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幸せになる

アンリエッタ視点です。

「実は明日、テミノルデから皇太子が来ることになっていてね。その時に返事が欲しいと急かされたんだが、拒否の方向でいこうと思っている。だから、アンリエッタは気にしないでジェイクと仲良くしてほしい」

「いえお父様、冷静に考えましょう。国益を損ねてはいけないと思います。白魔法師も騎士達も、毎回無傷というわけではありませんから、聖女を召喚して瘴気溜まりを浄化していただくのが一番良い方法と思います。だから私、テミノルデへ嫁ぎますわ」 


 このチャンスを逃したら、あの世へ一直線のような気がする。

 教会への予算を全額カットするかどうするか、それはこれから次第だ。

 

「アンリエッタ、早まらないで良いんだよ。お前にはジェイクがいる。二人の仲睦まじい姿は、国民も知るところだ。私はお前を捧げ物にするつもりはないよ」


 今まで記憶が押寄せなかったせいで、私はジェイクと仲が良い。二人は王都でデートとかよくやっている。(護衛はたくさんついているけど)

 街の者たちが、皆温かく見守ってくれていたのは知っている。でも、婚約解消の為には、仲良しなんてやってられない。どうせあの男は浮気する。そうなってからでは全てが遅い。

 

「お父様、ありがとうございます。でも、きっとジェイクもわかってくれます。そうだわ、召喚した聖女をジェイクの婚約者にするのはどうでしょう。公爵令息ならば聖女のお相手でも不都合はないかと」

「アンリエッタ、お前はそれで良いのか?辛くないのか?」

「お父様、私はそれが一番良いと思います」


 そう、それが一番良い。王命で公爵令息と聖女の婚約だ。過去のように、解消だ、破棄だと揉めずに終われる。

 私は力強く説得した。

 お父様は悲しそうな顔をしながら、『お前がそれで良いのなら』と部屋を出ていった。

 私は心の中で両手を高々と上にあげ、よーし!と叫んでいたけど、そんなことは表に出さず、静かに侍女へ新しいお相手のことを聞いた。


「テミノルデの皇太子って、どんな方なのかしら」


 今、部屋の中にいる侍女やメイド達は葬式みたいな雰囲気だけど、侍女のナナカが目に涙を湛えながらも気丈に答えた。


「アンリエッタさまと同じお年の十五歳で、才色兼備、文武両道と噂のお方です」


 あら?思いがけずアタリじゃないかしら。

 浮気男と綺麗に別れて、才色兼備、文武両道と結婚なんて、願ったり叶ったり。

 よし、教会への予算は五割減にしておこう。

 あとは会ってみないとわからない。

 私は明日到着するテミノルデ御一行を待つことにした。



 テミノルデ御一行は、十時過ぎに到着した。

 勿論、私も学園を休んでお出迎えした。

 立派な紋章のついた馬車から降り立ったのは、背が高く肩幅が広い、騎士のような体型の金髪碧眼、お顔の造形も整った、一言で言えばいい男だった。

 テミノルデの皇太子、カイレン・テミノルデは、国王と王妃へ挨拶の後、私の手を取り『この日が来るのを長い間夢見てきました』と言い、指先にキスをした。

 随分とませた男だな、と思ったけど、十五歳ならそんなふうに口説き落とす練習でもしているのか、と少し笑えた。

 ふわり、と微笑んで『随分とお上手ですわね』と言うと、『嘘偽りなく、あなたをずっと求めてきました』と切なそうに言われた。

 

 

 昼食をはさんで、午後は親交を深めなさいと言われ、二人で城の庭でお茶を飲んでいた。

 私は色々聞きたいことがある。

 失礼にならない程度に、情報を引き出そうとあれこれ考えながら話をしていた。

 

「カイレン様は、文武両道とお聞きしました。実際にお会いして、素敵な方だと驚きましたわ。でも、婚約者はいらっしゃらなかったのですか?」

「私は八歳の頃から、ずっと結婚するならあなただと父に伝えてきました。あの日から七年。でも、それ以上の年月をあなただけ見つめてきました」

「···?···七年。それは長いですね」

「ええ、かなりの年月、一方的にあなたを求めて試行錯誤していました。でも、いつも遅れを取っていた。ですから、今回は早めに動きました」


 なんだか話が大袈裟な気がする。

 それに、この方はいつ私の存在を知ったのだろうか。


「不躾なことだと承知の上でお聞きします。以前、どこかでお目にかかったことがありますか?」


 カイレン様は、懐かしそうに目を細め、遠くを見ながらポツリポツリと話し始めた。


「あなたを初めて見たのはもう随分前、あなたがある子爵令嬢だった時です」


 私が子爵令嬢だった時。

 それは記憶として残る一回目の人生の時。

 ドキリとしてカイレン様を見つめた。


「あなたはある男爵令息と婚約していた。ところが、あなたはその男に浮気をされ、相手の女に殺されました。私はその時単なる子爵家嫡男で、何の力もなく、あなたが悲しみの中死んでいったことを、翌日になって知りました」


