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ダンジョン攻略中、仲間に落とされた谷底で待っていたのは、前世で俺が力を託した竜だった!? お荷物と呼ばれていた俺が実は伝説の勇者だったんですが何か問題でも?

作者: 猫兎彩愛

「うわぁぁぁぁーー!」


 もう駄目だ……


 深く……深く落ちて行く……このまま谷底まで……きっと、俺はもう助からないだろう……


 どうしてこうなった? 俺は何か悪いことをしたのだろうか? 後悔ばかりが駆け巡る。もっと、もっと生きたかった。俺だってもっと……



 *



「アゼル、前へ」


 司祭が俺の名を呼ぶ。教会でこれから属性検査と魔力測定を行う為だ。


 この国では、男女問わず皆が検査を受ける。それが16歳だ。この歳になると、ある程度自分の属性が確定し、持っている魔力も測れるという。


 皆が司祭の持っている水晶玉に手を翳す。青く光れば水、赤が火、緑が風、茶が土、黄色が雷、光が白、闇なら紫……というようにそれぞれの属性に合った色が光る。光や闇属性はかなり珍しく、光属性なら将来も安泰だ。


 遂に俺の番になり、ドキドキしながら手を翳すと、白く光った! が、その光は弱かった。しかし、光は弱くとも貴重な属性でとても皆から大事にされる。


 だから凄く嬉しい。弱くても、17歳になる頃には殆どの人が能力を開花させる。そう云われているから、今から楽しみだ。


 司祭も優しく微笑み、


「皆、この少年は光こそ弱いが、貴重な光属性を持っている。きっと、今後力を開花させ皆を幸福に導いてくれるでしょう!」


 教会に居る誰もが拍手と歓声で祝ってくれている。とても気分が良い。


 司祭が今から加護を与えてくれる。白の光を持つ者は聖職者になる者も多く、司祭の目にも力が入っている。


「この少年に祝福と加護を!」


 と、司祭が言い、手を額に翳した瞬間! さっきまで白に光っていた水晶玉が紫に光ったのである。それも光は弱かった。が、闇、だ。それはここらでは悪と言われている。


 こ、怖い。司祭の顔つきもみるみる変わるし、凄く困ってる。


「こ、こんな事は始めてだ! この少年は白だけでなく、紫にも……これは、この紫は闇の属性の証。何と言えば良いか分からないが、これが不吉の始まりで無い事を願うばかりだ……」






 ――二年後、


 俺は18歳になっても、能力が全く開花しなかった。所属しているパーティでも、何も役に立たないお荷物でしかない。そんな俺は、今まさにダンジョン攻略中、崖から落ちそうになっていた。


「助けてくれ!」


 落ちてたまるかと、必死に叫ぶ。


 だが、今までパーティーで一緒に戦ってきた仲間に冷たくあしらわれ、必死に崖を掴んでいる手の片方を踏まれる。しかも、勇者にだ。


 ……な。


「おい、何考えてるんだよ! 助けてくれ!」


 離れそうになった片手を必死に伸ばす。


「は? 何言ってるんだ? お前のようなお荷物。誰が助けるかよ。やっと開放されるんだ。恨むならその力のなさを恨むんだな」


「俺達、仲間じゃなかったのか?」


「最初はな? 弱いが白い光を持つお前が珍しかったし、()()の役に立つと思ってたんだがな。それがどうだ? 2年経ってもお前は弱い。じゃあな! ()()()()()


 必死に掴まっていたもう片方の手を、蹴り上げる。手が離れ、そのままなすすべなく、深い谷へ落ちていく。


 マジかよ! こいつには人の心は無いのかよ。


「うわぁぁぁぁーー!」


 もう駄目だ……


 深く……深く落ちて行く……このまま谷底まで……きっと、俺はもう助からないだろう……


 どうしてこうなった? 俺は何か悪いことをしたのだろうか? 後悔ばかりが駆け巡る。もっと、もっと生きたかった。俺だってもっと……


「生きたいんだよーーっ!」


 叫び声も虚しくただ落ちていく。

 


 ✳



 どれだけ落ちただろうか? 思ったより長く感じられたが、遂に暗い谷底が見え始め、このまま衝突して死ぬだろうな。と、諦め目を瞑った。その時だった! 


 頭の中に、直接語りかけてくるような声がする。


『……この時を待っていた……今こそマナ解放の時……! 我が魂と同化せよ』


 ん? 何だ? マナ?


