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2.

 そんな日々を数年間過ごし、私とラヴェルナが16歳になった頃、私はベイリー伯爵領と地続きの北方に領地を持つ、フィールデン公爵家の令息デレク様との婚約が決まった。

 莫大な資産と領土を保有する公爵家の嫡男と義娘の婚約を決め、ベイリー伯爵夫妻の喜びようはすごかった。二人はこの数年、社交の場でフィールデン公爵に対し、私と聖石の指輪の存在を猛アピールしていたらしい。我がベイリー伯爵家の義娘を迎えてくださればフィールデン公爵家は末永く安泰だと。


「まさかあのフィールデン公爵家と姻戚になれるだなんて!すごいことですわあなた。これで私たちも何の憂いもない生活を続けられますわね」

「ああ。まさか我がベイリー伯爵家があのフィールデン公爵家と縁を結べる日が来るとは……。ここ数年、本当に運が向いてきておるな。ふ……」


 目を輝かせて喜ぶ夫人とともにほくそ笑むベイリー伯爵。ただし、娘のラヴェルナだけはこの上なく不快そうだった。


「どうしてよ!!どうしてあたしじゃダメなの?!ねぇ、お父様!ミシュリーじゃなくてもいいじゃないの!こんなのおかしいわよ!!」

「だから。何度も説明しただろうラヴィ。フィールデン公爵家が求めているのはミシュリーの持つ聖石の指輪、その力なんだ。お前にはお前でいい相手を探していると言っているだろうが」

「く……っ!」


 ラヴェルナが憎悪のこもった視線で私を睨みつける。分かっている。ラヴェルナは私が自分を差し置いて、国内で最も格式高い公爵家へと嫁ぐことが許せないのだ。私は彼女から目を逸らし俯くと、ひそかにため息をついた。


 でも、よかった。婚約が決まったということは、私はいずれこの息の詰まるベイリー伯爵家を出て行けるということなのだから。

 早くその日が来ればいいのに。私はそんなことさえ思っていた。それほどに、この屋敷は私にとって息苦しい、そしてとても辛い場所だったから。




 ところが一年後。フィールデン公爵家に嫁いだ私を待っていたのは、愛の欠片もない惨めな日々だった。

 夫となったデレク様が私を毛嫌いし、自分に近づかせもしなかったからだ。


「クソ……ッ!本当なら俺は王女のうちの誰かを妻に迎えていてもおかしくない立場なんだぞ。何だってこんな、冴えないなりをした伯爵家の養女なんかと……!ついてなさすぎだろ。ったく……。どうせなら実娘のラヴェルナの方がはるかによかった……」


 嫁いだ頃の私は、長く続けた質素な食生活で栄養状態も悪く痩せぎすで、また、手入れなど一切させてもらえなかった肌と髪はボロボロだった。朝から晩まで続く水仕事などで指先も荒れ果て、ひどい有り様だった。

 手入れさえきちんとしていれば、このくすんで傷んだ金髪も、きっと艷やかに靡いたのだろうけど。

 対してラヴェルナは高級な美容液や手入れ用品で体中ピカピカに磨き抜かれており、その艷やかな赤毛も、栗色の瞳も、真っ白な肌も桃色の唇も、どこもかしこも完璧だった。

 格式高いフィールデン公爵家に嫁がせるのならば、せめて数ヶ月前からは私を休ませて見た目をマシにしたりと体裁を整えればよかったものを、あのベイリー伯爵夫妻はそんなこと思いつきもしなかったらしい。そういう機転の利かなさが領地経営のセンスのなさにも繋がっているのだろうか。


 デレク様の要望で、私たち夫婦は当分の間寝室を分けることとなった。表向きの理由はデレク様が公爵領運営の勉強のためとても多忙で、寝室に入るのが遅くなるから、妻には先に別室でゆっくり休んでいてほしいとのこと。でも本音は私とベッドを共にするのが嫌なほど、私を毛嫌いしているというだけの話だった。


 そんななりじゃあまりにもみっともないからどうにかしなさいと公爵夫人に叱られ、公爵家の侍女たちの丹念なお世話の甲斐もあってか、結婚して数ヶ月経つ頃には私も見違えるほどの姿になっていた。


 けれど、その頃にはもうデレク様はラヴェルナと親密な仲になっており、私のことなど見向きもしなかった。







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