 合っている。私の記憶と合致している。

 その子爵令息が誰なのかわからないけど、きっとこの方は、私を見ていたのだろう。

 カイレン様は、驚いている私の手を取り、そっと優しく両手で包んでくれた。


「私はその時、あなたと同じ年で、隣のクラスでした。あなたの家と同じ爵位なので、あなたの婚約が解消されたら婚約を申し込もうと思っていた矢先に、あなたが亡くなったとの知らせを受けました」


 カイレン様は私の目を見ながら、優しく優しく話してくれる。


「その次はあなたが伯爵令嬢だった時。同じように私も伯爵家嫡男で隣のクラス。そしてあなたの隣には、あの男が婚約者としていました。私は迂闊にも、今度こそあの男はあなたを幸せにすると思ってしまいましたが、悲しい結果でした。その次は、あなたが侯爵令嬢の時。私も侯爵家嫡男で、まあ前と同じです。ただ、侯爵家嫡男というのは少しは親の権力を振りかざすことができるので、あの男が浮気をする前にあなたを奪おうと動きました。しかし、あなたはあの男を好きだったのでしょうね。浮気をされるまで、あなたはずっとあの男に寄り添っていた。私は悔しかった。あなたは裏切られて殺されるのに、と」


 私はカイレン様を呆然と見ていた。

 この方も私と同じだけ生を繰り返している。

 そして、私のために動いてくれている。

 もしかすると、今回の皇太子妃の話は──


「三回、立場は違えど同じことを繰り返してきました。今回、私は皇太子の立場。きっとあなたはどこかの国の王女だろうと探しました。いえ、すぐに見つかりましたけどね。八歳の時にあなたを見つけ、どうにかしてあなたと縁を結びたいと考えました。そして、その時たまたま瘴気が彼方此方で増えつつあることに気が付きました。これは、遅かれ早かれ聖女を召喚する日が来る。聖女召喚の際には、あなたの国から召喚師の要請が我が国へ来るのは必然。そして、今回の浮気相手の女は聖女なのだろうと予想しました。それならば、あなたが十六歳になる前にあなたを求めようと。今の私の立場ならそれが許されます」


 カイレン様は、『信じてくださいますか?』と少し困ったような表情でこちらを見る。

 こんなことがあるなんて。

 私はカイレン様を見て、ただ呆けていた。

 カイレン様は私の眦をそっと指でなぞる。

 私、いつの間にか泣いていたのね。


「カイレン様、どうか私を助けてください。私は、私は──」

「アンリエッタ様、ただ一言、カイレンの妻になると言ってください。私があなたを守ります」

「ああ、カイレン様、私を、どうか私をあなたの妻にしてください」

「アンリエッタ、約束します。必ずあなたを守り抜きます。私はその為に剣技も努力してきました。あなたは私の隣にいてください。アンリエッタ、やっとあなたに伝えることができる。あなたを愛しています」


 

 

 二ヶ月後、聖女は召喚された。

 召喚一ヶ月後に、聖女は浄化の旅に出たが、その際、護衛としてジェイクが指名されていた。

 その時はまだ、アンリエッタとジェイクの婚約は解消されておらず、聖女が浄化の旅に出るまで二人は仲良く街を歩いた。

 聖女はこの国のみならず周辺国も浄化して歩く。それは長い日数を要した。

 やはりというのか、護衛として聖女の側にいたジェイクは、聖女に手を出し子を孕ませていた。

 聖女を孕ませるという事実は隠すことはできず、ジェイク・カヤルナーデ公爵令息はアンリエッタ王女と婚約中にも関わらず聖女に手を出した最低な男として噂が広まり、二人はひっそりと結婚をし、公爵領からは出ない日々を送ることになった。

 一方、傷心のアンリエッタ王女と王女を慰めていたカイレン・テミノルデ皇太子は、いつしか思い合い、政略的なものではない幸せな結婚をした。


 カイレンは皇帝となってからも、アンリエッタを常に側におき、カイレンが八十歳で亡くなった翌日、その命の灯火が消えるのを確認するのが使命だったかのように、アンリエッタも亡くなった。

 二人とも穏やかな笑顔で、永遠の眠りについていた。




読んでいただき、ありがとうございました。

次話はカイレン視点です。

★やブクマ評価、もう色々ありがとうございます。

感激しています。

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