 不思議な声が聴こえるや否や、身体がフワリと宙に浮き、きらきらと輝く氷の結晶体に包まれる。見た目は凄く硬く冷たそうなのに、包まれている自分は何故だか安心できて暖かい。


 あれ? 俺、今どうなってる? 崖から落ちて、そのまま死んだのか? 衝撃は無かったような気がしたんだけどな。死んだから浮かんでる、のか?


 ここ、死後の世界? 温かいけど、何も無いし、周りも真っ白で何も見えない。


 しばらくすると地に足が付き、今度は真っ暗になった。周りは何も見えない。

 

 どうしたら良いか分からなくなり、頭を抱えてその場に座り込む。今度はさっきとは違い異様に寒い。


 寒くて座り込んでいると、また、あの声がする。


『我が(あるじ)アゼルよ』


「我が主? 誰か居るの? 俺のこと知ってるのか?」


 目を凝らして良く見てみるが、やっぱり何も見えない。考えながらゆっくり立ち、前に進むと、大きな壁の様な物に当たった。


 ん?


 触ってみるとゴツゴツしていて、ひんやり冷たい。


 寒いのはこの壁のせいなのか?


 ペタペタ触っていると、ゴォーっという音とともに強い風が吹いた。暗闇の中で砂埃が舞う。慌てて目を瞑り、暫くしてからゆっくりと目を開ける。


 辺りが少し明るくなっていて、目の前の壁の状態も確認できた。までは良かったんだが、目の前にあった壁に驚いた。


それは、()ではなく、紛れもなく()だった。


「うわぁぁぁぁーー! り、竜!?」


 何で、こんな所に竜が!? 否、いるはずないよな? 竜族はもう絶滅したと言われているし、仮に生き残っていたとしてももう、助からないか。魔力も力もないんだし、ここでジ・エンドだな。


 そんな事を考えていたが、事態は予想外の方向へ。目の前の竜が語りかけてきた。


『我は氷の竜。我が主、アゼル様が来て下さるのをずっと待っておりました』


 やっぱり、竜なんだ。けど、何でこんな所に? けどまぁ何だか好意的な感じだし? 大丈夫かな。


「えと、氷の竜? 俺の事、何で知ってるの? 俺の言葉が分かるの?」


『はい、アゼル様の事は良く知っております。先程、魂の同化が完了しましたので、こうやってアゼル様とお話できます』


 は? 魂の同化って、どういうこと? アゼル様って、そんなに偉くないのにどうして?


 疑問だらけだ。


「えと? 話が出来るのは分かったんだけど、魂の同化って? 何で、俺に様なんて付けるの? それと、君は誰?」


『我の名はジーヴェル、アゼル様は恩人でございます。我はアゼル様が生まれた時から、この日をずっと待ち望んでいました。アゼル様が竜の谷底(ここ)に来られることを信じて。500年前の約束を、アゼル様から預かっていたこの力を返す為に』


「話が全然見えないのだけど? 500年前の約束? 誰かと勘違いしてない?」


『勘違いではございません。勘違いであれば、我が魂と同化できるはずがございませんし、こうやって心に話しかけても反応は無いはずです』


 そんな事言われてもな。500年前なんて生きているはずないし。


「俺、まだ18だよ? 500年前なんて生きてるわけないじゃん」


『覚えてらっしゃらないのですね。()のアゼル様ではなく、以前のアゼル様との約束ですよ。500年前のあの日、我々竜族を救って下さった勇者様。それがアゼル様です』


 前世の俺って、勇者だったの!?


「竜族を救ったって、凄い話だよな? けど、信じられないんだ。何せ俺は落ちこぼれだ、お荷物だ。仲間(パーティー)からも要らないと言われ、谷底に落とされたくらいだからな」


『何と!? では、アゼル様は我の言葉を聞いてこちらに来られた訳ではなく、谷底(ここ)に落とされたのですか?』


 ジーヴェルは、目を見開いて俺を()()()()()()()


「そうだよ。悪かったな、俺には言葉なんて聞こえてなかったんだ。だから、人違いだよ」


 すまなそうにしているとジーヴェルが焦りだし、謝ってきた。


『アゼル様、申し訳ありません!』


「え、えぇ? 何、どうしたの? 何故謝る必要がある?」


『我の考えが甘かった様です。アゼル様の力が、(ここ)にあるとはいえ、伝説の勇者様の生まれ変わり。ですので、力がなくとも我を見つけられると思っておりました』


「俺には何の能力もないよ。属性検査では光と闇の両方の淡い光が出たけれど、それから全く能力の開花もせずに弱いままだしな……」


 自信なくボソボソと呟くと、ジーヴェルが嬉しそうな声で話しだした。


『光と闇! それこそが勇者様の証ですよ! 力が弱かったのは、我がその力を持っていたからです。さぁ! アゼル様、こちらへ。我の上へ乗り、額へ手を当てて下さい』


 そう言った後、ジーヴェルは屈んで頭上に乗るよう促す。恐る恐るジーヴェルの頭上に乗り、額に手を当ててみると、眩い(まばゆい)光がジーヴェルと俺の身体を包み込んだ。それと同時に物凄い量の映像が頭に流れ込んでくる。


