっとうちは潤ったままだわ!その指輪の力なんか、大した影響力はないってことよ。ならちょっとあたしが着けてみたっていいじゃないの!貸しなさい!!」


 素直に応じない私の態度に激昂した二人はソファーから立ち上がり、こちらに向かってズカズカと歩いてくる。しまった。私は慌てて二人の横をすり抜けて扉へ向かおうとした。


 けれどデレク様はその私の右腕をすばやく掴み、乱暴に捻り上げる。


「あぁっ!い……、痛い……っ!やめて……、は、離してください……っ!」

「ラヴェルナ!指から引き抜け!」

「分かってるわ!押さえてて!」


 ラヴェルナは私の左手首をガシッと掴み、薬指から無理矢理指輪を引き抜いた。そしてそれをすばやく自分の指に嵌める。


「ふふ……っ!やったわ!デレク様、見て!」

「よし。これでしばらく様子を見てみればいい。数週間、数ヶ月経っても何も変化がなければ、この女はただの不要品ってことだ。ラヴェルナ、お前を俺の新しい妻として迎えるよう両親に掛け合うことができる」

「あぁん!嬉しいわデレク様!楽しみよあたし……!見ててね、絶対にあたしでも大丈夫なはずだから。ふふっ。あたし今日から毎日祈り続けるわね、このフィールデン公爵家の繁栄を。聖女らしくね」

「ああ。見た目もお前の方がはるかに聖女らしいしな」


 二人は放り出した私のことなどもう見向きもせず、肩を寄せ合い嬉しそうに部屋を出て行った。


「…………。」







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