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【セシャトさん企画】聖火リレー小説【第六走者】

作者: 赤羽学

 みんな、真面目だなァ……。前後に並ぶ列を見渡して、そう独り言ちる。え、僕? 昨日付けで無職になりました、先行き不透明なアラサーです。


 なんで仕事辞めたのかって? それは……長年の夢のためさ。『日本一周旅行』が僕の小さい頃からの夢なんだ。


 僕が小さい頃、テレビで見たヒーローがさ、旅人だったんだ。で、とっても楽しそうで、何よりカッコ良かった。だから憧れたってわけ。


 中学生の頃から親戚のコネ使ってバイトして、高校に入ったら飲食店でめちゃくちゃシフト入れて荒稼ぎして、大人になってからは昨日までいた会社にずーっと勤めてて、車も免許も全部自分のお金で買って、ローンも払い終えて、旅費も十分作れたから……満を持してってワケ。



 この時を、ずっと待っていた。



 見慣れた時計を部屋に残して、朝一で家を飛び出した。この家も今日付けで僕の物じゃなくなる。だから私物は残していない。置いてきた時計は昔からこの部屋にあったのだ。今時流行らない振り子式の、所謂『大きなのっぽの古時計』ってやつだ。


 中古で買った総額50万ちょっとの軽自動車(あいぼう)に少ない荷物を詰め込んで、住み慣れた街を離れる。下道で北へ向かって約10時間のロングドライブ。ゆったりまったり……のはずが、なんと平日昼の、しかも火曜日だというのに大渋滞にハマってしまったのだ。

 どう見たって遊びに行く、或いは遊びから帰って来た感じではない。みんな真面目なのだ……。そうとも、普通は今日は仕事で、しかも通勤ラッシュの時間帯だ。有給消化の間の準備期間のせいですっかり忘れてた。割と長く経験しているはずなのに……。旅が楽しみすぎてどうやら思考能力が落ちてたみたい。


 こんなところで待ちぼうけ食らっても仕方ない。本線を外れて脇道へ脇道へと車を走らせる。すると、小さな公園を見つけた。こんなところにあったっけ? でもそこそこ涼しい風が吹きつつ快晴の空の下の芝生なんて見たら、やりたくなってしまった。


 憧れの一つ。昼寝。


 僕は小学校卒業までは毎日遊び回ってたし中学高校社会人は昼寝してる暇なんて無いほど働いていたしで昼寝ってものをしたことがなかった。これはもうやるしかない。


 車を路肩に停めて公園に入ると、一人の女性がベンチに座っているだけで後は誰もいないようだ。これならよく寝れそうだ。


 適当な所に仰向けで大の字になって目を閉じる。自分の中の色という色が消えていき、ガラスのように透けていく感覚。すると面白いように眠気に襲われて意識が浮かび上がる。何も考えられない。心の中は線香花火のような静かな、しかし確かな希望が爆ぜている。まずは夢の世界を旅するとしようか。


 



 無色透明でふわふわと……まるで今の僕は、そう。

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