「何だ? 何だか凄く力が(みなぎ)ってくる。それにこれは何だろう? 誰かの記憶? 否、懐かしい俺の記憶だ」


 全部思い出した。気が付くと、大粒の涙を流して泣いていた。


『アゼル様? 大丈夫ですか?』


「ああ。ジーヴェル、全て思い出したよ。良く護ってくれていたな。あんなに辛いことがあったのに。それに君は光の竜だったけれど、力を封印する為、氷の竜として護ってくれてたんだな。光だと目立ちすぎて、ずっと飛んでなくてはならなかったから……」


『アゼル様……そのお言葉だけで十分です』


「ジーヴェル? 復讐、したくないのか? 竜族を滅ぼそうとしたのは……悪いのは、人間たちだ。俺だってその一人だ」


『アゼル様、もう良いのです。それよりも、自分勝手な理由でアゼル様を突き落としたパーティーの人達が許せません』


 ジーヴェルは自分のことじゃなく、俺が受けた仕打ちを怒ってくれている。それだけで、救われる気持ちだ。


「ははっ。ジーヴェル、怒ってくれてありがとう。そうだな? あいつ等にはちょっと痛い目見てもらわないとな。この国で強い勇者のパーティーだからって、街でタダで豪遊もしてる。止めろって俺がいくら言っても聞かなかったしな」


『そうですよ! アゼル様を馬鹿にした奴らに天罰を』


 ふんす。と怒ってるジーヴェルが、可愛い。


 さて、これからどうするかな。


「俺はこれから地上に戻るけど、ジーヴェル、お前はどうしたい? って言っても、一緒には来れないよな。お前は目立ち過ぎる」


『その事なんですがアゼル様、もしよろしければ、我を使い魔としてお供させていただけませんか?』


「使い魔か。俺が呼んだら、出て来る様にするのか? でも、どうやって?」


 普通使い魔は、ある程度魔力を得た時点で教会に呼ばれ、召喚魔法を使い、司祭のもとで召喚する。俺はいつまでも弱いままだったから、なかなか教会にも呼ばれなかった。やっと呼ばれたと思ったら、やっぱり魔力が足りず、馬鹿にされ、その後試してはいない。


『その様にも出来ますが、これではどうでしょう?』


 言うや否や、ポンっと音がして目の前のジーヴェルが居なくなる。


「あれ? ジーヴェル、何処行った?」


 さっきとは違い、声が直ぐ近くの足下で聞こえる。


「こちらですよ、アゼル様!」


 そこには、肩に乗れるサイズになったジーヴェルがいた。


「はは。ジーヴェル、可愛いな。よしっ! それで行こうか」


 ジーヴェルは頷き、パタパタと飛んで肩に乗る。可愛くて、それに嬉しそうにしているから、こっちまで嬉しくなる。


「アゼル様、行きましょう!」


 このダンジョンは、勇者御一行様(あいつら)が、また攻略するだろうから、ダンジョンは出るか。


 ダンジョンを後にし、ジーヴェルと一緒に街へ向かう。教会にもう一度行く為に――



 ✳



「もう、行っても無駄だと思ってたんだがな」

「アゼル様の強さに皆、驚きますね。見せつけてやりましょうよ!」


 ジーヴェルは肩にでピョンピョン跳ね、何だか嬉しそうだ。けど……


「ジーヴェル、俺は力を見せつけに行くわけではないよ。ただ、この国でマナを使えるもの、魔力を生み出せるものとして、認めてもらうためだ。この光の力があれば、聖職者にでもなれるだろうからな」


 そう言うと、ジーヴェルは少し残念そうに、けれど、照れながら言う。


「そういう所、昔からから変わらないですよね。自分の力を絶対に過信せず、威張ることもしない。まぁ、だから好きなんですが」


 ジーヴェルは、本当に可愛い奴だ。


「ありがとうな。そうだよ、俺は平和で居たいんだ。いつだって、余計な血は流したくない……」


 そうこうしているうちに、教会の前に着いた。ゆっくり扉を開いて、叫ぶ。


「司祭様、お久しぶりです!」


 声に反応し、奥から声が聞こえた。司祭だ。


「その声はアゼルかな? どうした? お前は勇者殿の御一行と一緒にダンジョンに出かけたのではなかったかな? それがどうした? こんな時間に……」


 と、言いかけてた所で、司祭は俺の姿を見て目を丸くして言葉を詰まらす。


「それが、色々ありまして」


「……」


「司祭様?」


 呼びかけると、はっとしたように話しだした。


「すまない、少し驚いただけだ。アゼル、その肩に乗っているのは何だ? それと、何だか凄まじいオーラを君から感じるのだが、何かあったのか?」


「この子は使い魔のジーヴェルです。あのダンジョンで出会いました。それから、パーティーは追放されました」


「そうか。まぁ、君はなかなか能力も開花しないし、勇者殿もそうせざる終えなかったんだろう」


 話を聞いていたジーヴェルが肩から飛び降り、敵意剥き出しで司祭を威嚇する。


「ガルルルルッ。何だこいつ、偉そうに。()()()()の前だぞ」


「ひぃ! あ、アゼル、この使い魔を何とかしてくれ!」


 ジーヴェルを、抱えてなだめる。


「こらジーヴェル、司祭様はまだ何も知らないんだ。否、知っていたとしても、司祭様を威嚇なんかするな。悪い人じゃない。俺もこの人にはお世話になっているんだ」


 司祭は、能力の開花しない俺を心配して気にかけていてくれ、旅の前にはいつも、加護をしてくれた。


 ジーヴェルは少ししゅんとなって、ペコっと司祭にお辞儀をする。


「ごめんなさい」


 司祭は軽く咳払いをし、ジーヴェルに真っ直ぐ向き合い、ジーヴェルを撫でる。


「ん、まぁ、主人を護るのも使い魔の努めだからな。うん、良い目をしている。アゼル、良いパートナーを見付けたな。さぁそろそろ、話を聞こうか」


「はい。実は……」


 ここまでの経緯を司祭に話す。司祭は頷きながら真剣に聞き、話が終わると俺の前に膝まづいた。


「アゼル……否、アゼル様、これまでのご無礼をどうかお許し下さい」


「そ、そんな司祭様、顔を上げて下さい。俺は何も変わりませんよ? 伝説の勇者とはいえ、今はただ、マナ()が戻ってきただけです。変わらずアゼルとお呼び下さい、司祭様?」


 そう言うと、司祭は少しホッとしたような、優しい顔で見つめてきた。


「アゼル、君は本当に優しい心の持ち主だ。ジーヴェルも君に心を許すのが分かるよ。光のオーラに包まれているのも納得だ。珍しい闇のオーラもあるが、色がとても綺麗だ。闇を纏っていたとしても、わしからは何も言うことはない。それにしても、勇者が谷底へ突き落とすなんてあってはならない事だ」


 司祭は頭を抱えている。


「司祭様、それで、あの……俺のマナの証明をお願いしたいのですが」

「そうだったな、すまん。アゼル、前へ」

「はい」


 司祭が額に手を翳すと、また、凄まじい光が放たれる。暫くすると、額に光の文様が現れた。


「これで、証明は完了だ。凄い力だな、今までが嘘みたいだ。これから行く先々で証明を命じられたら、証明の石に手を翳すと良い。そうすれば文様が現れる」

「ありがとうございます。これで、旅もしやすくなります」


 そう答えると、司祭は何だか難しそうな顔をしていた。


「今の勇者様御一行も君みたいに心が綺麗なら言うことが無いんだがな。あ奴らは確かに強い、強いが、かなり自分勝手だ。戦いで村や町がダメージを受けようが、気にしたりもしなければ、何も無い所にまで報酬を要求するようになった」


「そうですか。まだ、あいつらはそんな事を。あれは俺も何度も言ったのですが、なかなか聞き入れてもらえませんでした。俺にも責任はあります。すいません」


「アゼルが謝ることではない。人間性の問題だろう。どうしたものかと思ってるのじゃ」


 確かに、このままあいつ等の好きにさせておくわけには行かないな。


「司祭様、提案があるのですが」


 俺は奴らを懲らしめる事にした。





 さっきのダンジョンがあった村にやって来た。先程とは違い、静かだ。


 勇者御一行(あいつら)がダンジョンクリアしたかな。しかし、良かった。俺の光魔法も効いて、村の近くに居た魔物もいなくなってる。


「流石、アゼル様ですね! 魔物の気配が全くなくなってます」

「そうだな、これで村の人達も静かに暮らせるようになると良いのだが」


 その時だった。村の酒場から罵声が聞こえてきた。酒場へ急ぐ。


「行こう! ジーヴェル!」

「アゼル様、殺ってやりましょう」


 ジーヴェルの目に力が入る。殺る気だ……ちょっとなだめておかないとな。


「ジーヴェル? ちょっと落ち着こう。程々にしような? くれぐれもいきなり殺るなんてダメだぞ?」

「分かりましたアベル様、程々に()()()()。」


 ジーヴェルの言い方に、少し不安はあったがそのまま俺達は酒場へ入った。すると、村娘に言い寄る勇者の姿が。


「良いじゃないか。俺達のお陰でこの村に平穏な日が訪れたんだ。村の周りの魔物も居なくなったろう? これくらい許せ。後、酒もたらふく持って来い!」

「止めて下さい! 私には婚約者もおります。この様な事は……それにもう、食料も余りありません」


 ったく、あいつは変わらないな。村周りの魔物ら俺が消したんだがな。まぁ、流石に気付いてないか。


 勇者一行の前まで行き、今すぐ止めるように言う。


「おい! 止めろ! 嫌がってるだろ?」

「あん? 誰だ? ……って、お前、お荷物のアベルじゃね? くたばってなかったか」

「悪いな、俺は生きてる」

「って、お前、口の聞き方には気を付けろよ? 今のは以前の同じパーティの仲間だった奴として多めに見てやる。しかし、次はないぞ? って、肩に乗ってるのは何だ? トカゲか? 間抜けな顔してるな。お前にピッタリだ」

 

 今の勇者の言葉にジーヴェルはキレそうだ。


「アゼル様、殺って良い?」

「落ち着け、ジーヴェル。気持ちは分かるが」


「ジーヴェルは、竜だ。()()()()()()? もう、こんな事は止めろ。これ以上すると、俺も流石に止めないといけない」

「はぁ? 竜だって? 竜族は絶滅したって知らないのか? まぁ良い、それよりお前、口の聞き方には気を付けろって言ったよな!!」


 勇者が俺にめがけて槍を投げてきた。それを素手でキャッチする。


「ったく、危ねーな。俺は忠告したぞ? 覚悟しろよ。勇者、否、勇者の皮を被ったリムア!」

「は? お前、素手で……っと、何だよ! お前の手の上にある光の玉っ! こうなったら、ファイヤーッ!」


 まぁ、一筋縄ではいかないわな。勇者(こいつ)の属性は火、だったな。それじゃあ……


「ジーヴェル、任せた!」

「はいっ! アゼル様っ!」


 生き生きとしたジーヴェルは、口から吹雪を出して火を掻き消し、リムアの下半身を凍らせる。


「ジーヴェル、良くやった! リムアもちゃんと生きてるな」

「アゼル様っ! お役に立てて嬉しいです」


 ジーヴェルは嬉しそうに跳ねている。


 ジーヴェルの攻撃を喰らい、元勇者? のリムアは完全に怯えている。


「後は……この光の玉は、お前を懲らしめる為のものだよ」


 光の玉から蔓を出し、リムアを縛り上げる。


「は、離せよ!」

「何だ? 反省したか?」

「……っ、誰が反省なんか。俺は何も悪いことはしてない! それに何だよっ! いきなり強くなるなんてずるいぞ!」

「そうか……覚悟はできてるんだなっ!」


 リムアが死なない程度に電流を流す。


「アゼル、悪かった。悪かったよ……もうしないから下ろしてくれ。お前の力ももう、分かったから。抵抗しない……」


 リムアはもう、抵抗する気力も無いようだ。仕方なくゆっくりと、リムアを下ろしてやる。


「これに懲りたら自分の力を過信して、酷い事するなよ? ()()は本来、人々を守るためにいるはずだ」





 こうして、勇者一行を懲らしめることが出来た俺とジーヴェルは街に帰ってきた。魔王が現れたらしい。


 力の戻った俺とジーヴェルの旅は今、始まったばかり。これからどんな冒険が待ち受けているかと思うとワクワクする。俺達は魔王討伐に向けて、新たな仲間を探して旅に出るのであった――――




――Fin――

猫兎彩愛です☆ここまで読んで下さり、ありがとうございました(◍•ᴗ•◍)

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― 新着の感想 ―
忠犬ならぬ、忠竜のジーヴェルが可愛いです。仲間に恵まれなかったアゼルが、今後、素敵な仲間と出会えるといいなーと思いました。
[一言] 使い魔の竜との掛け合い含め、いわゆる会話劇になっていないのが上手いです。 必要最低限ではあるものの、周囲の描写や能力の判定シーン、クズ勇者の振る舞いなどの要素もしっかり入ってるのがいいですね…
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